宇宙から直接スマホに電波を届ける時代へ――AST SpaceMobileとVerizonの画期的な契約
はじめに
2025年10月8日、衛星通信業界に大きなニュースが飛び込んできました。AST SpaceMobileが米国最大級の通信キャリアであるVerizonと正式な商用契約を締結したのです。この契約により、2026年から米国全土で宇宙から直接スマートフォンに通信サービスを提供することが可能になります。
今回のニュースを受けて、AST SpaceMobileの株価は15%以上も上昇しました。年初来では250%以上の上昇を記録しており、市場からの期待の大きさがうかがえます。
AST SpaceMobileとは?
AST SpaceMobileは、テキサス州ミッドランドに本社を置く衛星通信企業です。創業者でありCEOのアベル・アベラン氏は、もともとスウェーデンの通信大手エリクソンで働いていた経験を持ち、1999年に衛星ベースの通信サービス企業を創業した実績のある起業家です。
この企業の最大の特徴は、「特別な機器を必要とせず、普段使っているスマートフォンで直接衛星通信ができる」という点にあります。従来の衛星通信は専用の端末が必要でしたが、AST SpaceMobileは既存のスマートフォンをそのまま使えるのです。
現在、軌道上には6基の衛星があり、うち5基が完全に稼働しています。そして2026年までに45~60基の衛星を展開する計画が進行中です。
Verizonとの契約がもたらすもの
今回のVerizonとの正式契約は、2024年5月に発表された1億ドルの戦略的パートナーシップをさらに発展させたものです。契約の核心は、Verizonの850 MHz帯域という「プレミアムな低周波数帯」を宇宙経由で利用できるようにすることにあります。
低周波数帯は、建物の中や山間部でも電波が届きやすいという特性があります。AST SpaceMobileの創業者アベラン氏は「Verizonの850 MHzスペクトラムの範囲を、宇宙ベースのブロードバンド技術の遍在性が役立つ米国の地域にまで拡大します」とコメントしています。
つまり、従来の地上基地局では電波が届きにくかった山間部やハイキングトレイル、さらには都市部の建物の中でも、宇宙から直接電波を届けることで「どこでもつながる」環境を実現しようとしているのです。
実証実験で証明された技術
AST SpaceMobileの技術は、すでに実証実験で成功を収めています。最近の実験では、テキサス州のVerizonネットワークに接続されたスマートフォンから、軌道上のBlueBird衛星を経由して、ニュージャージー州の別のVerizonスマートフォンへ、クリスタルクリアな音声通話(VoLTE)を実現しました。
さらに、ビデオ通話や双方向のRCSメッセージングにも成功しており、単なる音声通話だけでなく、データ通信も十分に実用的なレベルに達していることを示しています。Verizonのテクノロジー&プロダクト開発担当シニアバイスプレジデント、スリニ・カラパラ氏は「私たちは単に地図の空白を埋めるだけでなく、デジタル時代の可能性を最大限に引き出す新しい接続性のパラダイムを創造しています」と述べています。
野心的な衛星展開計画
AST SpaceMobileは、2025年から2026年にかけて平均1~2ヶ月ごとに衛星を打ち上げる計画を進めています。2025年の後半には、AT&TとVerizon向けのベータサービスを米国で開始し、2026年初頭には欧州、日本、その他の戦略的市場でも本格的な商用サービスを展開する予定です。
同社のBlueBird衛星は、低軌道に展開された商用通信アレイとしては史上最大級のものです。これにより、最大120 Mbpsのピークデータ速度を実現し、ビデオ会議なども快適に利用できる環境を目指しています。
さらに、AST SpaceMobileはスペクトラム戦略も拡大しており、60 MHzのグローバルS-Band周波数優先権の取得や、米国とカナダでの最大45 MHzのL-Band周波数へのアクセスも確保しています。
ビジネスの現状と将来性
財務面では、AST SpaceMobileは2025年下半期に5,000万~7,500万ドルの収益を見込んでいます。これは政府契約、通信事業者向けのゲートウェイ機器の設置、そして初期サービス収益の組み合わせによるものです。
また、2025年7月には5億7,500万ドルの転換社債を発行し、資金調達にも成功しています。2025年6月30日時点で、同社は15億ドル以上の現金および現金同等物を保有しており、衛星展開計画を完全に資金面でサポートできる体制を整えています。
同社は現在、AT&T、Verizon、Rakuten、Vodafoneなど50以上の携帯電話事業者とパートナーシップを結んでおり、これらの事業者が持つ顧客基盤は合計で約30億人に達します。
まとめ:接続性の未来
AST SpaceMobileとVerizonの今回の契約は、通信業界における大きな転換点となる可能性を秘めています。山間部や離島、災害時など、従来の地上ネットワークでは対応が難しかった場所でも、普段使っているスマートフォンがそのまま使えるようになるのです。
50億人の既存モバイル加入者が抱える接続性のギャップを解消し、まだインターネットに接続できていない数十億人にもブロードバンドをもたらすという同社のミッションは、着実に実現に向かって進んでいます。
2026年のサービス開始が今から楽しみですね。宇宙から直接スマホに電波が届く時代が、もうすぐそこまで来ています。
参考記事
〇AST SpaceMobile Announces Definitive Commercial Agreement with Verizon to Support Space-Based Cellular Broadband Across the Continental United States(2025年10月8日)
〇Verizon signs deal with AST SpaceMobile to provide cellular service from space. AST shares surge(2025年10月8日)
〇AST SpaceMobile Provides Business Update and Second Quarter 2025 Results(2025年8月11日)
〇AST SpaceMobile ramping up launches ahead of beta service this year(2025年5月14日)
〇AST SpaceMobile Provides Business Update and First Quarter 2025 Results(2025年5月12日)
〇AST SpaceMobile to put another 60 satellites into orbit in 2025-26(2025年5月13日)
