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周波数帯の再配分——EUが「非EU事業者は3分の1だけ」を宣言した

スマートフォンが地上の基地局を介さずに衛星と直接通信するD2D(Direct-to-Device)の競争が、ここ1〜2年で世界的な広がりを見せています。日本では2025年4月にKDDIが世界初のスマホ-衛星間データ通信を実用化しました。以前の記事でも取り上げたように、楽天モバイルとAST SpaceMobileの低軌道衛星によるビデオ通話実証もすでに成功しています。

その技術を下支えするのが周波数帯です。2026年5月27日、欧州委員会(EC)は衛星携帯サービス(MSS)向けの2GHz帯について、新しい割り当て方針を公表しました。2027年5月に期限切れとなる免許の更新にあたり、「非EU事業者が使えるのは全体の3分の1まで」という枠組みを設けるというものです。

2GHz帯の現状と2社の立場

この帯域は2009年以降、2つの米国企業が欧州全域での使用権を持ってきました。現在のViasatと、SpaceXへの売却手続きが進んでいるEchoStarです。

Viasatは「European Aviation Network(EAN)」にこの帯域を使っています。衛星と地上中継局のハイブリッドで機内ブロードバンドを提供するシステムで、欧州の主要エアラインとの契約基盤になってきました。

EchoStarはSpaceXへのスペクトラム売却を進めており、米国ではFCCが2026年5月に総額約200億ドル規模の取引を承認しています。SpaceXはこの帯域を使って次世代「Starlink Mobile」を展開する計画で、最大1万5千機の衛星によるスループット20倍のサービスを構想しています。

ECが設計した「3枠」

今回の提案は、この帯域を3つの等ブロックに分けます。

1つ目はIRIS²との統合を前提にした政府通信専用枠で、EU事業者のみが使えます。2つ目は「EU市場に参入する欧州商業事業者」向けの枠で、こちらもEU拠点企業限定です。SpaceXやViasatのような非EU事業者が応募できるのは、残る3分の1のブロックだけです。

これまで事実上フルオープンだった競争が、「3分の1競争」に変わります。数字の落差はなかなか大きいです。

SpaceXに生じる現実的な変化

EchoStarから周波数帯の移転を受けたとしても、欧州では自動的に同じ権利が認められません。SpaceXは新しいルールのもとで非EU事業者として、他社と同じ1枠内で選定審査を受ける必要があります。EchoStarが現在持つ2×15MHz幅の枠も、新制度では1事業者につき最大2×10MHzという上限に変わります。

比較審査方式で選ばれるため、一括入札金、年間ライセンス料、カバレッジ達成目標、サービスの立ち上げ速度が評価されます。実績と資金力でいえばSpaceXに分がありますが、取得できる帯域幅の絶対量が制限されることに変わりはありません。BNPパリバのアナリストは、EUの提案によってSpaceXが「欧州で構造的に不利な立場に置かれる」と分析しています。

Viasatの問題もまた別の角度で深刻です。現在持つ欧州での2×15MHz枠が消え、非EU事業者として3分の1の枠を他社と争うことになります。EANサービスの継続には事業の組み直しが迫られる可能性があります。

IRIS²という欧州の構想

EUがここまで積極的に動く背景に、IRIS²の存在があります。正式名称は「Infrastructure for Resilience, Interconnectivity and Security by Satellite」。290機の衛星からなる欧州独自のコンステレーションで、GalileoやCopernicusに次ぐEUの第3の宇宙旗艦プロジェクトです。総予算は106億ユーロ、2029年の初打ち上げを経て2030年の本格稼働を目指しています。

政府間通信のセキュリティ確保と、農村部や離島も含めた市民向けブロードバンドの提供を担う設計です。2GHz帯の1ブロックをIRIS²関連に確保しておくことは、欧州の通信インフラ自立路線の一環として筋が通っています。

ルクセンブルクのOQ TechnologyがD2D参入を見据えて同帯域への申請を準備しているのも、この政策の方向性を読んでのことでしょう。AST SpaceMobileがドイツに現地法人を設けて欧州向けD2Dの計画を登録しているのも、同じ流れの中にあります。

電波の地政学

EC提案はこれから欧州議会と理事会の承認プロセスに入ります。米側からの反発も当然想定されます。実際、FCCが今春、欧州の規制動向を「宇宙保護主義」として問題提起していたのは、こういう展開を見越していたからでしょう。ECのデジタル担当委員は「透明で公正な提案だ」と述べましたが、SpaceXやViasatからのロビー活動を含め、承認前の交渉は一筋縄ではいかないはずです。

D2Dの技術は国境を越えます。ただし電波の許可証は国ごと、地域ごとに異なります。日本でも各キャリアがD2Dサービスの実用化を進めているなかで、「どの帯域が誰に割り当てられるか」という規制の問いが事業の可能性を左右する構造は変わりません。欧州で起きていることは、周波数をめぐる地政学が衛星通信の競争にどう影響するかを、他の地域より一歩先に見せてくれています。


参考記事

〇Europe's Satellite Spectrum Proposal Clouds SpaceX and Viasat Plans(2026年5月28日)

〇Brussels just quietly carved out two-thirds of a key satellite band for European operators(2026年5月30日)

〇EU risks US ire with limits on 2GHz satellite spectrum(2026年5月29日)

https://www.lightreading.com/satellite/eu-risks-us-ire-with-limits-on-2ghz-satellite-spectrum

〇OBSERVER: What is IRIS²?(2026年2月)

〇衛星通信が拓く新しいビジネス〜スマホと宇宙が直接つながる時代の到来〜(2025年8月29日)



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