宇宙に浮かぶ厚さ1センチのサーバー——Sophia Spaceが示す軌道上データセンターの現実解

宇宙にサーバーを置くという発想は、数年前なら夢物語として受け流されていたかもしれません。ところが2025年末、NvidiaのH100チップを搭載した衛星が軌道上でAIモデルの動作に成功し、「宇宙コンピューティング」はひとつの転換点を迎えました。そのニュースをお伝えした記事から間もなく、また一つ見逃せない動きが出てきました。
カリフォルニア州パサデナに拠点を置くスタートアップ、Sophia Spaceが2026年2月、1000万ドルのシード資金調達を完了したと発表したのです。Alpha Funds、KDDI Green Partners Fund、Unlock Venture Partnersが主導したこのラウンドで、同社の累計調達額は1350万ドルに達しました。

同社が開発するのは「TILE」と名付けられたモジュールです。縦横1メートル、厚さわずか1センチという薄型の構造で、片面に太陽電池、内部にNvidiaのチップを搭載しています。宇宙は言うまでもなく過酷な環境ですが、地上のデータセンターにとって最大の悩みである「熱処理」という問題だけは、むしろ宇宙のほうが有利です。Sophia Spaceはその逆転の発想を徹底的に突き詰めました。


独自の受動冷却システムは、宇宙空間の極低温そのものを放熱板として使います。これにより発電エネルギーの92%を計算処理に充てられるといいます。地上のデータセンターが能動冷却を使った場合の効率は66〜72%程度ですから、その差は10〜20ポイントにも及びます。データセンターの運用コストに占める冷却費用の比率を考えると、これは小さくない優位性です。
もう一つ重要なのが「SOOS(Sophia Orbital Operating System)」です。軌道上ではエンジニアが現地でサーバーを修理することができません。ファームウェアの更新からセキュリティパッチの適用まで、地上のITエンジニアが担うあらゆる作業を、このAI駆動の自律OSがこなします。「宇宙に置く」ことより「宇宙で動かし続ける」ことのほうがはるかに難しい。Sophia Spaceはその核心に最初から向き合っています。

会社の成り立ちも興味深いものがあります。Caltechが宇宙太陽光発電の研究に投じた1億ドル規模の助成金から生まれた知的財産が、その出発点にあります。「数学的には成立しても、経済性が合わなかった」宇宙太陽光発電の技術を、「では、そこにサーバーを載せたら」という一人のエンジニアの問いが転換させました。JPL出身の研究者とクラウドコンピューティングの専門家が組んで2023年に設立されたこの会社が、まさにその答えを形にしようとしています。

ロードマップを見ると、今年中に最初の2基のTILEの製造と地上試験を行い、同じく今年中にソフトウェアのデモミッションを実施する計画です。完全な形での軌道上実証は2027年末から2028年初頭を見込んでいます。将来的には約2500枚のTILEを束ねた1MW級のアレイを、Falcon 9のフェアリングに収まるよう折り畳んで打ち上げる構想があります。短期的には他の衛星の軌道上エッジコンピューティングを担い、長期的には地上データセンターの処理容量を補完することを目指しています。

こうした動きはSophia Space一社に限りません。SpaceXが100万基規模の軌道上データセンター計画をFCCに申請し、GoogleとPlanetが共同で「Project Suncatcher」を立ち上げるなど、主要プレイヤーが一斉に動いています。過去の記事でも取り上げたこの潮流を合わせて読むと、Sophia Spaceの1000万ドル調達が業界全体の文脈の中でどんな意味を持つかが見えてきます。
軌道上データセンター市場は2029年に約18億ドル、2035年には390億ドル規模に達するという試算もあります(BIS Research)。まだ実証段階の技術に対して、なぜここまで大きな数字が語られるのか。それは地上のデータセンターが直面するエネルギー問題と、AIの計算需要の増加速度という二つの圧力が、「宇宙を使う理由」を急速に強化しているからにほかなりません。

2030年代の商用サービス開始を目指すSophia Spaceにとって、今回の1000万ドルはあくまで出発点です。それでも、JPL仕込みの技術と独自の冷却設計を持つチームが一歩一歩着実に前進していることは確かです。地上のインフラが限界に差し掛かる中、「宇宙にある計算資源を使う」という選択肢が私たちの日常に届く日は、思いのほか近いかもしれません。

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参考記事
〇Sophia Space Raises $10M for Build Orbital Data Center Tech(2026年2月24日) https://payloadspace.com/sophia-space-raises-10m-to-build-orbital-data-center-precursor/
〇宇宙に浮かぶデータセンター「Starcloud」が実現する未来のAIインフラ(2025年11月2日) https://note.com/space_business/n/n692d41e9851a
〇マスクの壮大な賭け:宇宙AI時代の幕開けか、それとも無謀な挑戦か(2026年2月) https://note.com/space_business/n/n91cf3e32bb9f
〇Planet bets on orbital data centers in partnership with Google(2025年12月30日) https://spacenews.com/planet-bets-on-orbital-data-centers-in-partnership-with-google/
〇Nvidia-backed Starcloud trains first AI model in space, orbital data centers(2025年12月10日) https://www.cnbc.com/2025/12/10/nvidia-backed-starcloud-trains-first-ai-model-in-space-orbital-data-centers.html
