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目が覚めたら自室に知らない人がいた話

皆さんは人生でぶったまげたことがあるだろうか。

「たまげた」ことはあっても、「ぶったまげた」とまで言える経験はそう多くないのではないかと思う。


私の中で「たまげた」と「ぶったまげた」を分かつ基準となっている、友人から聞いたエピソードがある。

当時小学生だった友人は自転車に乗っていた。
左右を確認せずに路地から飛び出したところ、クルマにはねられそうになった。
友人は咄嗟に全身をしならせ、ギリギリで接触を回避することに成功した。
しかし無傷ではなかった。
家に帰ってズボンを脱ぐと、ブリーフの股間が血で染まり、日の丸のようになっていた。

ぶったまげたという。
急な回避動作でサドルと股が擦れたらしい。


この話を聞いて以来、日々感じる驚きが「ぶったまげた」と言うに値するのか、ということを考えるようになった。
思うに「ぶったまげた」という言葉には、物事の展開に対する驚きが必要なのだ。
例えば突然の大きな物音に驚いて心臓が止まる思いをしたとしても、それは強くびっくりしたのであって、「ぶったまげた」とは言わない。
想像を超越するストーリー展開があって初めて、人はぶったまげるのだ。

恥ずかしながら私は、人生において一度もぶったまげたことがなかった。


しかしいつも通り平凡に終わるはずだったある日の真夜中、眩しくて目が覚めた。
暗闇の中に光源があり、どうやら私は何者かにライトで照らされているらしかった。
理解が追い付かなかった。
話の展開以前に意識の脈絡がないので、さて自分は今どこにいるのだろうと思いを巡らせた。
何秒かかったか分からないが、家に帰って寝たのが最後の記憶だという結論に至った。

ぶったまげた。

ここは自分の家で、私は思い当たる節のない誰かに照らされているのだ。
事の異常さに気付いた瞬間、
「うわぁ!」
と声が出た。
しかしライトの主は動じなかった。
空き巣が居直り強盗に変わる瞬間かもしれない、と思った。
パニックに陥った私は無謀にも戦うことを決めた。

先手必勝と考えて、布団越しにライトの主を蹴り上げた。
相手が怯むのを感じた。
相手はナイフを持っているかもしれない。
手を緩めずに、このまま一方的に押し切らなければならない。

部屋の明かりが消えている上に強度の近視なのでほとんど何も見えないが、気配を追いかけて相手の背中に飛び付いた。
後頭部めがけて必死に猫パンチを連打し、玄関の方へ追いやった。
片手で猫パンチをしながら、開いた方の手でドアノブを探る。
開かない。
鍵がかかっている。
解錠する間に刺されたらどうしようと恐怖したが、幸いにも相手は大人しかった。
ついに何者かを外へ追い出した。
全身がガタガタ震えていた。

相手は外からガチャガチャとドアノブを回してきた。
「誰ですかあなた」
と聞くと、やや間があって、
「あの、ここ203号室じゃないですか?」
と返ってきた。
チェーンをかけて扉を開くと、酷く酔っ払った様子の20代後半ぐらいの兄ちゃんが目を白黒させていた。


想像される兄ちゃんのストーリーはこうだ。

へべれけになってアパートへ帰ってきたが、前後不覚で自分の部屋が分からない。
手当たり次第にドアノブを捻ると、鍵のかかっていない扉があった(これは私が悪い)。
部屋の明かりをつけると同居家族を起こしてしまうので、スマホのライトで足元を照らしながらこっそりと寝室に入った。
するとどうだろう、心当たりのないオジサンが眠っているではないか。
理解が追い付かずフリーズしていると、いきなり蹴られた上に後頭部をタコ殴りにされ、部屋から追い出された。


何かめっちゃスミマセン、と互いに謝った後、
「あの、靴を返してください」
と言われた。
明かりをつけて足元を見ると、靴と靴下、そしてダウンジャケットとゲロが床に散乱していた。

持ち物を返し、泣きそうにながらゲロ掃除をした。
身体の震えが治まってくるにつれ、右の拳が猛烈に痛くなってきた。
興奮で痛覚が飛んでいたが、素人が人の頭蓋骨を力任せに殴打したので怪我をしたらしい。
雑巾を洗ってから拳を冷やして呻いていると、玄関のベルが鳴った。
再び手当たり次第に鳴らして回っていたのだろう。
「あの、2階ってどこですか?」
こいつは本物だと思った。


翌日は半休を取って整形外科へ行った。
何をして傷めたのかと問診されたので、目が覚めたら知らない人がいたので殴りました、と正直に答えた。
先生もたまげていた。

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