「児童書だけど本格ミステリーの要素に戦慄~『幸せな家族 そしてその頃はやった唄』~」【YA95】
『幸せな家族 そしてその頃はやった唄』鈴木悦夫 著(中公文庫)
2025年12月読了
私が最近よく、自分の読書のために選書するヒントや新情報をいただいているのが、BSテレ東で放送されている『あの本、読みました?』という番組です。
著作者・編集者さんたちが毎回出演され、司会の鈴木保奈美さんとアナウンサー、そしてプロデューサーさん方が話題の本、売れ筋の本、各種受賞した本などをそれぞれに深く読み込んで紹介してくださり、思わず読んでみたいと本屋さんに走りたい衝動にかられます。
本当に様々な本が紹介されるのですが、これまで比較的手に取ってこなかった、というより敬遠していた新書なども売れ筋ランキングとともに意外と頻繁に紹介され、読んでみたい誘いにまあまあ引っかかったりしています。おかげで、「読みたい本リスト」は積読本以上に数が増えており、読むのがすっごく遅い私を悩ませているほどです。
そのくらいこの番組には信頼を寄せています。
そんな中、今回ご紹介する本もミステリーの児童書という括りで取り上げられました。
それから少し間をおいて、書店へ行った際に注目本としてこの本が置かれていましたので、思わず手に取った次第です。
読んでみると、「これ、本当に児童書?」と思うくらい、大人が普通に読んでミステリー小説として成り立ってはいました。
だから、「ああ、そうか、児童書という文言でつい対象者を小学生くらいに設定しているのかな?」と思い込んでしまうのですが、もちろん小学生高学年からOKでもあり、ただ主に中高生を対象にしているのじゃないかと感じましたので、あくまでも私としましては【YA】本の中に入れました。

とある写真家の父親と親しい映像関係者が、この写真家の家族を題材にドキュメンタリー的な保険のCMを作りたいという強い要望を出し、それまで断っていた父親も今の仕事が一段落したらOKと返事をしたため、引っ越ししてきたばかりの新しい家にすぐさま業界関係者が押しかけてきました。
そのCMのテーマは「幸せな家族」。
彼らが言うには、この家族がいかにも「幸せな家族」のモデルのようであるからという理由です。
写真家の父とその妻、高校生の美しい長女に中学生の長男、小学校高学年の次男という家族構成で、この物語は主に小学生の次男のモノローグで進んでいきます。
しかしながら、冒頭で次男は最初に父親が何者かに殺害され、その後長男、母親、長女、自分の友人が亡くなってしまうという事実を語ります。
え!?一家が次々に?おまけに友人まで巻き込まれるの!?
そして読んでいくと、ある歌がこの一連のキーポイントとなることがわかります。
その歌の歌詞のとおりに一人ずつ人物が亡くなっていく…そう、何かと…あるミステリー小説がふと思い浮かびます。
アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」の展開に似ていますね。
「この人物が犯人ではないか?」と怪しい人物はいろいろといるのですが、真犯人が比較的早い段階で想像がついてしまうのは、やはり児童書だから?とは思いたくはないけれど、予想が当たってしまってそこは少し思う所がありました。
ただこの「その頃はやった唄」の歌詞の内容がかなり怖いのです。
その部分も含めて、殺人が起こるエピソードなども「本当にこれ、児童書?」と思った理由です。
あまりネタバレにもなってはいけないので突っ込んでは書きませんが、興味惹かれてしまうものが以下です。
上にリンクを貼らせていただいたサイトでも紹介されているようにある書店員さんの手書きのパネルが秀逸すぎて、ダウンロードして他書店でも使用可能としているところに、これ以上のレビューはないのだろうと窺えます。
そして、同サイトでは「その頃はやった唄」が実際に聴くことができます。
いやいや…はぁ~…歌詞はものすごく不気味なのにメロディーと雰囲気が内容と全然合わない!
すごく明るく歌っているのがかえって怖さを助長します。
(※ただし歌詞は完全にネタバレになってしまうので、本を読んでからしかわからないキーワードを入力しないと残念ながら聴くことができません。また、本の巻末にも楽譜が載っています。)
もちろん本文中にこの歌詞は出てきますが、歌詞は今後の展開がわからないように少しずつしか明かされていきません。
これも途中でネタバレにならないようにということでしょうね。
さて私は文庫本を読みましたが、巻末にあとがきが書かれており、最後に批評家・松井和翠氏による深い解説で時代背景(同人誌『鬼ケ島通信』での初出が1983年、偕成社Kノベルスにて初刊1989年)や社会情勢などとともに作品に込められた作者の思いなどを可能性として分析されていました。
そして「その頃はやった唄」の歌詞は詩人である山本太郎氏の詩集『覇王紀』から抜粋して許可を得て歌にしたという経緯があることも著者の鈴木悦夫氏のあとがきに書かれています。
いずれにしても、大人が読んでもこの内容はかなり衝撃的ですし、もし子どものころに読んだらかなりのトラウマになったかも…というのは帯の謳い文句にもありますが。
とにかく、かなり前の物語を掘り出してふたたび脚光を浴びさせた書店員さんの紹介文のスキルの高さ、その手腕が羨ましいですね。
