「ちっとも怖くない呪いの人形のおはなし~『お梅は呪いたい』~」【YA89】
『お梅は呪いたい』藤崎翔 著(祥伝社文庫) 2025.4.14読了
時は戦国時代。とある大名の姫君や周囲の者たちに次々と不幸が起こりました。それは敵方による殺戮でした。
その殺された姫君の持ち物であった人形のお梅に姫君の心が宿り、当然のごとく姫君の怨念と惨殺された多くの者たちの怨念もひっくるめて吸収し、お梅は恐ろしい呪いの人形となったのでした。
その後敵味方関係なく呪い殺すことをかえがたい喜びとしたお梅は、次々と近づいた者たちを瘴気で体を弱らせていきついには死に至らしめていました。
それは毒ガスのようなもので、お梅の体中から発散することができるのです。おまけにお梅は人間のように歩いたり走ったり体を動かすことができますが、紙と木でできているので声を発する機能はありませんでした。
それに一番驚くべきことは、人間の心の中から“負”の感情を読み取りそれを呪いで増幅させることができるのでした。それらの力を駆使して、お梅は戦国大名を滅ぼしてしまえるほどの恐ろしい人形なのでした。
それから約500年後。
お梅は木箱にしっかりと幽閉され誰にも取り出せないように、ある家屋の納戸にずっと隠されていたのですが、その家にたったひとり住んでいた老婆が亡くなったため家屋を取り壊されることになりました。
何も知らない解体業者がその木箱を取り出し何も考えもせずお梅を約500年ぶりに外に出してしまいました。(ま、知っていたら取り出さないでしょうけどね…)
突然外の空気を浴びたお梅は、「さあ、久しぶりに人間どもを呪い殺してやろう」と意欲満々でした。
ところがお梅が閉じ込められていた間に時代はどんどん変わり、現代のいま目にするもの、耳にするものは何一つわからず面食らってしまいました。
しかしお梅が呪う対象は、たかが人間です。それは昔とそれほど変わっていないはずと、まずはひとりの“ゆふちゅふばあ”(=ユーチューバー)のところに連れていかれさっそく呪い殺そうと瘴気をだすのですが…。

まずは①視聴数もフォロワー数も全く伸びなくてコンビニのバイトでどうにか食いつないでいるユーチューバーの男性
②失恋して何をする気も起こらず部屋は汚く散らかったままの女性
③あるトラウマを抱えて暮らしいつ死んでもいいと引きこもっている男性
④夫のDVで離婚した女性の息子と、近所に住む一人暮らしの老婆
⑤満州引き上げの後学校ではいじめられ必死に働いても少しも楽な暮らしができず認知症のため老人ホームに入り今にも死に際にいる男性
と言う風にいろんな人間の元をお梅は渡り歩いていくのですが、呪う気満々のお梅はどういうわけか呪いがまったく上手くいきません。
呪いの人形の名が廃ると自分で悔しがるほどに、呪い殺すどころか呪う対象者たちはお梅の気持ちとは正反対に幸せになっていくのです。
上に書いている通り、対象者たちは全くの不幸のどん底にいる人間たちばかりです。
お梅は彼らから“負”の感情を読み取り簡単に呪い殺せるとふんでいました。
しかしなぜかお梅の思う展開とは違う方向へと事は進んでいってしまいます。
彼らは人形をそばに置いたおかげで幸せになれたとまで思ってしまう始末です。
お梅は次こそは…と人間を呪うのをやめるつもりは全くありませんが、ここまで現代人を呪うことに失敗ばかりしているともう上手くいかないのでは…と、ふと考えてしまうのです。

最初この本を手に取った時は、“呪い”と入っているタイトルにやや躊躇しました。
だって怖い話はとても苦手なのです。
TV番組で怖い話特集とか心霊現象とかやっているときは絶対に観ませんし、番組の流れで突然怖い話が始まった時はもう耳をふさいで「ああ~~ああ~~」と声を出して聞こえなくするほどに苦手です(;’’∀’’)
でも表紙がちょっとね、ただの怖い話じゃなさそうな雰囲気の絵(カバーイラスト:五月女ケイ子)がなんとなくポップで私でも読めそうだなと感じたから。
その印象で感じたことはやはり当たっていました。
ま~~たく怖い話なんてなくて、逆にお梅の呪う気満々なのに結果は幸せを呼んでしまうパターンがおもしろくて心が温まる内容になっています。
それぞれのお話の中の人物たちはやはりどこかつながっているところがあって、「あ、この人物はさっきのお話の中にもちょこっと出てなかったっけ?」と思うはずです。
そして最後にそのような人物たちと話の展開の中での伏線が回収され、すっきりとした気分で読み終えました。
文庫で手軽でページ数も284ページとそんなに長くありませんし、くすっと笑えるコメディ要素もハートフルな要素も入っていますので中高生にもおススメの本だと思います。
朝読書の時間などに使用してもいいのではないでしょうか。
