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エジソンもお手上げ

アイデアなら湯水のようにでてくる。
旅行の計画や仕事の企画に、趣味でやっている音楽制作だって。

こんなにもたくさん浮かんできて困るくらいなのに、あなたの心に留まり続けるたった一つのアイデアだけが、いまだに思い浮かばないでいる。


「難しい顔してるけど、何かあった?」
向かいの席に座る加藤さんが、モニターから顔を出し、こちらに話しかけてくる。
「あ、いえ・・・何もありません。ちょっと考え事をしてただけで」
「珍しいね。梶山さんが考え事をして詰まっているなんて」
メガネの奥で彼女の真っ黒な瞳が、瞬いた。

まさか、「あなたのことですよ」なんて言えるはずもなく。
曖昧に笑って濁すしかない。

年齢は二つ下だが、社歴は彼女の方が五年ほど長い。
立場的にもグループのサブリーダーである彼女と、そのグループに属する僕とでは、そういった風に見てもらえないであろうことは分かっていた。

人並みに恋愛経験はある、と思う。
昔は勢いというものもあってか、ビビッときたらすぐに告白していた気がする。なので過去の彼女の数と告白した回数は一致しない。
なんなら振られたことの方が多いかもしれない。

30を超えて、僕も慎重になった。
ノリや勢いで付き合うような関係ではなく、人柄や内面に惹かれるような人としっかりとしたお付き合いをしたかった。


二年前に会社都合で潰れた前の会社から、今の会社に吸収された際に出会ったのが加藤さんである。

トレードマークとも言える茶色のメガネに、同じような色の髪を一つに束ねている。キャリアウーマンを絵にしたような彼女に、最初はあまり良い印象はなかった。

同じグループで働き出して半年が経った頃になって、ようやく気づく。
彼女は、人一倍繊細で、人一倍努力家だった。

初めて任されたサブリーダーというポジションに、人前では気丈に振る舞っていたけれど、会議の前の表情やびっしりと書かれたメモを見て、あれは去勢なのかもしれないと思った。

弱い自分を隠すために、きっちりとしたキャリアウーマンのように見せているだけかもしれない。
そう思った途端に、なぜだか心が落ち着かなくなった。

その日からずっと、彼女のことが気になって仕方がない。
新しい企画や提案を出す僕を気に入ってくれたのか、仕事の話以外でも話すことが増えた。

けれど、彼女の仮面はなかなか厚く、そう簡単には見せてもらえない。
仕事上の関係では親しい部類に入るだろうが、プライベートでご飯に行ったこともない。

「そういえば、この前出してくれた企画、上の承認もらえたから来月から進められそう」
「本当ですか!よかった〜、結構突飛な部分もあったので、難しいかと思っていたんですが」
「梶山さんのアイデアにはいつも驚かされる。仕事もそうだけど、趣味で音楽も作ってるんでしょ?多才で羨ましいな」
加藤さんが本当に羨ましそうに言うので、気分が良い。

「今度、ライブやるんですけど見に来ますか?」
気分が良いのをそのままにさりげなく誘ってみる。

「そうなの?見に行けたら良いんだけど、休みの日は予定入れちゃうことがほとんどでね・・・もし空いてたらでもいい?」
まったく悪意のない返しに、「そうですよね、忙しいですもんね」と返すほかない。

加藤さんのプライベートは謎に包まれている。
僕の趣味の話は快く聞いてくれるものの、自分の話はほとんどしてこない。
これについては僕に限った話ではないようで、他の社員さんに聞いてもプライベートの加藤さんのことを知っている人はいなかった。


さっきみたいにライブに誘ってみたり、はたまたご飯に誘ったこともある。
だが、毎回のらりくらりとかわされてしまい、途方に暮れるしかなかった。

まるで懐いたと思ったらふらりとどこかへ行ってしまう猫のようである。
仕事での加藤さんは生真面目でお堅い印象の方が強いが、本来の姿は案外、猫のように気まぐれで自由なのかもしれない。


スマホのメモには、箇条書きで書かれた僕のアイデアが打ち込まれている。
頭に浮かんではすぐ消えてしまうから、いつからか思いついたらメモに打ち込むことが癖になった。

単語だけが書いてあるのもあれば、長々と文章で書かれているものもある。
こうしてメモを見返しているだけで、また何か新しいアイデアが出てきそうだ。


この前作った楽曲のアンサーソングは、しっとりとしたバラード系にしよう。
前々から気になっていた動画配信なんてのも始めてみようか。
さっき承認がもらえたと言っていたが、あの企画が通るならこっちの企画もいけるかもしれない。

手のひらからこぼれ落ちる前に、メモに打ち込んでいく。

こんなにフル回転する頭のくせに、どうしたって彼女一人の心をとらえることができない。

今までに出会ったことのないタイプだった。
何を考えているのか分かりづらくて、だけれど無感情というわけでもない。
その瞳の奥に、心の中に何かを隠しているようにも思えて、それに触れてみたいと思ってしまう。


彼女の心に留まるような、そんなアイデアがほしい。
チラリ、と加藤さんを見れば通常運転でモニターと向き合っている。

先ほどまでの勢いが嘘のように進まなくなったメモに、小さくため息をついた。


片想い文芸部第7回に参加させていただきました。

なんだかいいタイトルが浮かばなくて悔しい。。。
心の内が読めない人ってミステリアスで惹かれてしまいます。
意外とこういう人に限って熱いタイプだったりするので、それがまたいいんですよね。


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