Episode17 石の声が聴こえた日
はじめてラリマーを見た日のことを、今でもよく覚えています。
東京出張の時でした。友人に会い、その友人のお友達が「こんな石があるんですよ」と見せてくれたのがラリマーでした。
手のひらの上に置かれたその石を見た瞬間、私は思わず息をのみました。
なんで、こんな色の石が存在するんだろう。
海のようでもあり、空のようでもあり、光を含んだ水面をそのまま閉じ込めたような色。
淡い水色の中に、白い雲のような模様がふわっと溶けていて、ずっと見ていても飽きませんでした。
きれい、という言葉だけでは足りない感じがしました。
見た瞬間に、クリスタルの世界への扉が開いたような出来事でした。
そしてその感覚は、そのままラ・マールという名前へとつながっていきました。
ラリマーは、ドミニカ共和国で採れる石で、愛と平和の石とも言われています。「ラリ」は宝石商の娘さんの名前、「マール」は海を表す言葉なのだそうです。
当時の自宅サロンの天井には、水面の絵を描いていました。光が揺れて、天井に水の気配があるような空間です。
その天井と、ラリマーの海のような色が重なった時、
これだ!!
そう思い、店名をラ・マールに変えました。
今思えば、私はずっと海のような場所を作りたかったのかもしれません。
広くて、深くて、すべてを包み込むような場所。力を抜いて、ただ浮かんでいられるような場所。
ラ・マールという名前には、その頃の私の願いが、そのまま入っていたのだと思います。
それから私は、石そのものにどんどん惹かれていきました。
同じ種類の石でも、ひとつひとつ表情が違う。明るく人なつっこく見える石もあれば、静かにそばにいてくれるような石もある。
天然石のビーズが並んでいる光景は、見ているだけで胸がときめきました。
こんなに素敵な石の世界を、もっとたくさんの人に知ってもらいたい。
そう思って、駅前サロンに天然石のビーズを並べ、お客様に好きな石を選んでいただき、それをブレスレットにする準備を始めました。
そして、いよいよそのスタイルでブレスレットをお作りするお客様が!
テーブルに並んだ石を前に、ひとつひとつ手に取りながら、
「これもきれい」
「これも気になる」
と、楽しそうに、けれどなかなか決めきれずに迷われていました。
私も最初は、その方が選んだ石をそのままブレスレットにしていくつもりでした。
ところが、いざ並べようとした時、ふと違う感覚がやってきました。
この石は、そこではない。
この子は、あの石の隣がいい。
この石は、この方のところへ行きたいんだ。
言葉が耳で聞こえたというより、石たちの向かいたい場所が、私の中にすっと流れ込んでくるような感じでした。
驚きました。
でも、不思議と怖さはありませんでした。
むしろ、目の前に並んでいた石たちが、ただのビーズではなく、それぞれにちゃんと行き先を知っている小さな存在のように見えたのです。
こんなことを言ってもいいのかな、と思いました。
でも、その感覚をなかったことにはできませんでした。
それで、思い切ってお客様に聞いてみました。
「私が選んでもいいですか?」と。
すると、「迷っていたので、そうしてください」
と言ってくださいました。
そこから私は、石たちの向かいたい場所を感じながら、ひとつずつブレスレットにしていきました。
手元の石たちが、ひとつずつ居場所を見つけていくようでした。私が作っているというより、石たちが自分で並んでいくような、不思議な感覚でした。
完成したブレスレットをお渡しすると、お客様の表情がぱっと明るくなりました。
「わ!そうそう。こんなのが欲しかったの」
その言葉を聞いた時、なんだかとても嬉しいと感じました。
今思えば、あの日が、私にとって「石の声を聴く」という仕事の始まりでした。
その日から、リーディングをしながら石を紡ぐことが始まりました。
その方の今の状態や、必要としている力。本来持っている魅力や、これから思い出していくもの。そんなものを感じ取りながら、石の声を聞き、ひとつずつブレスレットにしていく。
気づけば、これまでにおそらく3万本ほどのブレスレットを紡いできたと思います。
面白いことに、「こんなの嫌です」と言われたことがありません。
その方のために紡いだ石たちは、不思議とその方のところにちゃんと届いていくのです。
そして、ブレスレットは一度作って終わりではありませんでした。
その方の人生の節目ごとに、また石が変わっていく。今まで必要だった石が役目を終えたり、新しい石が必要になったりする。
まるで、その人の歩みに合わせて、石たちも一緒に動いていくようでした。
石は、何かを叶えてくれる魔法の道具というより、その人の中にある力を思い出させてくれる存在なのだと思います。
自分では気づいていない魅力や、もう忘れてしまった感覚。本当は持っている強さや、これから育っていくやさしさ。
そういうものを、石は静かに映し出してくれる。
私はそれを、横で聞き取り、形にしているだけなのかもしれません。
Cocoonは、安心を調合する場所。
その人に必要な香りや言葉や時間を選ぶように、石もまた、その人が自分に戻るための大切な入口になってくれるのだと思います。
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