セルフケア♯957+ξ【忘れられない文房具📒🌌...】先生、僕はまだ、あなたに「ありがとう」を言えていません。
この記事は、
以下に示すnote大学・教育子育て部:11月のテーマへ参加します。
『忘れられない文房具📒🌌...』
僕にとって、
今も忘れられない文房具が一つだけあります。
それは、
小学校を卒業する時に、
そろばん塾の先生からいただいた、
一冊の「ファイル」です。
僕が暮らしていた小さな田舎町では、
小学校3年生になるとそろばん塾に通い始め、
小学校卒業と同時にやめていくのが、
一種の慣例のようになっていました。
小学校では、
鉛筆とノートで勉強していた子供たちが、
中学生になると、少しだけ大人びて、
シャープペンシルとルーズリーフを使い始める。
そのルーズリーフを綴じるための「ファイル」を、
先生は卒業記念として、
最後まで塾を続けた生徒だけに贈っていたのです。
実を言うと、
僕は小学校卒業の2か月前に、
その塾をやめていました。
だから本来であれば、
僕はその記念品をいただく資格がなかったはずです。
それなのに、
なぜ受け取ることができたのか。
当時、母は
「先生が、あなたのことを
特別に目をかけてくれていたからだよ」
と、少しだけ寂しげに言いました。
小さな町の中で、
僕のそろばんの腕は、
少しだけ有名でした。
後に町長になられた当時のお偉いさんから、
「この小さな手で、
あんなに速くそろばんを弾くんだね」
と、頭を撫でられたこともあります。
小学校5年生と6年生の時には、
町の代表として、
県の大会にも出場しました。
もちろん、
上には上がいて、
県大会では橋にも棒にもかからない結果でしたが、
6年生の時には、
なんとか優良賞をいただくことができました。
僕の住む田舎町から県大会に出場すること自体が、
とても珍しいことだったのです。
どちらの大会も、
先生は宿泊付きで、
僕を引率してくださいました。
さらに、
6年生になると、
2か月ごとに行われる検定試験の費用を、
先生がそっと肩代わりしてくださっていたこともありました。
それだけ、
僕は先生から目をかけていただいていたのです。
しかし、
当時の僕は、
そんな先生の温かい期待に応えることができませんでした。
大人への反抗期が、
僕の中で静かに始まっていたのです。
「そろばん、そろばん」
と周りから言われることに、
僕は次第に嫌気がさしていました。
6年生の県大会が終わると、
僕は検定試験にも、塾の練習にも、
真剣に打ち込まなくなりました。
そして、
卒業を2か月後に控えた最後の検定試験を終えた日、
僕は一方的に塾をやめてしまったのです。
母からも、
塾の先生の奥様からも止められましたが、
僕は頑なに首を縦に振りませんでした。
そんな自分勝手な経緯があったにもかかわらず、
先生は、僕の妹に預けて、
あの卒業記念品のファイルを渡してくれました。
その後、
僕はそのファイルを、
中学を卒業するまでの三年間、
大切に使いました。
さすがにボロボロになってしまったので、
高校に上がる時に、
お別れしたと記憶しています。
先生はそれから数年後、
塾の運営を奥様に預け、
町の役員になられたそうです。
そして、
平成の市町村合併の後には、
市の役員にもなられたと、
母から風の便りに聞きました。
あれから、
もう数十年という月日が流れました。
ふとした瞬間に、
僕はそろばん塾の先生のことを思い出します。
今の僕は、
もう当時の先生の年齢を、
とっくに上回ってしまいました。
よく考えてみると、
僕は塾をやめたあの日、
先生にきちんとした挨拶も、
感謝の言葉さえも、
伝えていなかったように思います。
おぼろげな記憶ですが、
先生もまた、
僕に対してあまり声をかけず、
どこか目を合わせないようにしていたような気がします。
大人であった先生も、
まだ幼かった僕の頑なな態度に、
どう声をかけていいか、
分からなかったのかもしれません。
最近になって、
ふと気になり、
実家の母にLINEを送ってみました。
「そろばん塾の先生、どうしているかな?」と。
すぐに返ってきたのは、
「もう亡くなられたよ。懐かしいね」
という、短い言葉でした。
いつ、亡くなられたのだろう。
ネットで先生の名前を検索すると、
平成30年の日付が入った、
市の施設の役員名簿のPDFファイルが見つかりました。
ということは、
きっと、ここ数年の間に、
静かに旅立たれたのでしょう。
僕は、最後の最後まで、
先生に挨拶をすることができませんでした。
先生も、いただいたあのファイルも、
もうこの世にはありません。
そう考え出すと、
この記事を書く筆が、止まってしまいます。
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