【第92話】S企画|至高の法塔 ― 施設内の階段、業務と通勤の境界
⦅施設内の階段、業務と通勤の境界⦆
「だから!
退勤のタイムカードを押したんだから、
通勤中だろう!」
S企画本社、技術統括本部長室。
労働弁護士の出口が、
労災の申請書を手に机を叩いている。
彼は、
S企画の工場で怪我をした社員の代理人として
怒鳴り込んできたのだ。
💼出口
采善!
御社の工場の社員が、
仕事終わりにタイムカードを押し、
更衣室で着替えて帰ろうとした時だ。
工場の『階段』で足を滑らせて腰を強打した。
彼には何の落ち度もない!
帰る途中だったんだから、
当然『通勤災害』として労基署に申請すべきだ!
それを御社の労務担当は
「通勤じゃない」と突き返した!
労災隠しか!
サトシは組んだ指の上に顎を乗せ、
出口の激昂を冷めた目で見つめた。
👔サトシ
……出口先生。
貴方の法解釈は、
常に「場所(ゾーン)」の概念が欠落している。
タイムカードを押せば、
そこからいきなり「通勤」が始まるとでも
思っているのか?
ルミの店へ行きましょう。
先生のその「空間把握能力の欠如」を、
法的に補正して差し上げます。
***
会員制バー「桃源郷」。
ルミが差し出した氷入りのグラスを、
出口は苛立たしげに煽った。
モニターには、
労災保険法の通勤災害に関する複雑な認定基準が
表示されている。
👠ルミ
あら、出口先生。
「帰る途中なんだから通勤だ」って?
でもね、
会社の敷地の中と外じゃ、
法律の扱いがまるで違うのよ。
パスポートを持たずに
国境を越えようとしてるみたいなものね。
💼出口
どういうことだ!
采善、このカルテを見ろ!
Dの記述だ。
「更衣室で着替えをして事業場施設内の階段を降りる途中……
通勤災害とは認められない」。
これが正しいだと?
ならば
彼は何の補償も受けられないと言うのか!
⦅カルテNo.92:労災保険法・通勤災害の具体的認定⦆
〔問 2〕 通勤災害に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
A マイカー通勤をしている労働者が、勤務先会社から市道を挟んだところにある同社の駐車場に車を停車し、徒歩で職場に到着しタイムカードを打刻した後、フォグライトの消し忘れに気づき、徒歩で駐車場へ引き返すべく市道を横断する途中、市道を走ってきた軽自動車にはねられ負傷した場合、通勤災害とは認められない。
B マイカー通勤をしている労働者が、同一方向にある配偶者の勤務先を経由するため、通常通り自分の勤務先を通り越して通常の通勤経路を450メートル走行し、配偶者の勤務先で配偶者を下車させて自分の勤務先に向かって走行中、踏切で鉄道車両と衝突して負傷した場合、通勤災害とは認められない。
C 頸椎を手術した配偶者の看護のため、手術後1か月ほど姑と交替で1日おきに病院に寝泊まりしていた労働者が、当該病院から徒歩で出勤する途中、横断歩道で軽自動車にはねられ負傷した場合、当該病院から勤務先に向かうとすれば合理的である経路・方法をとり逸脱・中断することなく出勤していたとしても、通勤災害とは認められない。
D 労働者が、退勤時にタイムカードを打刻し、更衣室で着替えをして事業場施設内の階段を降りる途中、ズボンの裾が靴に絡んだために足を滑らせ、階段を5段ほど落ちて腰部を強打し負傷した場合、通勤災害とは認められない。
E 長年営業に従事している労働者が、通常通りの時刻に通常通りの経路を徒歩で勤務先に向かっている途中に突然倒れ、急性心不全で死亡した場合、通勤災害と認められる。
👔サトシ
出口先生。
Dは「正しい」記述です。
つまり、
このケースは「通勤災害ではない」。
💼出口
な、なぜだ!
仕事は終わっているんだぞ!
👔サトシ
……「通勤」の定義をもう一度復習しなさい。
通勤とは、
就業の場所と住居の間の往復です。
この「就業の場所」とは、
単に自分のデスクや作業ラインのことではありません。
「事業場の施設全体」を指します。
会社の門をくぐって敷地に入った瞬間から通勤は終わり、
帰りも「会社の門を出た瞬間」から通勤が始まります。
👠ルミ
(タブレットの画面を指先でリズミカルに叩き始める)
ポン、ポン、ポン……。
その乾いた音は、
出口の短絡的な空間認識を切り刻み、
隠された真実(法的正解)を暴き出す
冷徹なカウントダウン。
👠ルミ
ねえ、先生。
彼はどこで転んだの?
「事業場施設内の階段」よね。
つまり、
まだ会社の門を出ていない。
それなら、
適用されるべきは「通勤災害」じゃなくて……。
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S企画:至高の法塔 ― 頂点への執刀記録
📅R8.4.10時点 最新法令準拠 👔技術士(総監)の称号を背負い、頂点を目指す孤高の男・サトシ。 👠その野望を影で支え、怜悧な才気で夜…
🌸チップのご支援、本当にありがとうございます👨💼小泉士郎です🌳いただいたご厚意は学びや発信活動の糧として、大切に使わせていただきます。📘noteでは技術士試験対策の情報に加え、セルフケアや心に寄り添う言葉も日々綴っています。🌻温かく見守っていただけたら幸いです🐱✨
