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【夜の静寂🌙、昼の気配】(2)すれ違う空気に揺れる意識。

⇧ 🌙  前 話  🌙 ⇧


訪問先のこの会社は、

フリーアドレスを採用している。


私もそれに倣い、

毎日席を変える。


できるだけ多くの社員の

空気を知るためだ。


誰がどんなリズムで仕事をしているのか、

それを掴むことも、

ここでの仕事の一部だった。



例の彼女は、

特定の部署に採用された派遣社員だ。


だから自然と、

その部署の一角に腰を落ち着けている。


私は彼女を意識しないように、

そして彼女に私を意識させないように、

意図的に隣の席は選ばない。


それが、

いちばん無難な距離だと思っていた。



その日は、

たまたまその部署の近くに空いている席があった。


深い意味はない。


そう言い聞かせて、

私はそこに座った。



彼女は、

数人の男性社員に囲まれるようにして仕事をしていた。


雑談とも業務ともつかない会話が、

ゆるやかに続いている。


不思議なことに、

彼女は派遣社員でありながら、

彼らに敬語を使っていない。


そのことを、

誰も不自然だとは感じていないようだった。



むしろ、

彼らのほうが、

彼女の話し方や間合いに合わせているようにも見える。


すでにその部署の空気は、

彼女のリズムを受け入れている。


そんな印象すらあった。



部署には、

配属されたばかりの女性の正社員もいる。


だが、

外線対応や事務処理の細かな部分を教えているのは、

派遣の彼女のほうだった。


立場が逆転しているわけではない。


ただ、

自然に、そうなっているだけだ。



夜の気配をまとっている彼女が、

ゴミ袋をまとめ、

汚れた備品を運ぶ姿を見たとき、

私はわずかな違和感と同時に、

意外な感情を覚えた。


選り好みをしない。


デスクワークの外側にある仕事にも、

躊躇がない。



仕事ぶりを見ていると、

いずれ契約社員に、

あるいは正社員に──


そんな未来を想像してしまうのも、

無理はない気がした。



特に印象に残ったのは、

彼女が「よく聞く」ことだった。


男性社員の愚痴も、不満も、

途中で遮らずに受け止める。


同情でも否定でもなく、

ただ聞く。


その姿勢が、

場の空気をやわらかくしている。



説明を受けるときも同じだ。


丁寧に耳を傾け、

敬語を使わず、

対等な距離で応じる。


そのやりとりは、

すでに「部外者」のものではなかった。



──これは、危うい。



ふと、

そんな言葉が頭をよぎる。


彼女自身が、

というよりも、

彼女を取り巻く関係性そのものが、

だ。



もっとも、

それは私の過剰な見立てなのかもしれない。


距離を保っているつもりで、

いちばん彼女を意識しているのは、

私自身なのだから。


⇩ 🌙  次 話  🌙 ⇩




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