【第91話】S企画|至高の法塔 ― トイレの代償、逸脱の境界線
⦅トイレの代償、逸脱の境界線⦆
「だから!
トイレに行くのは人間の生理現象だろうが!」
S企画本社、技術統括本部長室。
労働弁護士の出口が、
労災申請の却下通知を手に吠え立てている。
彼は、
通勤途中に怪我をしたS企画の社員の代理人として
乗り込んできたのだ。
💼出口
采善!
御社の社員が、
通勤経路の途中にあるコンビニに
『トイレを借りるため』に立ち寄った。
そのコンビニの駐車場で
車に轢かれたんだ!
労基署はこれを
「通勤災害ではない」と却下した。
なぜだ!
惣菜を買うことや、病院に行くことは
「逸脱・中断の例外(日常生活上必要な行為)」
として認められているじゃないか!
トイレが認められないなんて、
おかしな話だろう!
会社からも労基署に抗議しろ!
サトシは冷めた紅茶を一口飲み、
出口を哀れむような目で見つめた。
👔サトシ
……出口先生。
貴方の法解釈は、
常に「入口」を間違えている。
トイレに行くこと自体が
否定されたのではありません。
貴方が
「例外規定」という間違った扉を叩いているから、
門前払いされたのですよ。
💼出口
なんだと!?
どういう意味だ!
👔サトシ
……場所を変えましょう。
先生のその「排泄」にも等しい粗悪な法解釈を、
綺麗に洗い流して(フラッシュして)差し上げます。
***
会員制バー「桃源郷」。
ルミが差し出した冷たいおしぼりを、
出口は苛立たしげにテーブルに放り投げた。
モニターには、
労災保険法の通勤災害に関する複雑な通達が
表示されている。
👠ルミ
あら、出口先生。
「トイレに行ったら労災が下りない」なんて、
お腹の弱いサラリーマンには死活問題ね。
でも、
法律は「トイレがダメ」
って言ってるわけじゃないんでしょ?
💼出口
どういうことだ!
采善、このカルテを見ろ!
「A」の公衆トイレ。
これが省令に含まれていないのは事実じゃないか!
だから労基署は却下したんだろう!
⦅カルテNo.91:労災保険法・通勤災害の逸脱・中断⦆
〔問 1〕 労災保険法第7条に規定する通勤の途中で合理的経路を逸脱・中断した場合でも、当該逸脱・中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、当該逸脱・中断の後、合理的な経路に復した後は、同条の通勤と認められることとされている。
この日常生活上必要な行為として、同法施行規則第8条が定めるものに含まれない行為はどれか。
A 経路の近くにある公衆トイレを使用する行為
B 帰途で惣菜等を購入する行為
C はり師による施術を受ける行為
D 職業能力開発校で職業訓練を受ける行為
E 要介護状態にある兄弟姉妹の介護を継続的に又は反復して行う行為
👔サトシ
出口先生。
確かにAは省令に含まれていません。
この問題の正解(含まれないもの)は「A」です。
しかし、
なぜ含まれていないのか、
その「理由」を理解していますか?
💼出口
理由?
トイレが「日常生活上必要な行為」と
認められていないからだろう!
👠ルミ
(タブレットの画面を指先でリズミカルに叩き始める)
ポン、ポン、ポン……。
その乾いた音は、
出口の短絡的な思考を切り刻み、
隠された真実(法的正解)を暴き出す
冷徹なカウントダウン。
👠ルミ
ねえ、先生。
「逸脱・中断」って、
そもそも通勤ルートから大きく外れたり、
全く別の用事をしたりすることよね?
喉が渇いて自販機でお茶を買うとか、
駅のトイレに寄るとかって……
「逸脱」って呼ぶほど大げさなことかしら?
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S企画:至高の法塔 ― 頂点への執刀記録
📅R8.4.10時点 最新法令準拠 👔技術士(総監)の称号を背負い、頂点を目指す孤高の男・サトシ。 👠その野望を影で支え、怜悧な才気で夜…
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