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戦争を知らないわたしが、焼けたドームの前で感じたこと。

●ただ、行きたくなっただけ

テレビで何度も目にしていた、朱色の鳥居。
海の中に立つその姿は、何度見ても美しくて、
見るたびに「行ってみたい」という気持ちが少
しずつふくらんでいった。

そしてある日、「今行きたい!」ってスイッチ
が入った。
そこからは不思議なくらい、トントン拍子で旅
の計画が進んでいった。

もう一つ、心のどこかでずっと気になっていた
場所がある。
広島の原爆ドーム。
戦争のこと、あの街のことは、知っている
“つもり”だったけど、
やっぱり実際に行かなきゃ、感じられないもの
があると思っていた。

●朱の鳥居のまえで

飛行機に乗って、バスに乗って、電車に揺られ
て、そして最後はフェリー。
けっこうな長旅だったけど、「どうしても見た
い」という気持ちだけで動いていた。

宮島に着いて最初に思ったのは、
「ここ、本当に日本だっけ?」ってこと。
それくらい、まわりは外国人観光客でいっぱい
だった。
英語や中国語、フランス語らしき声も飛び交っ
ていて、
まるで異国の島に来たみたいだった。

そしてついに、あの海の中に立つ朱の鳥居が目
の前に現れた。

干潮の時間、普段は近づけない鳥居の足元へ。

テレビで見ていたあの景色が、今、自分の目の
前にある。
信じられないような、不思議な気持ちだった。

潮がひいていたから、鳥居のすぐ近くまで歩い
て行けた。
足元には波の跡が残り、海風のにおいがふっと
鼻をかすめる。
思っていたよりも、ずっと大きくて、ずっと静
かだった。

写真を撮る人、手を合わせる人、
それぞれの想いを胸にして、この場所に来てい
るのが伝わってきた。

わたしも手を合わせながら、
「来られてよかった」と、心の中でそっとつぶ
やいた。

静けさの中で、鳥居だけが光っていた。

●平和の旅の続き

広島へ行くと決めたとき、
どうしても原爆ドームには足を運びたいと思っ
ていた。

戦争のこと、原爆のこと。
学校でもテレビでも何度も見てきたはずなの
に、
“知っている”だけじゃ、ほんとうに感じること
はできないような気がしていた。

見たほうがいい、感じたほうがいい。
そんな気持ちが、心の奥のほうにずっと残って
いた。

ただ見に行くだけでいいのかな。
なにか、自分にできることがあるんじゃない
か。
そう思っていたときに、折り鶴のことを思い出
した。

折り鶴を折ろうと思ったのは、
なにか“自分にできること”をしたいと思ったか
ら。

ただ祈るだけじゃなくて、
ほんの小さなことでも、自分の手で何かを届け
たかった。

折り紙は、公園の売店で買った。
最初は「もうちょっと早く準備すればよかった
な」なんて思ったけど、
結局、あの場に立ってみなきゃ、折ろうって気
持ちにはなれなかった気がする。

ベンチに座って、何枚かの折り紙を膝に広げ
て、静かに鶴を折った。
なんだか不思議なくらい集中してた。
うまく折れてるのかもわからないのに、
気がついたら、指先だけがずっと動いてた。

折っているあいだ、
どこかで「わたし自身のために折ってるのかも
しれない」とも思った。

毎日、当たり前みたいに過ごしてるけど、
こうして祈る時間を持ったことで、
平和って、ほんとうはすごく脆くて、奇跡みた
いなことなんじゃないかと思えてきた。

平和ボケ、してたのかもしれないな。
戦争なんて起こるはずがない。
そんなふうに、どこかで思っていた自分に気づ
いて、ちょっとゾッとした。

だからこそ、わたしはちゃんと折りたかった。

わたしにできる、小さな祈りのかたち。

わたしの“今”を、ちゃんと祈りとして届けたか
った。

そういえば、小学校高学年のときに、
「戦争体験を祖父母から聞いてくる」という宿
題が出た。
わたしはおばあちゃんに話を聞いた。

被爆地ではなかったけれど、
戦時中の食べ物のことや、履き物もろくにない
苦しい暮らしのことを、
静かに話してくれたのを思い出す。

あのときは、どこか遠い昔の話のように聞いて
いたけれど、
今こうして広島を訪れ、振り返りながらこの記
事を書いていると、
その言葉の重みが、胸の奥にじわじわと広がっ
てくる。

資料館にも足を運んだ。
やっと来られた。
そう思っただけで、身体の奥のほうが、少しだ
けざわっとした。

ひとつひとつの展示を見ているうちに、
胸が痛くて痛くて、何度も足が止まった。

目をそらしたくなるものもあったけど、
ちゃんと見なきゃいけない気がして、
ゆっくり、ゆっくり進んだ。

「知ってるつもりだった」
その言葉が、何度も心の中に浮かんできた。

外に出たとき、
とりあえずベンチに座って、しばらく動けなか
った。

この場所で感じたことは、
言葉にして片づけられるようなものじゃなかっ
た。
頭の中に残っているものが多すぎて、
うまく言葉にする気にもなれなかった。

でも、きっとそれでよかったんだと思う。
なにをどう感じたかは、すぐにまとめなくてい
い。
何が正解かなんて、わからないけれど。
この旅で見たこと、感じたことを、
ちゃんと持って帰る。それだけでいい。

青空の下で、焼け残ったドーム。
ここに立って、はじめてわかった。

戦争は、誰ひとりとして幸せにならない。
今も世界で起きている争いは、他人事なんかじ
ゃない。
そう思えたことも、この旅で得た、大切なもの
のひとつだった。

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