【読書記録 -153】『人材戦略』ハーバード・ビジネス・レビュー 2024年9月号
採用難時代を勝ち残る「人材戦略」とは
ふた昔も前の話だが…
「人材」を「人財」と表記することが流行ったことがある。
経済学における「財」とは、形ある「モノ」を指す。
それは、見て触れることができ、他人に譲渡したり、購入後にストック(在庫)したりすることができるものを指すのだ。
「人財」というワード。
それは人を「財産」だと言いたかったのだろうが、どこか人を「所有物」のように考えているニュアンスが漂ってしまう…
HBRがいう「人材戦略」とは何か
さて、ハーバード・ビジネス・レビュー2024年9月号の特集「人材戦略」は、人材を「調達する対象」ではなく「企業価値を生み出す資産」として再設計することをテーマとしている。
そのために本号では、
・人事部の役割
・外部専門人材
・オープンタレント
・シニア人材
・エンゲージメント
などの異なる角度から「人材戦略」を取り上げている。

本号が発行された2024年の日本の総人口は約1億2,375万人。現在(2026年6月時点)の総人口は約1億2,285万人。およそ90万人も減少している。
そして、2024年に49.4歳だった年齢中央値が、2026年には49.8歳へ上昇していることから考えても、少子高齢化は確実に加速しているのだ。
ピーター・キャペリ
人事は「管理部門」ではなく経営資源を育てる部門へ
問い:なぜ企業は人手不足から抜け出せないのか。
結論:原因は採用市場ではなく、企業自身の人材マネジメントにある。
キャペリは、人事部が「コスト削減」の論理に支配されていることを指摘している。教育投資の削減、欠員の放置、人員削減は短期的には利益を押し上げる。しかしその裏側では、従業員の疲弊や離職率の上昇、生産性の低下という「見えない負債」が積み上がっていく。
だからこそ、人事は福利厚生や教育を「コスト」ではなく投資として捉え直し、社内労働市場やリスキリングを通じて人材を育てる役割へ回帰すべきだと説いている。
採用難は、人材不足ではなく人材戦略の問題なのだ。
ジョン・ウィンザー/ジン H. パイク
採用から「才能のクラウド」を活用する時代へ
問い:必要な人材を、自社だけで確保し続けることはできるのか。
結論:これからは社員だけに依存せず、世界中の専門人材を活用することが競争力になる。
世界には800を超えるデジタルタレントプラットフォームが存在し、約5億人の専門人材が登録しているという。企業は必要なスキルを数時間から数日で確保でき、採用コストも従来より抑えられる。
重要なのは、「正社員か、外部人材か」という二項対立ではなく、必要なタイミングで、必要な能力を組み合わせる発想への転換だ。
企業は人を所有する時代から、才能を接続する時代へ入りつつある。
ダイアン・ガーソン/リンダ・グラットン
外部人材を「仲間」にできる組織は強い
問い:外部専門人材は、どうすれば組織の力になるのか。
結論:鍵になるのは契約形態ではなく、組織との関係性である。
著者らは、外部人材を単なる「助っ人」として扱うのではなく、組織文化を共有する一員として迎え入れる重要性を説く。外部人材にも理念や価値観を最初に共有し、知識を個人に閉じ込めず、デジタルワークスペースへ蓄積することで、チーム全体の学習速度を高める。
すると、マネジャーの役割も変わらなければならない。
単に指示を出す管理者ではなく、専門家が能力を発揮できる環境を整えるスポンサーになることが求められている。
組織が管理すべきなのは知識と関係性なのだ。
ケン・ディヒトバルト
シニアは「引退する人」ではなく、組織の知を支える人
問い:人材不足を補う方法は、若手を採用することだけなのか。
結論:企業が見落としている最大の人的資産は、シニア人材である。
著者は「定年」という制度を見直す必要があると説く。
年齢を重ねた人材は(新しい知識を素早く吸収する)「流動性知能」こそ若年層に劣るものの、(経験から本質を見抜く)「結晶性知能」に優れている。その知見を失うことは、企業にとって大きな損失だ。
だからこそ、段階的な退職制度やブーメラン採用、メンター制度、多世代チームなどを通じて、経験を組織へ残していく仕組みが重要になる。
人材不足を解決する鍵は、新しい人材を探すことだけではなく、今いる人材を活かすことにもある。
日本マクドナルド
エンゲージメントは制度ではなく文化から生まれる
問い:なぜ日本マクドナルドは、多くの人材を採用し、長く活躍してもらえるのか。
結論:「人」をビジネスの中心に置いているからである。
同社は、自らを「ピープルビジネス」と位置付けている。
アルバイトを単なる労働力として扱うのではなく、一人ひとりがブランドを体現する存在として育成する。そのために、「ハンバーガー大学」をはじめとする教育制度や、「オール・ジャパン・クルー・コンテスト」といった挑戦を称える文化を築いてきた。
さらに、モバイルオーダーなどデジタル化によって生まれた時間を、接客という人間にしかできない価値へ振り向けている。つまり、日本マクドナルドは、テクノロジーで人を減らすのではなく、人が人らしく働ける時間を増やそうとしているのだ。そこに同社の思想があるのだろう。
この特集から読み解くべきこと
ここに挙げた5本の記事は、それぞれが異なるテーマを扱っているようで、それらのテーマは一つのメッセージへ収束している。
それは、人事という考えを「人材を集める」ことから「人材を活かす仕組みを設計する」ことへ転換することの重要性だ。
コスト管理ではなく成長支援へ。そして外部専門人材も組織の力として取り込む。さらにシニア人材を退職させるのではなく、彼らの知識を次世代へつなぐ。それが人が働き続けたいと思える文化となる…
つまり、本特集によって描かれているのは、「これからの採用難の時代、企業全体を一つの人材エコシステムとして設計し直そうじゃないか!」というメッセージなのだ。
ボクの考察
だからこれからの時代、人事部は「人を集める」という概念ではなく「人をつなぐ」という考え方をしなければならないのかもしれない。
社員、フリーランス、シニア、副業人材…
これから企業は、単なる利益を生み出す仕組みではなく、それぞれの人の強みを組み合わせながら価値を生み出す場へ変わっていかなければならない。
採用難の時代だからこそ、本当に問われているのは採用力ではない。
問われているのは「組織そのものの設計力」なのだ。
参考リンク
・DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2024年9月号
