【読書記録 -80】世界はナラティブでできている
ロジカルシンキングだけでは世の中を渡れない
現代のビジネスシーンにおいて、論理的思考(ロジカルシンキング)は必須のスキルだ。しかし、データが溢れ、予測不能な事態が次々と起こる現代において、論理だけでは限界に突き当たることも少なくない。
アンガス・フレッチャー著『世界はナラティブでできている』は、文芸学と神経科学を融合させ、ナラティブを「脳のOS」として活用することで、その限界を突破する手法を提示している。
narrative(ナラティブ)とは「物語」「語り」「話術」を意味します。
しかし、単なる「ストーリー(出来事)」ではなく、「話す人の視点」や「話す人の感情」や「物語の解釈」にフォーカスする点が特徴です。
本書の著者 アンガス・フレッチャーは、オハイオ州立大学プロジェクト・ナラティブの教授であり、文学博士である。彼はスタンフォード大学でシェイクスピアの講義を担当しているほか、小説や詩、映画、演劇の科学的仕組みに関する2冊の著書、同業者による審査を受けた多数の学術論文を発表している人物だ。
なぜ「物語思考」が武器になるのか
我々人類は、ピンチやチャンスに対応するために、長い時間をかけて、創造的な行動を新しい計画(新しいプロット)にまとめあげる能力を身につけた。
それが「ナラティブ認知 = 物語思考」だ。

従来のビジネス教育が重んじてきた「統計」や「論理」は、過去のデータに基づき「何が正しいか」を導き出すには有効だが、前例のない未来に「何をすべきか」を創り出す力に欠ける。特にAIが出力する回答はそうだ。
一方、人間の脳は因果関係を物語として処理するように設計されている。物語が持つ「もし〜なら、こうなる」というシミュレーション能力こそが、不確実な未来を切り拓くための強力な武器となるのである。著者は本書の中で、その実例をたっぷりページを割いて語っている。
本書が提唱する、ビジネスの武器としてのナラティブ活用術は、以下の3つの柱に集約される。
1. 創造の最大化:プロセスのハイブリッド化
創造において重要なのは結果ではなく、そこに至る「プロセス」だ。しかし、原因から結果に向かうナラティブだけでなく、結果から原因に遡って考える「逆算のナラティブ」を働かせ、ハイブリッド化(掛け合わせ)していくことが不可欠だ。そのためには、成功事例だけでなく、失敗した事例も「包括的なライブラリー」として脳内に蓄えて、いつでも取り出せる状態にしておかなければならない。
2. 選択を研ぎ澄ます:最適化を捨てる勇気
意志決定の精度を高めるには、可能な限り「変数」を取り除き、思考をシンプルに保つことが求められる。完璧な最適化を目指してはいけない。特にビジネスにおいては「Good enough(=70%程度の完成度)」で迅速に判断を下し、目の前の利益よりも次世代、さらにその次の世代の成功を優先する長期的なナラティブを持つべきである。それが、結果的に最強の選択を生むからだ。
3. 創造と選択の分離:しきいを守る
創造のプロセスに「選択(批判)」を介入させてはいけない。新しいツールやルール、あるいは役割などを思いついた際、それを自分の過去の経験に照らして作り替えたり、捨てたりしてはならない。創造と選択の間には「しきい」を設けて分離させ、順序立てて思考を巡らせるべきである。純粋な創造を担保した後に、改めて冷静に取捨選択を行う。この順序を徹底することによってイノベーションを生むことができるのだ。
著者は本書の最後に以下のように書いている。
他者のナラティブを育てることに目的を見いだせたなら、自己のエゴイズムを、それとは真逆の方向に向け、私たちが出会うすべての同時代人の繁栄の中に自分の不死性を発見できるのだ。
多くの親、教師、師匠、友人はそこに日々の喜びを見出している。本書のこれまでの章で自然史から発掘してきた、倫理を活性化する方法がここにある。
1. 私たちの脳は物語思考者として進化した。
2. 個人の戦略(例えば視角を変えること)、および社会のナラティブ(例えば民主主義)によって物語思考はさらに進化させることが可能である。
3. こうした進化によって、身体・感情・知性の成長という自由と楽しみが生み出される。
4. 私たちの身体・感情・知性の成長は、私たちの周囲の人々の物語思考を強めることによって加速できる。
参考リンク集
