【読書記録 -154】教養としてのAI講義
AIを正しく理解するには、その歴史を知る必要がある
2022年11月、OpenAI社はChatGPTを一般に公開した。
それによってAIは、研究室の技術から誰もが日常的に使う道具へと変わったのだ。
しかし、本書『教養としてのAI講義』はそこから話を始めない。

本書の著者 メラニー・ミッチェルは、認知科学者 ダグラス・ホフスタッターのもとで博士号を取得したAI研究者だ。本書はAIを礼賛する本でも否定する本でもない。著者が長年AI研究に携わってきた立場から、その歩みと限界を冷静に見つめ直した本である。
AIの歴史は「期待と失望」の繰り返し
AI研究の始まりは1956年のダートマス会議に遡る。
当時の研究者たちは、人間の知能を機械で再現できる日がそう遠くないと考えていた。10年ほどでチェス世界王者を倒し、人間が行う仕事の大半をコンピュータが担うようになる。そんな予測が真剣に語られていた。
しかし、現実はそう簡単にいかないものだ。
ルールを記述する「記号的AI」は複雑な現実に対応できず、一方で人間の脳を模倣したニューラルネットワークも当時の計算能力では十分な成果を出せなかった。期待が膨らんでは失望し、研究資金が途絶える…そんなことを繰り返していた。
いわゆる「AIの冬」は何度も訪れているのだ。
深層学習革命は何を変えたのか
AIが再び脚光を浴びるきっかけとなったのが、深層学習の発展だ。しかし、深層学習革命は一つの技術だけで起きたわけではない。
関係した技術を以下に箇条書きしておくので、気になる方は書籍を買い求めてご確認いただきたい。
アルゴリズムの進歩
バックプロパゲーションの実用化
CNN(畳み込みニューラルネットワーク)の発展
AlexNetなどのネットワーク設計
ハードウェアの進歩
GPUの高性能化
並列計算が可能になり、大規模なニューラルネットワークを現実的な時間で学習できるようになった。
データの爆発的増加
インターネットの普及
デジタルカメラやスマートフォンの普及
ImageNetのような大規模データセットの整備
インターネット・クラウド環境の発展
大量のデータを収集・共有できるようになった。
クラウドによって巨大な計算資源を利用しやすくなった。
そう、アルゴリズムが突然天才になったから成功したのではなく、コンピュータの性能、ネットワーク、データ蓄積といった周辺技術が成熟したことで、一気に花開いたのだ。
膨大なデータを集める仕組みと、それを処理できる計算能力。
この二つが揃わなければ、AI研究が実用段階へ進むことはなかったかもしれない。
AIは「意味」を理解しているのか
AIは、人間とは異なる手がかりを使って対象を識別している。
人間は対象を「意味のまとまり」として見る。
例えば、人間が「犬」を見るとき、四本脚である、毛が生えている、顔の形、動き方、過去に犬と接した経験、などのさまざまな情報を結び付けて「これは犬だ」と理解する。
一方、画像認識AIが見るのは「ピクセル数値」だ。
AIは(大量の画像を学習することによって)「犬」とラベル付けされた画像に、どのような数値的特徴が頻繁に表れるかを探すのだ。それは、AIにとって重要なのは「犬」というラベルを正しく予測できる手がかりを見つけることだからだ。
人間が、形や動き、過去の経験、周囲との関係などを結びつけ、対象を意味のあるまとまりとして理解する一方、AIが学習するのは、大量のデータの中に繰り返し現れる統計的な相関だ。
そう、AIが正解を出しているからと言って、それが必ずしも人間と同じ理由で正解しているとは限らないのだ。
AI時代だからこそ「考える」
AIを使っていて感じることがある。
それは、AIは会話を拡げることは得意だということだ。
数行の入力をすると、数秒でその何倍もの文字数で関連する情報を書き出してくれる。
しかし対話を重ねていくと、情報がどんどん広がっていって最初の状態に戻れなくなってしまうことがある。それがAIの苦手なところだろうと思う。
バラバラな情報を一つの物語や理論として構造化すること。
いろいろな解釈の内で、何が本質なのか定義すること。
465ページ35万文字の中から、何を軸にして書評を書くか決めること。
AIは統計的な関連性を大量に提示してくれる。
しかし、その中から何を残し、何を捨て、どこに境界線を引き、一つの理論として組み立てるか。
その編集作業が、人間の思考の本質なのかもしれない。
