【読書記録 -147】『「真摯さ」とは何か』ハーバード・ビジネス・レビュー 2025年12月号
昨日、日本橋の丸善に立ち寄った。
普段、ボクはAmazonかBOOKOFFを利用することが多いので、本に関する流行に乗り遅れがちだ。だからリサーチを兼ねて書店に行く。大型書店の入り口付近に平積みされている本が売れ筋の(もしくは書店が売りたい)本だとボクが勝手に理解しているからだ。
日本橋丸善は2Fがビジネス関連のフロアだ。
まあ、見事に「AI関連」の本が並んでいたね。
やっぱりみんな気になってるんだなあ…
さて、そのAI関連書籍コーナーのちょっと奥の方に「ハーバード・ビジネス・レビュー」のバックナンバーコーナーがあった。
ハーバード・ビジネス・レビューは、1922年に米ハーバード・ビジネス・スクールによって創刊された世界最古のマネジメント誌で、マイケル・ポーターの「競争戦略」や、クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」などの著名なビジネス理論が、この雑誌から発表されている。
日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、世界の経営者やビジネスリーダーに愛読されているそうだ。ただし、だいたい120~150ページくらいの分量で2300~2400円(本号は特別号で3200円もした)と、まあまあお高めの価格設定である。
とはいえ、中身は濃い。
今回ボクが買った2025年12月号は、ピーター F. ドラッカーの没後20年を機に、彼が最重要視した「インテグリティ(真摯さ)」に焦点を当てた号だ。

本書においては、そのテーマに沿って各界の識者にインタビューが行われ、それぞれの立場から「インテグリティ(真摯さ)」が語られている。
真摯さとは何だろう
ドラッカーは、生涯を通して「インテグリティ(真摯さ)」をリーダーに欠かせない資質として語り続けた。しかし、その意味を一言で定義することは意外なほど難しい。
真摯さという資質の高い人とは、いったい何の能力が高い人なんだろう。
嘘をつかない人だろうか。
責任感が強い人だろうか。
今回はいつもの読書記録と趣向を変えて、ボクが気になった6名が語ったことを簡単にまとめてみようと思う。
ジム・コリンズ:「役に立つこと」を人生の軸にする
『ビジョナリー・カンパニー』で知られるジム・コリンズは、1994年にドラッカーから受けた一つの問いを紹介している。それは彼の研究の土台となった問いだ。
「成功できるかではなく、いかに役に立てるかを考えなさい。」
コリンズにとっての「インテグリティ(真摯さ)」とは、自分の成功よりも、社会への貢献を判断基準に置く姿勢だ。
田中弥生:自由社会を支える「市民性」
前会計検査院長の田中弥生は、ドラッカーを「社会生態学者」と表現している。
ドラッカーはナチズムを経験し、「無関心」が社会を壊すことを目の当たりにした。だから企業には利益だけでなく、人々に「位置」と「役割」を与えるコミュニティとしての役割があると考えたわけだ。
彼女にとっての「インテグリティ(真摯さ)」は、自由社会を維持するために、自分の役割を引き受ける市民性であると整理できるだろう。
中島隆博:「公共善」に開かれた立派さ
哲学者の中島隆博は、まず「インテグリティ」という言葉そのものを解剖している。
語源はラテン語の integritas 。「傷つけられない完全性」「分割されない状態」を意味し、「整数(Integer)」とも同じ語源を持つ。しかし、彼は日本語の「誠実さ」では、この意味を十分に表現できないという。
中島隆博は、インテグリティを「公共善に開かれた立派さ」と表現する。
自分を犠牲にする「滅私奉公」ではない。
個人としての軸を持ちながら、社会全体に開かれている状態なのだ。
高田明:人を幸せにするために会社は存在する
ジャパネットたかた創業者の高田明氏は、終始「顧客」の話をしている。
彼にとって重要なのは、商品を売ることではなく、その商品によって、お客様の暮らしがどう変わるかなのだ。
だから彼は、企業にとって利益は目的ではなく、その活動を続けるための燃料に過ぎないと語る。
企業は人を幸せにするために存在する。
高田明にとっての「インテグリティ(真摯さ)」とは、日々の仕事の中で誠実に顧客に価値を届け続けることなのである。
中満泉:極限状態でも失わないモラルコンパス
国連事務次長・中満泉氏がはさらに異なる視点から語っている。
彼女は紛争地で虐殺の危険にさらされた女性を守るため、国連職員としての権限をあえて逸脱し、その責任を後から報告した。
彼女は、そういった極限状態での判断を支えるものを「モラルコンパス(道徳的な羅針盤)」と呼ぶ。
中満泉にとって、状況がどう変わろうとも、自分が守るべき原則を見失わないこと。それが「インテグリティ(真摯さ)」なんだろう。
ドラッカー:真摯さは「習慣」である
最後に掲載されているのは、ドラッカー本人の論文「プロフェッショナルマネジャーの行動原理」だ。
本書には、成果をあげる経営者の8つの習慣が紹介されている。
何をすべきかを考える。
正しいことを考える。
意思決定に責任を持つ。
そして「私」ではなく「我々」を主語にする。
ドラッカーは、インテグリティを生まれ持った性格ではなく、毎日の意思決定と行動によって身につける「修練」として捉えているのだ。
真摯さの答えはひとつではない
6人は、それぞれ違う言葉でインテグリティを語っていた。
ジム・コリンズ:「役に立つこと」
田中弥生:「市民性」
中島隆博:「公共善」
高田明:「顧客価値」
中満泉:「モラルコンパス」
ピーター・F・ドラッカー:「習慣」
6人の答えはそれぞれ違っていた。
しかし共通していたのは、自分の利益ではなく、自分より大きな何かに仕える姿勢だった。
知識や技術は学べる。
だけど、その学んで得た力を何のために使うのかを決めるのが「インテグリティ(真摯さ)」なのである。
参考リンク
・DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2025年12月号「P.F.ドラッカー『真摯さ』とは何か」特集ページ
・編集長ブログ「P.F.ドラッカー 真摯さとは何か」
