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【読書記録 -94】ヒットをつくる調べ方の教科書

ヒットの9割は「調べ方」で決まる

―良い商品なのに、なぜか売れない―
―ターゲットを絞り込んでも手応えがない―

ヒットの成否は「ターゲット(誰に)」と「セールスポイント(何を)」のズレを解消できるかで決まる。現代広告の父デイヴィッド・オグルヴィは「リサーチに無関心な広告人は、敵の暗号を解読するのに無関心な将軍と同じくらい危険だ」と説いている。

現代はモノと情報が氾濫している。いわば飽食の時代だ。
そんな現代において、単に「良いもの」を作るだけではモノは売れない。だから、重要なのは(意思決定の精度を高めるための)リサーチ術なのだ。


それにしても、この本は分厚い。
本書『ヒットをつくる調べ方の教科書』は全体で512ページにも及ぶ。

本書の著者 阿佐見綾香は、電通の現役戦略プランナーだ。新卒で電通入社後、数多くのヒット商品に関わる。女性マーケティング専門チーム「GIRL'S GOOD LAB(旧・電通ギャルラボ)」に所属。新人教育プログラムのノウハウを体系化し、初心者でも(ド文系でも)実践できるリサーチ術を提唱している。

著者は、本書において「ネットでのデータ収集(定量調査やデスクリサーチ)」と「人に直接ヒアリングすること(定性調査)」の両方を、目的に応じて使い分け、組み合わせることを推奨している。

定性調査は(数値化できない)顧客の「感情」や「心理」を知ることができ、発見した事実の裏側にある「理由」まで理解できる。その一方で、インターネットなどによるデータ収集は、顧客のインサイト以外の業界のニュースやトレンドなどを押さえておくために必要だ。

いずれにせよ、定性調査にも、定量調査にも、どちらにも得意なことと不得意なことがある。どちらかに偏ってしまうから行き詰まってしまうのだ。得たい情報(事実の裏付けや全体傾向なのか、深層心理や理由なのか)に合わせて両者を賢く使い分けることが大事なのだろう。

売れない理由の多くは「ターゲット」に対する「セールスポイント」のズレによるものだ。リサーチの目的は、この2点を早い時期に正確に特定することにある。適切な設定ができれば、商品そのものに修正を加えなくとも、売上を伸ばすことが可能だからだ。


著者は、効果的なリサーチをするために「仮説を立てて検証」→「ターゲットとセールスポイントの絞り込み」→「顧客のインサイトの発見」という一連のステップを踏むことを勧めている。

1. 仮説を立てて検証する

リサーチにおいて「とりあえず調査しよう」と手当たり次第に情報を集めると、何に使えるかわからないデータばかりが集まり、時間とお金を無駄にしてしまう。

まずは、スタート時点で「一番ありえそうな仮説」を出すことから始め、検証を重ねてターゲットとセールスポイントを(確信が持てるものに)絞り込んでいくところから始めよう。

STEP 1:仮説の立案
リサーチを始める前に、まず「なんとなくの感覚」で仮説を立てる。

  • 与件の整理: ゴール、KGI、KPI、予算・制約条件を書き出す。

ゴール:戦略プランニングにおいて、現在の問題を解決した先の「望ましい理想的な状態」のことを指します。
KGI(重要目標達成指標:Key Goal Indicator):ビジネスにおいて目指す最終目標のことです。成果を数字で明確に定量できる形で把握するための指標であり、よく使われるものとして「売上」「利益」「市場シェア」「受注件数」「コンバージョン数」などがあります。
KPI(重要業績評価指標:Key Performance Indicator) KGI(最終目標)を達成する過程で必要となる、プロセスごとの中間目標のことです。 具体的には、「新規顧客数」「リピート数」「平均客単価」「顧客満足度」「受注率」「コンバージョン率」「PV数」「ダウンロード数」「商談数」「個人の営業売上高」「訪問件数」「取扱い店舗数」などが使われます。 KPIを設定する際は、「〇%アップ」「〇件」のように必ず数字とセットで設定することが重要とされています。

  • 問題と課題の使い分け:問題があるのか、課題があるのかを明確にする。

問題: すでに顕在化している悪い状態(例:売上が前年比20%減)。
課題: 理想の状態にするために解決すべきこと(例:20代の認知率を向上させる)。

STEP 2:仮説検証サイクル
立てた仮説を、以下の2つの手法を組み合わせてブラッシュアップする。

  • デスクリサーチ / フィールドワーク: 1人で既存の統計資料やSNS、店舗での観察(フィールドワーク)を行う。

  • インタビュー / アンケート: 「定性調査(インタビューなどで深く聞く)」と「定量調査(アンケートなどで数で測る)」を使い分け、多様な他者の意見を聞く。

STEP 3:打ち手の実行
ターゲットとセールスポイントが確定し、確信を得た段階で、広告やプロモーションなどの「打ち手」へ移行する。

2. ターゲットとセールスポイントを絞り込む

ここまで、何度も仮説検証サイクルを回したことによって「なんとなくの感覚」が精度の高い「直感」へと変わったら次のステップに進もう。それは、的確な「ターゲット」と「セールスポイント」を絞り込むことだ。

ターゲットプロファイリング:ターゲットセグメント(顧客を分類したグループ)という「集団」に見られる特徴の解像度を上げる分析のことを指す。

目的: ターゲットに商品を買ってもらうためのアプローチ方法や、適切なセールスポイントを見極めるための拠り所をつくります。
把握する項目: 性別・年齢・職業などの「基本属性」、メディア・消費・パーソナリティなどの「価値観と意識・行動の特徴」、さらに趣味や余暇の過ごし方などを把握します。
重要な視点: 特に「価値観」の分析が重要視されています。価値観を押さえることで、それに紐づくターゲットの意識の特性や行動の動機が把握でき、顧客自身も言語化できていない「インサイト(本質的な悩みや欲求)」をつかみやすくなるからです。

  • ペルソナ: プロファイリングしたターゲットの集団の中から抽出した、商品やサービスの「1人の理想の顧客像」のこと。ターゲットが「集団」であるのに対し、ペルソナは生きた人間に極力近づけた「1人の個人」に絞り込んで描き出す。

分析の視点: ペルソナでは「属性」よりも、「その人がどう考えるのか」「その人がどういう行動をとるのか」に注目します。具体的には「どんな悩み/欲求があるか」「行動」「意識・感情の変化」「商品・サービスとの接点」の4つの視点を深掘りします。
作成のコツ(実在の人物にする): ペルソナは架空の人物ではなく、「実在する人物(身近な人など)」に設定する「Prototype for One」という発想が推奨されています。架空の人物だと作り手・売り手側の都合の良い考えが反映されやすく、顧客を動かす本質的なインサイトを見つけるのが困難になるためです。
人数の目安: ペルソナは複数いても構いませんが、考えにくくなるのを防ぐため、1つのセグメントにつき2〜3人までとし、できるだけ自分が実際に会ったことのある人(インタビュー対象者なども含む)の中から選ぶのが良いとされています

3. 顧客のインサイトを発見する

具体的なターゲットである「ペルソナ」を設定できたら次のステップに進もう。次のステップは、顧客自身も言語化できていない、深くて本質的な悩みや欲求である「インサイト」を探り当てることだ。

この(インサイトの)分析が浅いと、施策(打ち手)が誰でも思いつくようなありきたりなものになり、ヒットにつながらない。インサイトを起点にゴールを設定することで、顧客を動かす強力なセールスポイントを見つけることができるのだ。

カテゴリーインサイトとヒューマンインサイト
以下の2つのインサイトの重なる場所に「キーインサイト(顧客を動かす欲求)」が隠れている。

  • カテゴリーインサイト: 商品に対する直接的な悩み

  • ヒューマンインサイト: 人間としての普遍的な欲求

質問力を上げる6つのコツ
良質なインサイトを引き出すためには、以下の6つのポイントを意識しなければならない。

1 .「なぜ」で深掘りする: 表面的な回答の裏にある動機を探る。
2.「具体的に」を重ねる: 曖昧な表現を排除し、事実を確認する。
3.事実(Fact)にフォーカスする: 憶測ではなく「いつ、どこで、何をしたか」を聞く。
4. 1問1答を徹底する: 複数の質問を一度にぶつけない。
5.専門用語を使わない: 相手の言葉に翻訳して質問する。
6.「もしも」で未来を聞く: 「もし〇〇なら使いたいか?」と可能性を問う。

16の根源的欲求を用いたインサイト分析
さらに、スティーブン・リース博士が提唱する「16の根源的欲求」を思考のガイドにすることが提唱されている。ターゲットの行動がこれらのどの欲求に紐づいているかを分析することで、セールスポイントを強化することができるからだ。

力: 影響力、支配力。
独立: 自主性。
好奇心: 知識、自己啓発。
承認: 拒絶されたくない。
秩序: 規律、几帳面。
貯蔵: 所有欲、倹約。
誇り: 道徳観、忠誠心。
理想: 社会正義、貢献。
交流: 友情、社交。
家族: 子供への愛。
地位: 名声、ブランド志向。
競争: 勝ちたい、ライバル意識。
ロマンス: 美意識、恋愛。
食: グルメ、食欲。
運動: 体を動かす喜び。
安心: 不安や恐れを避けたい。


リアル・エソラゴトシート

本書内には、「リアル・エソラゴトシート」というフレームワークが紹介されている(P340)。それは、電通の(女性マーケティングチームである)「GIRL'S GOOD LAB」と、(サンケイリビング新聞社の)「シティリビング」によって開発された、顧客自身も言語化できていない「インサイト(本質的な悩みや欲求)」を発見し、ヒットを生み出すためのフレームワークだ。

1. みんなこう思い込んでいる(エソラゴト) 氷山の顕在化している部分であり、世の中にありがちな思い込みや常識を書き出します。
2. 本当はこうなのでは?(リアル=インサイト) エソラゴトに対する違和感から、「本当はこうなのではないか?」というリアルな本質(インサイト)の仮説を立てます。
3. 実際にこんなことがわかっている!(裏付け・ファクト) 見つけ出したリアル(インサイト)を裏付けるための実際の事実を書き出します。
4. 実際にこんな消費が動いている!こんなものが売れている! そのインサイトに関連して、実際に世の中で動いている消費トレンドや、売れている具体的な商品名・ブランド名などを書き出します。

使い方とポイント みんなが思い描く常識である「エソラゴト」に対して、ギャップがある「リアル」を探し、さらに「裏付け」や「実際の消費動向」までをセットで考えます。 そして、ここで導き出した仮説をインタビューなどのリサーチで検証・深掘りしていくことで、ヒットにつながる強力なインサイトへと磨き上げることができるとされています。

リサーチに向き合うための考え方

本書の著者 阿佐見綾香は、リサーチを単なるデータ収集と捉えるのではなく「本当に良いものを、それを必要としている人に適切に届けるための強力な武器」として向き合うべきだと説いている。

最後に、正しくリサーチに向き合うための3つのポイントを挙げておこう。

  1. 戦略的な意思決定のための手段とする:
    現代におけるマーケティングは、ある意味「情報戦」だ。その入口である「調べる」ことでつまずいてしまうと、商品を売るための適切な戦略が描けなくなる。リサーチを駆使して、正しい「ターゲット」と「セールスポイント」にいち早くたどり着くことが重要なのだ。

  2. 必ず「次の打ち手」とセットにする:
    リサーチを単なる「ファクト集め」で終わらせてはならない。意味のある情報を拾い「次の打ち手」を見つけられなければ、そのリサーチはやらなかったことに等しい。常に自分なりの分析や解釈を加え、次のアクションを探すこととセットで進めることを習慣づけるべきだ。

  3. リサーチという手段を使い倒す:
    リサーチの根底には「こんなに素晴らしい商品や技術なのに、なぜ伝わらないのか」という思いがなければならない。それがリサーチに向き合う究極の目的であり、(素晴らしい商品や技術を必要としている人に適切に届けるために)リサーチという手段を使い倒そうという意思の源になる。

参考リンク集

・Amazon『ヒットをつくる調べ方の教科書』書籍紹介ページ
・GIRL'S GOOD LAB:電通内サイト


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