AIが奪うのは仕事じゃない
― AIは人の仕事を奪う ―
最近、そんな言葉をよく耳にする。
AIは文章を書き、画像を作り、プログラムを組み、動画や音楽まで作れるようになった。今まで人間が何時間もかけて行っていた仕事を、数秒で終わらせてしまう場面も珍しくない。
だから多くの人が「仕事がなくなる」と不安を感じる。
だけど、ボクはその表現に少し違和感を覚えている。
AIは、本当に人の仕事を奪っているのだろうか。
機械化とAIは何が違うのか
これまでの機械化は、とてもシンプルだった。
同じ問いに対して、何度でも同じ答えを返す。
それが機械の得意分野である。
同じネジを締める。
同じ部品を削る。
同じ計算をする。
入力が同じなら、出力も同じ。
だから機械化によって品質のばらつきは小さくなり、生産量も飛躍的に増えた。
一方、AIの場合は少し違っている。
AIは、毎回違う問いに答える。
「〇〇のメールを書いて」
「△△の企画書を作って」
「××の文章を添削して」
「□□のアイデアを出して」
入力は毎回違うにもかかわらず、AIはその問いに対して多くの人が納得しそうな平均的な答えを返してくる。
つまり、AIが得意なのは自動化ではない。
平均化なのだ。
AIは品質のばらつきを小さくする
製造業には「シックスシグマ」という考え方がある。
それは、品質のばらつきをできるだけ小さくしようとする取り組みだ。
シックスシグマ(Six Sigma、6σ)とは、統計学的手法を用いて業務プロセスの「ばらつき」を抑え、欠陥や不良率を極小化(100万回に3.4回未満)させることで顧客満足度と経営品質の向上を同時に実現する、データ重視の業務改善・品質管理手法です。
「シグマ(σ)」は、データのばらつき度合いを示す統計用語(標準偏差)です。1980年代に米モトローラ社で開発され、GE(ゼネラル・エレクトリック)社が全社的に導入して大成功を収めたことで世界中に普及しました。
人間が仕事をすると、その日の体調や経験、得意不得意によって成果物にはどうしてもムラが生まれる。しかしAIは、そのばらつきを小さくすることができる。
つまり、人間が頑張ってσ3程度のばらつきの中に収めようとしていた成果物を、AIであれば易々とσ2程度の中に収めてしまう。そんなイメージだ。
だから品質は安定し、ミスは減り、教育コストも下がる。
企業から見れば理想的だ。だから多くの企業が「AIを導入せよ」と大号令をかけるのだ。
AIが奪うのは仕事ではない
しかし、ばらつきのない均質な成果物がアウトプットできるようになったからといって、即座にあなたの仕事に変化が起きるわけじゃない。むしろ均質なアウトプットができるようになることは、あなたにとっても良いことだ。
しかし、その成果物に対する市場からの見られ方は変化していく。
これまでは、多少ばらつきがある成果物であっても、それを受け入れる市場が存在した。しかし、AIによって均質な成果物がいつでも手に入るようになると、市場の基準そのものが変わる。σ2以内の成果物が豊富にあるのに、あえてσ3を買おうとする人がそんなに多くいるはずがない。
これは、人間がAIに負けたとかの話ではない。
市場がその品質を必要としなくなったということだ。
だから、人は「AIに仕事を奪われた」と感じるわけだが、実際に失われるのは仕事そのものではなく、その(σ2~σ3の)成果物に対する市場の需要なのである。
向き合うべき相手
AIが普及した現代において、多くの人は「AIより少し良いものを作ろう」と考える。だけどそれは市場が求めなくなった品質帯で競争しているだけかもしれない。
本当に考えるべきことは、AIと競争することではないと思う。
市場は何を求めているのか。
誰がその価値を必要としているのか。
その問いであるべきだ。
AIが人から奪うのは仕事じゃない。需要だ。
ボクらが向き合うべき相手はAIではない。
需要の変化なのである。
