GAFAはなぜ急成長できたのか ―ドラッカーが見ていなかったもの―
― 組織が複雑になりすぎるとマネジメントできなくなる ―
ボクの好きなドラッカーの言葉だ。
しかし、ボクは一つだけ気になっていることがある。
もしドラッカーの理論が正しいなら、GAFAのような巨大企業は存在しないはずだ。だけど現実には、世界中に数十万人規模の社員を抱え、猛烈なスピードで成長を続けてきた企業が存在する。
なぜ、そのようなことが可能だったのだろう。
…そんなことを考えていたとき、坂本龍一氏と福岡伸一氏の対談集『音楽と生命』に出会った。

本書は音楽の本であり、生物学の本でもある。
しかし、ボクはこの本を組織論というコンテクストで読んだ。
福岡伸一は、本書の中で「ロゴス」と「ピュシス」という言葉を使う。
ロゴスとは、人間が世界を理解するために切り取った概念や法則だ。一方のピュシスとは、生命そのものが持つ流れや動きであり、自然そのものを指す。
人間は夜空に星座を見つける。
夜空には無数の星が散らばっているだけなのに、人間はそれらを線で結び、「オリオン座」や「北斗七星」という意味を与える。その営みがロゴスだ。
それは世界を理解するためには欠かせない営みだけれど、ロゴス化されたものを現実そのものだと思い込んだ瞬間、人は本来の自然であるピュシスから離れてしまう。
会社にもロゴスはある。
ガバナンス、ISO、KPI、組織図、評価制度、マニュアル… どれも会社を理解し、運営するために必要な仕組みであるが、それらは「会社そのもの」ではない。
本当の会社は、人と人との関係や雑談、信頼、空気、現場の判断といった、生きた営みによって動いている。つまり、会社にもピュシスがあるのだ。
福岡伸一は、本書の中で「生命とはエントロピーの増大に抗い続ける動的平衡」であると語る。つまり、生命は機械のように固定されたパーツの集合ではなく、自らをわざと壊して新しい分子を再構築し続けることで、全体のバランスを保って生きているのだ。
生命は壊れながら保たれている…
細胞は絶えず入れ替わり、古いものを捨て、新しいものをつくる。その均衡がエントロピーに凌駕された瞬間、生命は終わるのだ。
さて、この考えを企業に当てはめてみよう。
ドラッカーが組織の複雑化を問題にした時代と、現代では決定的に違うものがある。それは、テクノロジーによって加速したエントロピーの増大速度だったのではないだろうか。
テクノロジーは企業の成長スピードを加速させた。
企業が急成長すれば人が増える。
人が増えれば情報量も増える。
情報量が増えると意思決定も複雑になる。
そして企業全体の経済活動量が大きくなり、その企業が関連する市場も急激に拡大する。そしてその反動で、淘汰されるもの、破壊されるものが生まれてくるのだ。
そう、現代社会は、テクノロジーの加速によって、エントロピー増大のスピードまで速くなってしまったのだ。そして皮肉なことに、そのエントロピーを抑え込むため、企業はさらにロゴスを必要とするようになった。
だから巨大企業ほど、ガバナンスや標準化、プロセスやデータを重視するのだろう。
しかし、この考え方をそのまま中小企業に持ち込むのは危険だ。
なぜなら、中小企業は巨大企業ほどエントロピーが大きくないからだ。社員が10人程度の会社なら、社長は毎日現場を見ることができるし、部下と会話もできる。空気感の機微も感じることができる。そう、ピュシスがまだ十分に生きているのだ。
その会社に大企業と同じ量のロゴスを持ち込むと、かえって身動きが取れなくなる。せっかく息づいているピュシスを殺してしまうことになる。
必要なのは、大企業の制度を真似することじゃない。
大事なのは、自分たちのエントロピーの大きさに見合ったロゴスを持つことなのだ。測るべきものは数多くあるが、その前提となる「自社がどれほどのエントロピーを抱えているのか」を見誤ると、必要なロゴスの量まで見誤ってしまう。
福岡伸一は、本書の中でこう述べている。
「個体の生命が有限であることが、はすべての文化的、芸術的、あるいは学術的な活動のモチベーションになっています。有限だからこそいのちは輝く。」
ボクはそこに「経営」という言葉も加えたい。
