【読書記録 -105】恐れのない組織
なぜ現代組織において心理的安全性が重要なのか
現代は「VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性、の頭文字を取った呼称)の時代」だ。
高度経済成長していた時代の仕事は(単純作業が中心だったため)上司が不安を煽って部下を動かす管理方法が通用した。しかし、VUCAの時代では多様な人々が協力し合い、誰もが気兼ねなく意見を言える環境作り(心理的安全性)が、組織の成功に欠かせないのだ。
エラー報告の逆説
エイミー・C・エドモンドソンは、本書の中で「エラー報告の逆説」という調査結果に触れている。エラー報告の逆説とは「優秀なチームほどミスの報告数が多い」という現象のことを指している。
著者が医療チームを調査した際、有能なチームほど(そうじゃないチームに比べて)ミスの報告が多いことが判明したのだが、実は本当に多くミスを犯しているわけではなく、(ミスを率直に報告できる「心理的安全性」があったため)ミスが隠蔽されずに報告されることにより、ミスの数が多く見えていたのだ。
多くの職場では「対人関係のリスク」を避けるための「沈黙」が蔓延している。人は無意識のうちに(組織の将来的な利益よりも)今この瞬間「無知や無能だと思われたくない」という心理を優先してしまうからだ。この「沈黙」が、ミスを隠蔽させ、組織のイノベーションを阻害する要因だ。
だからと言って「心理的安全性が高い=快適でぬるま湯のような職場」というわけではない。むしろ「高い業績基準を持ち、率直に意見を戦わせることがあたりまえの職場」であり、且つ「絶えず学習と成長を続ける職場」こそが本当に心理的安全性が高い職場なのだ。
心理的安全性が高い職場と低い職場
心理的安全性が高い職場と低い職場の違いを見てみよう。
1. 失敗やミスの捉え方
心理的安全性の高い組織:ミスが迅速に報告され、すぐさま修正が行われる。失敗を「回避可能な失敗」「複雑な失敗」「賢い失敗」に分類し、イノベーションに不可欠な試行錯誤(賢い失敗)を歓迎し、そこから素早く学習する文化がある。
心理的安全性の低い組織:従業員は「無能だと思われたくない」「人間関係を損ねたくない」という不安から、ミスや問題を隠蔽したり、沈黙を選んだりする。根本的な原因を解決せず、その場しのぎの「次善の策」が横行するため、業務プロセスの改善が遅れる。
2. 多様性の活かし方
心理的安全性の高い組織:多様な専門知識や価値観を持つメンバーが集まり、意見の衝突が起きても、それを恐れずに建設的な議論を交わすことができる。この率直な意見のぶつかり合いがイノベーションやアイデアの創出につながる。
心理的安全性の低い組織:上司や周囲の顔色をうかがうため、有益な情報や異なる視点が共有されない。その結果として市場の変化に取り残されたり、イノベーションの機会を逃したりする。
3. 目標達成へのアプローチ
心理的安全性の高い組織:リーダーが「状況的謙虚さ」を持ち、メンバーに積極的に意見を求める。高い業績基準と心理的安全性が両立しており、メンバーが共通の目標に向かって協力し合うことによって高いパフォーマンスを発揮することができる。
心理的安全性の低い組織:リーダーが「不安」や「恐怖」を煽ることで従業員をコントロールしようとする。達成困難なノルマと心理的安全性の欠如が組み合わさると、従業員は目標を達成するために不正行為に手を染めるようになり、企業にとって致命的なリスクを抱えることになる。
本書の著者 エイミー・C・エドモンドソンは、ハーバード・ビジネススクール教授だ。彼女は自身の組織学習の研究において「心理的安全性」の概念を提唱し、現場に即した研究によって組織のあり方を問い直している。
彼女は、失敗を「ルール逸脱による回避可能な失敗」「要因が複雑に絡み合う複雑な失敗」「未知の領域での試行錯誤から生まれる賢い失敗」の3つに分類した。VUCAの時代にイノベーションやアイデアを創出するには、(組織内に)この「賢い失敗」を称賛し、迅速に学習する文化が不可欠なのだ。

心理的安全性を担保するためのマインドセット
エイミーは「心理的安全性を作るのはさほど難しいことではない」と説いている。
ボクたちがやるべきは「状況的謙虚さ」を示すことだ。「状況的謙虚さ」とは、上司自身が「自分がすべての答えを持っているわけではなく、未来を見通すことはできない」と率直に認めることを指す。
重要なのは、(単に控えめであるということではなく)自分の能力に自信を持ちつつも、「自分もみんなと同じようにミスをする人間だ」と発信する姿勢だ。
なぜなら、上司がすべてを知っているような振る舞いをすると、周囲は無知や無能だと思われることを恐れて発言できなくなってしまうが、逆に上司が「自分も何か見落としているかもしれないから、みんなの意見が必要だ」と積極的に声を求めることによって、メンバーの対人関係のリスクが軽減されるからだ。
リーダーのツールキット
エイミーは、心理的安全性を高めるための「リーダーのツールキット」について解説している。それは「土台をつくる」「参加を求める」「生産的に対応する」という3つのステップで構成されている。
1. 土台をつくる
メンバーが意見や懸念を言いやすくなるための前提条件を整えるステップ。このステップでは、チーム内に「期待と意味の共有が自然発生すること」を目指す。
仕事をフレーミングする:まずは、自分たちの仕事が「複雑で不確実性さが高く、そして相互依存的である」ことをメンバーと共有する。その上で(メンバーの共通認識として)失敗を非難するのではなく、イノベーションや成長に不可欠な「学習の機会」とリフレーミング(捉え直し)する。
目的を際立たせる:自分たちの仕事がなぜ重要で、誰の役に立つのかを明確に伝え、メンバーの意欲を刺激する。
2. 参加を求める
対人関係の不安を減らし、実際にメンバーから声を引き出すためのステップ。このステップでは、組織のメンバーが「自分の発言が歓迎されているという確信を持てるようになる」ことを目指す。
状況的謙虚さを示す:リーダー自身が「自分はすべての答えを持っているわけではない」「間違うこともある人間だ」と率直に認め、学び続ける姿勢を示す。
探究的な質問をする:「何か見落としていないか?」「違う見方をする人はいないか?」といった、好奇心に基づく良質な質問を投げかけ、メンバーの発言を促す。
仕組みとプロセスを確立する:意見を募るためのフォーカス・グループや、ミスについて話し合う分析会など、発言を促す具体的な場や仕組みを設ける。
3. 生産的に対応する
勇気を出して発言したメンバーに対して、安全を実感させるためのステップ。このステップでは、組織に「絶え間ない学習への方向づけが定着すること」を目指す。
感謝を表す:耳の痛い報告や疑問を投げかけられた際、まずは「指摘してくれてありがとう」と感謝を伝え、相手の努力を評価する。
失敗を恥ずかしいものではないとする:失敗を非難の対象にするのではなく、原因を究明し、システムを改善するための前向きなステップ(未来への学習)へとつなげる。
明らかな違反に制裁措置をとる:意図的なルール違反や組織を危険にさらす行為に対しては、公正かつ厳格な処罰を下す。境界線を明確にすることによって心理的安全性が強化されるからだ。
このツールキットを一度実行すれば心理的安全性が担保されるということではない。組織のリーダーが中心となって、このツールキットを双方向かつ反復的に実践し続けることが重要だ。
そうすることによって、「自己防衛」から「自己表現と挑戦」へとマインドセットの転換が進み、恐れのない(心理的安全性の担保された)組織を作り上げることができるのだ。
参考リンク集
・Amazon『恐れのない組織』書籍紹介ページ
