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【読書記録 -155】『データを収益化する』ハーバード・ビジネス・レビュー 2026年5月号

どうすればデータを価値に変換できるのか

大企業はデータを豊富に持っている。
だが、中小企業はそういうわけにいかない。

それは、中小企業は「データに頼らなくても、小回りが利くことで(経営者の感覚で)サバイブできてしまう」こと、そして「データを測定するための機器に投資するほどの資金を持っていない場合が多い」という2つの理由によると思われる。

しかしAIの台頭によって、データ取得にかかるコストも、データ分析にかかるコストも下がっている。これを経営戦略に活かさない手はないとボクは思う。

さて、ハーバード・ビジネス・レビュー2026年5月号の特集は「データを収益化する(Data Monetization)」だ。

本特集の問いは「データをどう分析するか」ではない。
蓄積してきたデータを、どうすれば顧客が対価を払う価値へ変換できるのか… そのための「稼げる力」とは何か?という論点で、以下の実例がまとめられている。

・富士フイルムの事業変革
・データマネタイゼーションのフレームワーク
・NTTドコモの人流データ
・オムロンのGEMBA DX
・CDO(最高データ責任者)の役割と評価

後藤禎一

過去の資産を未来の「稼げる力」へ変える

富士フイルムホールディングス 代表取締役社長・CEOの後藤禎一は、写真フィルム需要が10年で10分の1になった危機を、どのように次の成長へ転換したのかを語っている。

問い:企業が蓄積してきた技術やデータは、どうすれば新しい事業になるのか。
結論:過去の資産を別の角度から捉え直し、長期的に利益を生み続ける仕組みへ変えることが重要である。

同社は、医療用画像情報システムPACSを単なる画像管理システムではなく、良質な医療データを集める「センサー」と捉え直した。そこから得られるデータをAI診断支援へつなぎ、新たな付加価値を生み出しているのだ。

後藤は、データの価値は、新しく集めることではなく、すでに持っているものを再定義することで生まれると語っている。

スラージ・スリニバサン

データは誰の何を解決するのか

ハーバード・ビジネス・スクール教授のスラージ・スリニバサンらは、企業がデータを収益化するための具体的なフレームワークを提示している。

問い:なぜ多くの企業は膨大なデータを収益につなげられないのか。
結論:データそのものではなく、顧客と課題から考える必要がある。

著者らは、以下の3つの問いを挙げている。
1. 誰がどの用途で使うのか
2. 直接収益化するのか、既存商品を強化するのか
3. 生データ、インサイト、ソリューションのどの形で提供するのか

重要なのは、最初から巨大なデータ基盤をつくることではない。既存の顧客や取引先が抱える課題を見つけ、そこから商品を設計することだ。

データの価値は、その「量」ではない。
(誰かの)意思決定をどれだけ変えられるかで決まるのである。

鈴木俊博

人流データを社会の意思決定へつなげる

NTTドコモで「モバイル空間統計」の立ち上げに携わった鈴木俊博は、約9100万台の携帯電話から得られる人流データを、企業や社会の課題解決へつなげている。

問い:巨大な人流データは、どうすれば社会に受け入れられ、収益を生むのか。
結論:技術を先行させるのではなく、社会的な信頼を構築しながら利用価値を示すことが重要である。

ドコモはサービス開始までの5年間、法律やプライバシー、社会受容性の問題と向き合った。まず防災や都市計画など公共性の高い分野で実績を積み、「社会に役立つデータ」としての信頼を獲得した。

そして現在では、外部企業のサービスへ人流データを組み込むB2B2Xモデルへ発展させている。つまりNTTドコモは、データを販売する商品というよりも、他者の意思決定を支えるインフラと定義し直したのだ。

辻永順太

製造現場のデータをサービスへ変える

オムロン代表取締役社長CEOの辻永順太は、製造現場に設置された機器から得られるデータを活かし、「モノを売る会社」から「モノとサービスを提供する会社」への転換を進めている。

問い:製造業は、現場のデータをどうすれば新しい収益源へ変えられるのか。
結論:自社製品に閉じず、顧客の既存設備まで含めて課題を解決することが重要である。

オムロンのデータフローコントローラ「DX1」は、他社製機器との互換性を重視して設計されている。自社製品への囲い込みよりも、顧客がすでに持つ設備を活かすことを優先したのだ。

これはデータを囲い込む戦略ではなく、顧客の現場全体をつなぐことで、自社がプラットフォームになるという戦略なのである。

スラージ・スリニバサン

CDO(最高データ責任者)はデータの価値を金額で示す

スリニバサンらは、最高データ責任者であるCDOが短命に終わりやすい理由についても論じている。

問い:なぜデータ部門の成果は、経営陣から評価されにくいのか。
結論:CDOが技術的な成果ではなく、事業価値を共通言語として示せていないからである。

データ基盤の整備やリテラシー向上は重要だが、それだけでは経営層に投資の必要性を説明できない。増分利益、コスト削減、顧客維持率など、財務的な指標へ置き換える必要がある。

そのためには財務部門と連携し、そのデータ施策がどの部門にどれだけの価値を生んだのかを可視化しなければならない。

CDOに求められるのは、データを管理する力ではなく、データの価値を経営の言葉へ翻訳する力なのである。

データを収益へ変えるのは接続する力

ここに挙げた論考は、いずれもデータそのものを販売することから始めているわけではない。共通しているのは、自社が保有するデータと、顧客が抱える課題を接続していることである。

データは、集めるだけでは収益を生まない。
それを分析したとて、まだ価値にはならない。

顧客の課題と結び付き、商品やサービスとして提供され、対価が支払われる仕組みまで設計されて初めて収益になる。

つまり「データを収益化する」ために重要なのは、データを起点として、「ビジネスモデル を再設計する」ことなのだ。

参考リンク

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2026年5月号

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