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【読書記録 -113】52ヘルツのクジラたち

4分の3ほど読み進めたところで手が止まった。

どう贔屓目に見ても、ここからハッピーエンドになる感じがしない。ここまでいくつか新しい展開が描かれてきたが、そのどれにも希望を見いだせないのだ。

物語の前半、主人公の貴湖は家族から虐待によって心身ともに限界を迎え、大分の田舎の一軒家へ移住する。そして、彼女はそこで言葉を発せない少年と出会う…


ボクはふと、以前知り合った「心因性失声症」の人のことを思い出した。

彼とのやり取りは筆談だった。
だけど、彼は歌が上手かった。
本人も「なぜだかわからないけど、歌っているときは声が出る」と言っていた。ただ、魂の叫びのような歌声だったけど…

心因性失声症であっても「歌は歌える」ケースはあります。
普段の会話では全く声が出ない、あるいはささやき声しか出ない状態でも、メロディに乗せることで無意識に声帯がコントロールでき、普段通り歌えることは珍しくありません。
会話は左脳で言語を組み立てて話すため、精神的なストレスやトラウマがブロックとして働きやすいのですが、歌う際は右脳でメロディやリズムを処理するため、会話のブロックを迂回して声が出ることがあります。

作中に登場する「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラに聴き取れない、少し高い周波数で歌うクジラのことだ。真っ暗な深海では、仲間とのコミュニケーションは歌声しかないが、それが絶対に他のクジラに届くことがない孤独なクジラだ。


本作『52ヘルツのクジラたち』の作者 町田そのこは福岡出身の小説家。地方に生きる女性の生きづらさや家族の歪みを、繊細かつ力強い筆致で描くことで定評がある。本作は彼女の初の長編小説で、2021年の本屋大賞を受賞している。

あの心因性失声症の彼は今どうしているだろう。
普通に会話ができるようになったのだろうか。
あの時よりやわらかい声で歌えるようになったろうか。

念のため… 本作はちゃんとハッピーエンドで終わる。
だから、安心してじっくり読むといいと思うよ。

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