【読書記録 -162】日本でいちばん大切にしたい会社
18年前に書かれた本
『日本でいちばん大切にしたい会社』
著者の坂本光司は、中小企業経営を専門とする研究者だ。全国8,000社を超える企業を訪ね歩き、長年の現地調査から「いい会社」の共通点を研究してきた。
ボクは彼のことを、研究者というより「フィールドワーカー」として(勝手ながら)リスペクトさせてもらっている。本書は、そうした彼の長年の調査を基にまとめられた一冊だ。

本書が出版されたのは2008年。
当時の日本は、リーマンショックや派遣切りが社会問題となり、有効求人倍率は1.0を下回っていた。つまり、仕事をに対して仕事を探す人の方が多い時代だったのだ。
一方、現在は人手不足が深刻化し、有効求人倍率は1.0を超えている。企業が人を探す時代へと大きく変わり、AIの普及もあって経営を取り巻く環境は18年前とは大きく異なる。
時代が変わっても言い訳は変わらない
著者は本書の中で、経営者が口にしがちな「五つの言い訳」を紹介している。
景気や政策が悪い
業種・業態が悪い
規模が小さい
ロケーションが悪い
大企業・大型店が悪い
そして、そのような言い訳をするのではなく「景気は与えられるものではなく、自分の力で作るもの」だと説く。
2008年には「景気が悪い」が代表的な言い訳だった。しかし18年後の今は、「人手不足だから」「AIの時代だから」という言葉に置き換わっている。
時代背景は大きく変わったものの、経営がうまくいかない理由を会社の外側に求めるという構造は、結局たいして変わっていないのだ。
「本当の経営」とは何か
一方で、著者は「本当の経営」とはどのようなものかを、10ページを割いて解説している。
それは「五人に対する使命と責任」を果たすことだ。
著者は、以下の5つのステークホルダーを幸せにする行動こそが、本当の経営だと説いている。そしてその五人には優先順位も付けられている。
社員とその家族
外注先・下請け企業の社員
顧客
地域社会
株主
株主はもちろん大切だ。中小企業の場合、その株主は自分自身だったりするだろう。しかし、その株主の幸せは、社員や顧客、地域社会を大切にした結果として生まれるものだという考え方である。
そして本書では、その「五人に対する使命と責任」を経営理念に掲げて、実践している企業が実例として掲載されている…
18年後の検証
ボクはまあまあ意地悪な人間だ。
だから、2008年に本書で紹介されていた企業が現在どうなっているんだろう?なんてことを、すぐ思いついたりするのだ。
本書に紹介されていた「五人に対する使命と責任」を経営理念に掲げて、実践している企業は以下の5社だ。しかし、ちょっと調べてみると5社すべてが18年経った今でも健在であり、当然「良い会社」として高く評価され続けている。
日本理化学工業:知的障がい者雇用を積極的に進めるチョークメーカーとして、現在も全国から視察が訪れている。
伊那食品工業:「年輪経営」を掲げ、社員の幸せを重視する経営を今も貫いている。
中村ブレイス:島根県大田市に本社を構え、義肢装具やシリコーン製エピテーゼの製造を続けている。
柳月:北海道・十勝を代表する菓子メーカーとして、地域に根ざした経営を続けている。
杉山フルーツ:静岡県富士市の果物専門店として営業を続け、果物を生かした商品づくりでも知られている。
もちろん、5社とも決して順風満帆だったわけではないだろう。それでも18年間「いい会社」として存続してきた事実は重い。
変えてはいけないもの
18年前で社会は大きく変わった。
有効求人倍率は反転し、AIが普及し、企業を取り巻く環境も大きく変化した。
しかし本書で紹介された5社は、そうした時代の変化に振り回されることなく、「五人に対する使命と責任」を果たし続けてきた。だからこそ、18年経った今でも「いい会社」として存続しているのだろう。
時代が変わっても、景気が変わっても、経営環境が変わっても、変えてはいけないものがある。
本書は、それを教えてくれる一冊だ。
そして18年という時間が、著者の主張が正しかったことを証明していると言えるだろう。
参考リンク
Amazon:日本でいちばん大切にしたい会社
