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【読書記録 -160】組織ガバナンスのインテリジェンス

インテリジェンスとは何か

インテリジェンス」とは何だろう。

英語の intelligence は「知性」や「知能」と訳される。
しかし、本来はそれだけを意味する言葉ではない。
情報を収集・分析し、意思決定に役立つ知見へと変換する能力。それを「インテリジェンス」と呼ぶ。

本書『組織ガバナンスのインテリジェンス』は、日本企業が経験してきた改革や失敗を、組織の意思決定に生かす知見として整理した一冊だ。

本書は、日本のコーポレートガバナンス改革に携わってきた13人の実務家・研究者へのインタビューを実施し、八田進二氏が編著を務め、まとめたものだ。ガバナンスの理論を体系的に解説した本ではなく、制度改革や企業経営の最前線で起きた出来事を、それぞれの当事者が振り返り、次の世代へ知見として残そうとした「証言集」である。

ボクは、これまでガバナンス関連書籍を二冊読んでいる。

一冊目では、中小企業にとってガバナンスがなぜ必要なのかを考えた。

二冊目では、ガバナンスを「企業を監視する仕組み」ではなく、「不確実な環境の中で組織を目的地まで導くための仕組み」と整理した。

そして本書においては、―ガバナンスという仕組みは、何によって進化するのか― という問いに対する答えを探っていこうと思う。

ガバナンスは企業価値を高めるために生まれた

ガバナンスは、不祥事を防ぐために生まれた制度ではない。

日本取引所グループ初代CEO・斉藤惇氏によると、1970年代、アメリカの年金基金は、株式を売買するだけでは十分な運用成果を得られなくなった。そこで保有したまま企業価値を高めるため、経営者へ改善を求めるようになる。その延長線上に「コーポレートガバナンス」という概念が生まれたという。

一方、元厚生労働大臣だった塩崎恭久氏は、政治の立場から金融ビッグバンやコーポレートガバナンス・コードの策定に関わっていた。その目的は金融市場の自由化というより、企業が持続的に価値を生み出せる環境を整えることだったようだ。

制度だけではガバナンスは機能しない

制度を整えただけでは組織は変わらない

コニカミノルタでは、経営統合の際、前身であるコニカの植松富司社長が「社長が内輪の論理だけで経営判断をし、誰からも意見されないのは良くない。」と考え、指名委員会等設置会社へ移行した。経営を執行するCEOと、その経営を監督する取締役会を明確に分離し、客観的な視点から経営をチェックできる体制を整えたのだ。

一方、LIXILでは創業家による不透明な社長解任をきっかけに経営が混乱した。その後、社外取締役として取締役会議長に就任した松崎正年氏は、ガバナンス委員会の設置や外部機関による実効性評価を進め、監督機能を立て直していく。

松崎氏は、執行と監督の関係をラグビーに例えている。
試合中にプレーするのはキャプテン(CEO)だが、試合全体を俯瞰し、必要なら選手交代を判断するのはヘッドコーチ(取締役会)だ。取締役会は、組織全体を見渡し、必要ならトップを交代させるという責任を負うものである。

ガバナンスを支えるのは文化である

悪い情報ほど早く共有すること

元資生堂副社長の岩田喜美枝氏は、住友商事の「バッドニュース・ファースト」の文化について紹介している。

原因が分からなくても、まず一報を入れる。
これは単なる報告ルールを超えて、組織が重大な失敗を防ぐための文化なのだ。

また、元金融庁総合政策局長の佐々木清隆氏は、カネボウやオリンパスなど数々の不祥事に関わった経験から「インテグリティ(誠実性)」の重要性を説いている。

制度があっても、都合の悪い情報を隠す文化があれば、不祥事は繰り返される。どれほど優れた取締役会があっても、情報が届かなければ正しい判断はできない

つまり「ガバナンス」とは、その制度や部署を作ることではなく、情報が組織の中を健全に流れる状態をつくることなのだ。

ガバナンスを進化させるのはインテリジェンスである

さて、そうなると「インテリジェンスの高さ」が、知識量の多さではないことがわかってくる。

過去の経験(や場合によっては失敗)を記録し、その背景を分析し、次の意思決定に役立つ知見へ変換する、そのスムーズさがインテリジェンスの高さなのだ。

マシュー・サイドは、彼の著書『失敗の科学』の中で、失敗から学ぶ組織こそが強いと説いている。

本書もまた、日本企業が経験してきた数々の成功と失敗を、未来の意思決定へ生かすための知見として整理した一冊だ。

ガバナンスとは、組織が経験をインテリジェンスへ変換し、失敗から学び続けることで、少しずつ進化していく営みなのである。


参考リンク

Amazon『組織ガバナンスのインテリジェンス ―ガバナンス立国を目指して―』

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