【読書記録 -98】企業成長の理論
やっと読むタイミングが来たなあ。
この本を買って2年くらい積んでいた気がする…

本書『企業成長の理論』の著者 エディス・ペンローズは、米英で活躍した女性経済学者。企業の成長の内的メカニズムを解明し、RBV(リソース・ベースド・ビュー)の母と呼ばれる人物だ。彼女が提唱したのは、「外部の市場環境よりも、企業内部の熟成こそが成長の鍵を握る」という経営戦略の理論だ。
ペンローズの視点
ペンローズがこの本を書いた1950年代は「資本主義の黄金時代」と呼ばれた時代だ。軍事技術が民間転用されたことによって、多くの先進国で爆発的な技術革新が進んでいたからだ。よって、機械を増やせば増やすほど利益を生むことができていたが、そこに「人」や「組織」という視点は欠落していたのだ。
しかしペンローズは、企業の本質を「知識と経験を共有する人間の集団」と定義し直した。つまり彼女は、企業を「資源(リソース)の集合体」として捉えたのである。
資源とサービス
ペンローズの理論のベースになるのは、「資源(リソース)」と、そこから生み出される「サービス」という考え方だ。
資源: お金、機械、オフィス、社員など。
サービス: その入手した資源を使って何ができるか。
ペンローズは、「資源そのものは市場で買えるが、それを使いこなす『能力(サービス)』は、その組織の中で時間をかけて培った『経験』からしか生まれない」と説いた。つまり、他社が簡単に(お金で)真似ができない強みとは、この「経験に基づいた資源の使い方」にあるということだ。
ペンローズ効果
ペンローズ効果とは、「会社の成長スピードは、社内の管理職が育つスピードを超えられない」という法則だ。
会社の規模を拡大しようとすれば、新しい人を大量に採用しなければならない。多くの場合、それは新しい部署を作ることになり、そうなるとその部署を率いる管理職が必要になる。そして多くの場合、すでに自社で有している人的リソースだけでは管理職を賄うことができず、外部から優秀なベテランを雇い入れることになる。
その人がどんなに優秀であっても、外部から来た新参者は、その会社特有の「暗黙の了解」や、現場の「空気」的なものを知らない。彼らが既存のメンバーと「ワンチーム」として機能するまでには、必ず物理的な時間を必要とするのだ。
チーム内の信頼構築にかかる時間を無視してアクセルを踏みすぎてしまうと、社内が混乱し、意思決定の質が下がり、結果的にその会社の成長が止まってしまう… これが、急成長企業が陥る「組織の壁」だ。
チームとしての習熟は、お金で買うことができない。
健全な成長には、あえて速度を抑えてでも「組織を固めるための時間」が必要なのだ。
未利用生産的サービス
ペンローズは、独自の視点で「企業が成長し続けるメカニズム」を説いている。
新人が入社した当初は、一つの業務をこなすだけで精一杯だが、経験を積めば余裕が生まれてくる。ペンローズは、その余力を「未利用生産的サービス」と呼んでいる。
社員(および経営陣)に時間的な余裕ができてくると、彼らはその余ったエネルギーを「新しい事業」や「新しい市場の開拓」に向け始める。それがガソリンとなって企業を成長させるのだ。
だから、むやみにコストを削って時間的余裕をなくしてしまうことは、自社の将来の成長の芽を摘んでいるに等しい。例えば、ITで業務を効率化し、社員の手を空けることによって、その「未来的資源」をクリエイティブな仕事に再投資する…という考え方の転換が、企業を成長させ続けることにつながるということだ。
M&Aは時間を買う戦略
M&A(買収)は「時間を買う」戦略だ。
新しい市場に参入する際、自分たちで試行錯誤してノウハウを蓄積しようとすると時間がかかる。しかし、すでにその分野で経験を積んだ会社を買収すれば、その時間を大幅に短縮できる。
ただし、ここでも「ペンローズ効果」がつきまとう。
買収した会社と自社の組織を融合させようとすると、自社の経営陣のエネルギーを大量に消費しなければならない。つまり、自社側に「余裕(未利用資源)」が十分にない状態で買収を進めてしまうと、本業まで共倒れになるリスクがあるということだ。
M&Aの成否は、買収の際の「価格」よりも、買収側がどのくらい「余力(未利用資源)」を有しているかにかかっている。
経営者が意識すべきこと
ペンローズの理論は以下の3点に集約される。
経験を大切にする:社員がその組織で積み上げていく「オリジナルな仕事のやり方」こそが、他社に真似のできない強みとなる。それには時間がかかることを経営者は忘れてはいけない。
成長痛を無視しない:組織がガタついていると感じたら、それは組織の「成長痛」であり、ブレーキを踏む合図なのかもしれない。いったん立ち止まって、内部のコミュニケーションや教育に投資することを考えてみよう。
戦略的に余力を作る:経営者は、意識的に組織の中に「新しいことに挑戦するための余力」を作り出さなければならない。なぜなら、その「未利用資源」からしか、次の成長が生まれないからだ。
重要なのは人間の経験
ペンローズは「企業とは、単なる数字の集合体ではなく、共に成長し、知恵を蓄えていく人間集団である」と説いている。
企業の成長の速さを決めるのは、企業の内部に蓄積された「人の知恵」の質と量だ。資源(お金、機械、オフィス、社員など)を「価値」に変えるのは「人間の経験」以外にはない。
目先の数字ではなく、組織の成長をマネジメントすること。それこそが、100年企業を創るための王道なんだろう。
参考リンク集
Amazon『企業成長の理論』書籍紹介ページ
