【読書記録 -159】『成功する組織のプロセスマネジメント』ハーバード・ビジネス・レビュー 2025年5月号
技術は、思っている以上に速く進歩する
ハーバード・ビジネス・レビュー2025年5月号は「成功する組織のプロセスマネジメント」をテーマに特集が組まれている。
今から約1年前の発刊だ。

この特集は、ボクにいろんなことを考えさせてくれた。
本特集では、かなりのページ数を割いてAIを組織へ組み込む方法が論じられている。しかし、それらはたった1年ですでに当たり前になりつつある。IoTによるデータ取得も、AIによる分析も、今では驚くほど身近な技術になっている。
一方で、プロセスマネジメントの本質は変わらない。
それは、誰のためにデータを集め、どうプロセスを設計し、組織として学び続けるか、という命題だ。
データそのものに価値があるのではない。それを生み出し、改善へつなげる「仕事の流れ(プロセス)」が設計されて初めて、データは価値を持つ。
2025年当時。まだAIが今ほど精度が高くなく、一部の人しか使っていなかった時代に「プロセス設計にどのようにAIを組み込むか」を専門家が真剣に議論した記録として、今だから読み解くことができる特集なのだと思う。
HBRがいう「プロセスマネジメント」とは何か
改めてだが、本特集でいう「プロセスマネジメント」とは、単に業務フローを整理することではなく、組織全体の仕事の流れを設計し、その流れからデータを取得し、改善を繰り返しながら価値を高め続ける仕組みをつくることを指す。
そのために本号では、
AIとプロセスマネジメントの融合
改善活動の民主化
AI導入に対する心理的障壁
グローバル標準プロセス
組織変革の実践
という五つの視点から「成功する組織」を考察している。
トーマス・H・ダベンポート/トーマス・C・レッドマン
プロセスは部門ではなく組織全体で設計する
問い:なぜAIを導入しても、生産性が向上しない企業が多いのか。
結論:AIではなく、プロセスそのものが設計されていないからである。
著者らは、AIの導入よりも前に、仕事の流れを可視化し、責任の所在を明確にすることが重要だと説いている。
営業、物流、経理など、それぞれの部署は最適化されていても、その間にある「部門の境界」では責任が曖昧になりやすい。だからこそ、組織全体を横断して改善を進める「プロセスオーナー」が必要になる。
AIは、整備されたプロセスを高速に回すための技術であり、プロセスそのものを代替するものではないのである。
H.ジェームズ・ウィルソン/ポール・R・ドーアティ
改善活動は専門家だけのものではない
問い:生成AIは組織の改善活動をどう変えるのか。
結論:改善は、一部の専門家ではなく、現場全体が担うものへ変わる。
著者らは、生成AIによって「カイゼン2.0」が始まったと説明する。
これまで業務改善には専門知識やITスキルが必要だった。しかし生成AIを使えば、現場の担当者が自然言語で改善案を考えられるようになる。
つまりAIは改善を行う主体ではなく、改善へ参加できる人を増やす技術なのである。
ジュリアン・デ・フレイタス
AIを導入する前に、人は変化を受け入れられるのか
問い:なぜ優れたAIでも組織へ浸透しないのか。
結論:最大の障害は技術ではなく、人間の心理である。
著者は、人がAIへ抵抗を感じる理由として、ブラックボックスへの不信感や、自分の役割を奪われる不安など、五つの心理的要因を挙げている。
だからAIを導入する際には、高性能なシステムを導入することよりも、「自分で選択している」という感覚や、小さな成功体験を積み重ねることが重要になるという。
組織変革とは、システム導入ではなく、人の認識を変えることなのである。
富永満之(アシックス)
プロセスを標準化することが競争力になる
問い:グローバル企業は、どうすれば世界中で同じ品質を実現できるのか。
結論:地域ごとのやり方ではなく、共通のプロセスを徹底することである。
アシックスは、国ごとに異なっていた業務プロセスをグローバル標準へ統一した。
日本独自の商習慣や現場の「やりやすさ」を優先するのではなく、世界共通の仕組みを導入し、その上でデータを蓄積・分析できる体制を整えた。
その結果、需要予測やEC、OneASICSなどのデジタル戦略が相互に連携し、高収益体質への転換を実現している。
データは標準化されたプロセスの上で初めて力を発揮するのである。
ボクの考察
この特集から1年経った現代においても、AIが散らかった情報を魔法のように整理してくれることはない。
やっぱり、昔も今もプロセスマネジメントは、データを蓄積し、その意味を読み解き、改善を続ける営みなのだ。だからこそ、これから企業が競争すべきなのはAIそのものではないし、プロセスマネジメントとは、AIを使いこなす技術ではない。
プロセスを整えてデータを蓄積する。
蓄積したデータをもとに改善点を見つける。
だがそこに、IoTやAIが加わることで、その改善サイクルは昔に比べて何倍もの速さで回せるようになる。
技術の進歩は速い。
しかし、その技術を価値へ変える組織の原理は、それほど速く変わらない。
だから、成功する組織に進化するために必要なのは「変わるものと変わらないものを見極めること」なのかもしれない。
参考リンク
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー:2025年5月号
