【2025年法改正】荷主/元請事業者が認識を改めるべき軽貨物運送業務委託のコンプライアンスについて
なぜ今コンプライアンスが重要なのか
2025年4月、日本の物流業界はひとつの転換点を迎えた。
それは、これまで「規制の緩い領域」とされてきた軽貨物運送事業に対し、一般貨物並みの厳格な安全管理義務を課す法改正が施行されたからだ。
それから約1年が経過したが、いまだに新しい法令を理解していない荷主企業および元請け事業者は多い。そこで改めて、それらの企業目線で(そしてコンプライアンス遵守の観点で)押さえておくべきポイントをまとめておこうと思う。
なお、ここで言う「荷主企業」とは、自社の商品や原材料などの輸送・保管・梱包といった物流業務を、運送業者や物流事業者に依頼(委託)する事業者(メーカー、小売店、卸売業者など)のことを指す。さらにそれは、貨物の所有権や発送・受領の有無(発荷主・着荷主)を問わず、実質的に輸送方法を決定する事業者も含まれる。
また「元請事業者」とは、荷主(および他の運送事業者)から運送業務を受託し、運送全般の責任を負う運送会社を指している。それは大手の運送会社に限らず、数名の個人事業主のドライバー(彼らは個人で運営している運送事業者だ)に運送行為を再委託している中小の軽貨物運送事業者も含まれるとご認識いただきたい。
2025年の法令改正… 正しく言うならば「貨物軽自動車運送事業輸送安全規則等の改正」だが、この法令改正に荷主企業や元請運送会社はもっと危機感を持つべきだろう。
それは「努力義務」などではなく、国土交通省が2023年10月に「貨物軽自動車運送事業の安全対策強化」を公布し、2025年4月から全面施行(準備期間を経て、制定・改正された法律や規則の条項に対してその効力を発生)された、れっきとした法令だからだ。
この法令改正は、単に事務手続きの変更が求められるという次元のお話ではない。それは、委託先である軽貨物事業者(個人事業主のドライバーを含む)がコンプライアンス違反や事故を起こした場合、荷主勧告制度の適用やブランド価値の毀損、さらにはサプライチェーンの断絶といった、荷主/元請事業者自身の「事業継続のリスク」を孕むものだ。
とはいえ、コンプライアンスを必要以上に恐れるべきではない。荷主/元請事業者は、それを良質なパートナーを選別し、持続可能な配送網を構築するための「新しい価値基準」と捉え直すべきなのだ。
軽貨物運送の法令改正のコンテクスト
ここ10年ほど、軽貨物運送業界のマクロ環境はEC市場の爆発的成長により激変している。2023年時点で物販系BtoC市場は14兆円を超え、個人事業主の軽貨物事業者は令和6年時点でおよそ23万人、毎年約1万人のペースで増え続けてきた。しかし、この急拡大の影で、事業用軽自動車による死亡・重傷事故などの重大事故件数は、平成28年から令和3年の間で39.6%も増加した。
この事態を重く見た国土交通省は「貨物軽自動車安全管理者(軽貨物事業における安全管理の責任者)」の選任義務化など、規制の抜本的強化に踏み切った。「荷主勧告制度(運送事業者の違反の原因が荷主の指示等にある場合に、行政が荷主に対し再発防止を勧告し公表する制度)」の強化も含めてのことだ。
ここで特筆しなければならないのは、その「荷主勧告」の対象に(荷主だけでなく)下請事業者に対する「元請事業者」も含まれる点である。例えば、非合理的な到着時間の設定や恒常的な手待ち時間(荷待ち時間)が発生するような業務は、ドライバーに過労運転や速度超過を強いる行為とみなされる。これらが原因で委託先が行政処分を受けた場合、荷主や元請事業者も連鎖的に処分を受け、企業名が公表されることになった。現代の物流市場において、安全・品質の確保を軽視することは、とりもなおさず荷主/元請事業者にとって大きなリスクになりかねないのだ。
1. 荷主/元請事業者が取るべきアクション
荷主/元請事業者は何をしなければならないのだろう。
まずは、今回の法令改正で荷主/元請け事業者に求められることとなった具体的なアクションを挙げておく。
特に(直接雇用するドライバーの内)「特定の運転者(初任・事故惹起・高齢)」への指導教育を怠った場合、10日車から20日車の車両使用停止処分が下されるなど、実務へのダメージが大きいので要注意だ。フリーランスの業務委託ドライバーに対しては、実運送体制管理簿を整備した上で、業務に関するベストプラクティスを共有するというスタンスを取ることをお勧めする。
安全管理体制の再点検: 荷主/元請け事業者は、委託先が「貨物軽自動車安全管理者講習」を修了した安全管理者を選任しているか確認しておくべきである。さらに2年ごとに定期講習の受講も法令で義務付けられている。
運転者等台帳(直接雇用するドライバー)の整備: 住所、氏名、雇入れ日、健康診断日、事故履歴、さらには適性診断(初任診断、事故惹起者診断、65歳以上の適齢診断)の結果を台帳に記載し、3年間保存しなければならない。
実運送体制管理簿(業務委託ドライバー)の整備:荷主から運送を引き受けた元請事業者が、実際の運送を担当する委託先(個人事業主を含む)の氏名や連絡先などを記録する帳簿。原則として運送業務を完了した日から1年間の保管義務がある。
教育記録の保存: 指導・監督の記録が3年間保存されている必要がある。デジタルツールを用いた管理体制が推奨されている。
事故発生時の報告義務:軽貨物運送(黒ナンバー)事業者に対しても、一定規模以上の事故」について、運輸支局を経由して30日以内の国土交通大臣へ「自動車事故報告書」の提出が義務化された。(さらに重大な事故の場合、24時間以内に電話などを使って速報を出すことが義務付けられている)
2. 個人事業主との契約における不当条項の排除
軽貨物ドライバーの多くは個人事業主であり、彼らとの契約は「フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」および「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」によって守られている。また、業務委託の形式をとりながら実態として指揮命令権を行使している場合は「偽装請負」と認定され、労働基準法違反に問われたり、社会保険料の遡及支払いや未払い残業代請求といった労務リスクへ発展するリスクを孕むこととなり、併せて企業のブランドイメージを棄損させる可能性を含む。
そうなったときに、荷主/元請事業者は(個人事業主との契約において)以下の禁止事項を契約条項から排除し、(その契約外のことが)現場で横行しないよう足元の管理が重要になる。
不合理な違約金設定の禁止: 早期退職や軽微な車両損傷に対し、あらかじめ高額な賠償額を定めることは、労働基準法の趣旨を潜脱する不当条項となり得る。
買いたたきの禁止: 類似の役務に比べ、著しく低い報酬を一方的に定める行為。下請法等の違反として勧告の対象となる。
過剰な通知期間の適正化: 6か月以上の継続的な業務委託を解除・更新拒絶する場合、少なくとも30日前までの予告が義務化されている。
3. 個人事業主との契約解除・更新拒絶時の厳守ルール
契約の終了は、最も紛争化しやすい局面だ。
フリーランス保護法の施行により、継続的契約(6か月以上)の解除には「30日前までの予告」に加え、相手方から求められた場合には「理由開示の義務」が課せられる。
ここで重要なのは、(単に理由を述べることではなく)その理由が客観的に見て合理的であることをエビデンスで示すことだ。もし「配送品質の低下」を理由に契約を解除する場合、事前にどのような指導を行い、改善を促したかの記録がなければ、不当な契約打ち切りとして損害賠償請求の対象となり得る。
せっかく法改正によって、指導・監督の内容を台帳に記録し、3年間保存することが義務付けられたのだから、それを生かして日々の業務における不備に対する是正指示や、事故惹起者に対する「特別な指導(法令基準によると合計5時間以上)」を実施した記録を残すべきなのだ。それこそが、有事の際の企業自身のリスクヘッジになるからだ。
4. 外国籍ドライバーの在留資格確認のベストプラクティス
ここ数年、宅配業務の多様化に伴って外国籍のドライバーが増加している。ここで最も警戒しなければならないのは「不法就労助長罪」だ。万が一、委託側の確認不足によって不法就労を許容してしまうと、本人だけでなく荷主/元請事業者も連鎖的に法的責任を問われることとなってしまう。
在留カードの真正性確認: ICチップ読み取りアプリを活用し、偽造カードを排除する。
就労制限の確認: 裏面の「資格外活動許可」の有無を確認。特に留学生等は「週28時間以内」の就労制限がある。この時間を超えて稼働させることは明確な違法行為となる。
これらの確認が不十分なまま事故が発生した場合、荷主/元請事業者も管理責任を問われることになるだろう。
コンプライアンス(法令だけでなく社会的な道徳も含む)を遵守するにはある程度のコストがかかるのは間違いない。しかし、それをもったいないと考える企業は、いずれ淘汰されていくだろう。今や、日本社会全体がコンプライアンス遵守の方向に進んでいるのだ。
逆にそのコストを「投資」と捉えて、透明性の高い運行管理をパートナーに求める企業こそが、良質なドライバーを惹きつけ、強固なサプライチェーンを構築できる… つまり、競争が激化する運送業界においてサバイブしていくための鎧となるだろう。
参考リンク集
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