超戦略的物流マネジメント
現代経済における物流の役割と構造
物流の核心は…
生産と消費の間にある「場所」「時間」「量」のギャップを埋めることだ。
それはつまり、商品が作られた場所と、その商品が消費される場所の距離、生産時期と消費時期のズレ、多品種少量から大量生産までの量的な違いを解消し、商品を消費者の手元へ確実に届けることである。
昨今の物流業界に目を向けると、少子高齢化による労働力不足、EC市場拡大による小ロット多頻度化、物流2024年(軽貨物は2025年)問題、燃料費や原材料費の高騰、環境負荷低減へのコミット、予測困難な災害、などといった多角的な課題が山積しており、それが物流コストに跳ね返っている。
多くの企業は、物流をコストセンターだと考えがちだ。だが、上記のような課題は日本全体が抱える大きなコンテクストであり、誰にも変えることはできない。そうであれば、今さらコスト削減を推し進めるよりも、むしろ「新しい付加価値を生むための戦略」に変換するためにマインドをセットし直すほうが現実的だ。
流通における物流の定義と機能
経済活動における流通の役割
経済の3大活動は「生産・流通・消費」で構成される。その中間地点の「流通」は生産者(供給)と消費者(需要)を円滑に結びつける役割を担う。その流通は大きく分けて2つの機能を持つ。
商流(商的流通): 受発注、契約、所有権の移転、代金決済など「お金と権利」の流れ。
物流(物的流通): 商品の現物を保管し、必要なタイミングで運ぶ「モノ」の流れ。
物流の6大機能
物流を構成する基本要素は以下の6つだ。
物流のコスト増およびサービスレベルの低下は、これらの各パーツそれぞれに問題がある場合だけでなく、各パーツの連携がスムーズでない場合も大きな要因となる。
この6つの機能の内、メインとなるのは「輸配送」と「保管」だ。そして、その「輸配送」と「保管」を効率的に行うために「包装」「荷役」「流通加工」「情報処理」の4つの機能が必要になる。
さらに、物流の6つの機能全体を「管理」し「調整」することによって、ボトルネックを作らないようにし、リードタイムを短縮することを目指す。それが「物流効率化(超戦略的物流マネジメント)」だ。
輸配送:供給者から需要者へ荷物を移動させる活動で、長距離・大量の「輸送」と近距離・小口の「配送」に大別され、物流コストの約60%を占める。
保管:物流センターなどを利用し、生産と消費の間の時間的格差を調整するとともに、商品の価値を維持する機能である。
包装:輸送中の製品の傷や破損を防ぐ、物流のスタートとなる活動であり、物流活動全体の効率性を左右する。
荷役(にやく):倉庫や物流センターの内外で荷物を運搬する活動(荷揃え、仕分けなど6つの作業)であり、物流の生産性や品質に大きな影響を与える。
流通加工:入荷時の荷姿から顧客の要望に応じた状態(小分けや値札付けなど)に加工し、商品に付加価値をつける作業である。
情報処理:受注からピッキング、配送状況などのデータを、情報システムを活用して正確に管理する仕組みである。
戦略的物流とロジスティクスの概念
7Rの原則
物流管理の基本として、以下の「7つの適切(7R)」が提唱されている。ボク的には、あまりに抽象的で「なんのこっちゃ」という感じだが、物流の(ありがたい)教科書に(なぜだか)必ず載っている原則なので、あえてそのまま記載しておく。
適切な商品 (Right Commodity)
適切な品質 (Right Quality)
適切な量 (Right Quantity)
適切な時期 (Right Time)
適切な場所 (Right Place)
適切な印象 (Right Impression)
適切な価格 (Right Price)
この「7R」を現場に実装するのであれば、まずはそれぞれの「適切」がどういう状態であるべきなのかを定義するところから始めなければならない。また、この「適切」は企業や業種業態によって異なるはずだし、どこかのパーツを「適切」にしようとすれば、別のどこかのパーツが「不適切」になるはずだということも忘れてはいけない。
戦略物流の3層構造
企業の物流活動は、その役割に応じて3つのレイヤーに分類される。それぞれのレイヤーによって「トンボの視点」と「ヒトの視点」と「アリの視点」が必要になるわけだが、多くの企業の場合、経営層も現場も含めて「ヒトの視点(管理レベル)」に集約されていることが多い。散見されるのは、誰も「トンボの視点(戦略レベル)」になっておらず、「アリの視点(作業レベル)」はサードパーティーに丸投げ…となっているケースだ。
戦略レベル(トンボの視点): 経営陣による物流ネットワークの設計、拠点配置の決定、物流戦略の立案。
管理レベル(ヒトの視点): 予算管理、作業計画の立案、3PL(サードパーティー・ロジスティクス)の管理。
作業レベル(アリの視点): 日々の入出荷作業の実行、人時生産性の向上、誤出荷防止。
ここからは、「物流の6大機能」+「管理」「調整」の具体的な内容に触れていこうと思う。
1. 輸配送
輸配送は「トラック輸送」「鉄道輸送」「船舶輸送」「航空輸送」の「4つのモード(輸送機関)」で構成される。まあ、最近では自転車や徒歩による小口配送なども拡大はしているが…
各モードの特徴(メリットとデメリット)
トラック輸送
メリット:ドアツードアで自在性の高い配送が可能であり、小・中規模の貨物の近距離輸送に即座に対応できる。現在、国内の貨物輸送の約90%をトラックが担っている。
デメリット:輸送範囲が広がると積載効率や輸送効率が低下してしまう。また、他の輸送モードと比べてCO2の排出量が多く、環境への負荷が大きい点も懸念される。
鉄道輸送
メリット:1度の運行で大量の荷物を輸送でき、天候の影響をあまり受けない。さらに、CO2排出量が少なく環境にやさしいという特徴があり、長距離輸送時のコスト削減にも一役買っている。
デメリット:コンテナを取り扱う駅が全国で約130箇所と少なく、駅までの集配に時間やコストがかかる。また、コンテナの容積制限により大きな貨物には向かず、列車の出発時刻に集荷を合わせる必要があるためリードタイム面での課題もある。
船舶輸送
メリット:貨物への衝撃が少なく、損傷や盗難に対する安全性が高い。大型でまとまった荷物を大量に運ぶのに適しており、輸送コストも低く抑えることができる。
デメリット:他の手段と比べてスピードが遅く、輸送に時間がかかる。また、荷物がまとまらないと出航しないため、数トン以下の小口貨物の輸送には適さない。
航空輸送
メリット:他の輸送手段に比べて圧倒的にスピードが速く、長距離輸送においてダントツでリードタイムを短縮できる。高額な商品や、鮮度維持の期間が短い商品の輸送に最適である。
デメリット:運賃が他の手段よりもはるかに割高である。また、大口ユーザー以外は積載できる貨物量が便数によって限定されてしまう。
企業がこれらの輸配送の、どのモードを選択するかはリードタイムとコストのトレードオフによって決定されるが、それは概ねその企業の業種業態による。
2. 保管
「保管」とは、モノを一定の場所において、品質や数量などを適正に管理しながら、ある期間貯蔵する活動である。
保管の目的
時間的格差の調整と品質の維持:物流センターなどの施設を利用し、生産と消費の間に生じる時間的な格差を調整する役割を担う。また、冷凍・冷蔵倉庫などを活用した適切な管理によって、商品の価値や品質を維持することも重要な目的である。
ジャストインタイムの実現:顧客が「欲しいものを、欲しいときに、欲しいだけ」供給するジャストインタイムに対応し、高い顧客サービスを提供することが保管の第一の目的である。
資産としての在庫管理
保管場所に置かれた品物は「在庫」と呼ばれる。在庫は所有者の資産(現金)そのものであるため、数量や品質の厳密な管理が不可欠である。
適正な在庫量の調整:ただ闇雲に在庫を持てばいいというわけじゃない。多品種少量の出荷が求められる現代では、限られた倉庫スペースを有効活用しつつ、欠品を防ぎ、かつ余分な保管コストや維持費用がかかる「過剰在庫」を持たないように、在庫量を適正にコントロールする必要がある。
ロケーション管理による効率化:商品を効率的に保管し、すぐに見つけ出せるようにするために、倉庫内の棚に番地(ロケーション番号)を割り振る「ロケーション管理」が重要となる。これには、特定の場所に決まった商品を置く「固定ロケーション」という考え方と、空いている場所に情報システム管理下で柔軟に格納する(Amazonなどが取り入れている)「フリーロケーション」がある。
保管機器の活用:固定ラックやフローラック、自動倉庫、垂直回転ラックといった様々な保管機器によって、倉庫内の限られたスペースで保管効率を高めることも重要だ。
3. 包装
「包装」とは、商品の価値を保護し、物流効率を左右する重要な機能である。
包装の分類
工業用包装(輸送包装): 保護、保管、輸送の効率化を主目的とし、コストを抑える。
商業用包装(パッケージ): 販売促進、消費者の購買意欲向上を目的とし、デザイン性が重視される。
適正包装の5つの条件
適切な包装設計には以下の5要素が求められる。
保護性: 経済的に機能を果たしつつ商品を損傷から守る。
作業性: 製造・包装工程のスピードに適合する。
荷役性: 現場での扱いやすさ。
販売促進性: 開封のしやすさ、内容表示の明確さ。
廃棄処理性: 環境負荷が低く、リサイクルや廃棄が容易であること。
4. 荷役
「荷役(にやく)」とは、倉庫や物流センターの内外で品物を移動・運搬する活動である。物流にかかる時間の60〜70%は移動時間が占めており、荷役作業におけるムダは物流コストの増加に直結するため、物流全体の生産性と品質に非常に大きな影響を与える。
荷役の6つの作業
荷揃え:出荷指示書に従って集められた品物を、同一方面へ運ぶために段ボールやパレットなどでひとまとめにして揃える作業である。
積付け/積卸し:トラックの荷台やパレットの上に品物を規則正しく積むこと(積付け=パレタイズ)や、積まれた品物を崩して台車などに載せたり下ろしたりすること(積卸し=デパレタイズ)を指す。
運搬:倉庫内の特定の場所から別の場所へと品物を移動させる行為である。
保管(棚入れ):倉庫内の保管場所に、一時的または長短期的に品物を置いておく作業である。
仕分け:入荷した品物を保管場所別に分別したり、出荷する品物を配送先別に分別したりする作業である。ここでのミスは在庫数の狂いや配送先への誤納品によるクレームに繋がるため正確性が求められる。
集品(集荷・ピッキング):出荷指示書に記された品物とその数量を、保管場所から正確に出荷場所へ集める作業である。
荷役の基本は人による作業であるが、近年では作業効率と生産性を大きく向上させるために、人に代わって機械やシステムを利用する企業が増加している。このように機械や道具を使って荷役作業を効率的に行うことを「マテリアルハンドリング(マテハン)」と呼び、これに用いられるフォークリフトやローラーコンベアなどを「マテハン機器」と呼んでいる。
5. 流通加工
「流通加工」とは、消費者の利便性に合わせて商品の形を成形・加工し、商品に「付加価値」をつける活動である。入荷時の状態から顧客の要望に応じた荷姿へと転換(荷姿転換)させる役割を担う。
業種別の流通加工の作業内容
アパレル業界:タグへの値札付け、採寸、検針作業など。
食品業界:食肉や野菜を食べやすい大きさや調理しやすい状態に加工したり、味付けしたりする作業。
輸入雑貨・食品:日本語表示のラベルを貼り替える作業。
その他:パソコンのセットアップ、自転車のパーツ組み立て(ブレーキ調整・空気入れ)、福袋や贈答品のセット組み、ダイレクトメールへのサンプル封入、書籍への短冊入れやラッピングなど。
従来、こうした加工作業はメーカーや小売業者が自ら行っていたが、現在では物流事業者が物流センター内で積極的に請け負うケースが増加している。物流業者が流通加工を一括して担うことで、メーカーの工場から物流センターまでのムダな輸送費(横持運送費)を削減できるだけでなく、情報共有によって「必要なものを必要なときに」届けるJIT(ジャストインタイム)の実現にも貢献している。
よって、加工作業を請け負う側は、QCD(品質・コスト・納期)を強く意識しなければならない。依頼主の要求品質を満たす作業環境や資材を整え、決められた出荷リードタイムに確実に間に合わせ、且つ依頼主が自ら行っていた時よりも低いコストで作業を実現できなければ、専門事業者としてのバリューを発揮できないからだ。
6. 情報処理
「情報処理」とは、受注データに始まり、ピッキング、出荷時間、配送日、さらには配送途中の運送会社の荷物状況に至るまで、物流に関する様々な情報を正確に管理する仕組みである。日に何万件もの膨大なデータを処理する物流センターにおいては、人的ミスを防ぎ、正確かつスピーディに管理する体制が不可欠だ。
情報処理に使用される主なシステムや機器
倉庫管理システム(WMS):入出庫や在庫状況の把握、ピッキングなどの作業指示を行うなど、倉庫内の「モノ」の流れを専門に管理する。
輸配送管理システム(TMS):配車計画や運行計画、最適ルートの検索、運賃の自動計算などを一元管理し、輸配送業務の効率化を図る。
マテハン機器との連携:コンベアなどの高度なマテリアルハンドリング(マテハン)機器と情報システムを連動させ、自動的な仕分けや運搬を実現する。
情報処理機能の最大の目的は、(これらのシステムを駆使して)倉庫に商品が入荷してから顧客の元に届くまでの区間において、「お客様の商品が今どこにあるのか」を常に正確に把握し、管理する仕組みを作り上げることにある。当然そのシステムは、商品の特性やそのビジネスの市場性(顧客のニーズ)に合わせてカスタマイズされたものになるべきだ。
7. 管理
物流を戦略的に構築するために「管理」の機能をを欠かすことはできない。
管理の役割と特徴
全体最適化の追求:戦略物流における管理とは、単に6大機能の数値を個別に管理・効率化することではない。複数の機能が連携する物流において、それぞれの「部分最適」ではなく、物流全体としての「全体最適化」を図ることに真の意義がある。
現場のコントロール:想定外の状況においても、あらかじめ決められた時間内にムダなく順調に作業が遂行できるよう全体を統制する。具体的には、トラックの配車時刻のスケジュール管理、作業のボトルネックを解消するための人員配置のコントロール、出荷レーンの増設、あるいは当日の入荷量を少なめに調整することなどが挙げられる。なお、これを実現するためには、他部署と連携する「調整」機能が不可欠となる。
戦略を実行する「戦術」としての役割:物流の管理体制には「戦略レベル」「管理レベル」「作業レベル」の3層構造が存在する。その中の「管理」レベルが、経営層が立てた物流戦略を具体的に実行するためのレイヤー。想定される物流コストや品質レベルの範囲内に収まるよう、頻繁に現場とミーティングを開いて改善を進めたり、指示された期限までに倉庫の統合を実行したりする役割を担う。
このように、単なる現場の作業指示にとどまらず、企業戦略に基づいた物流の仕組み(スキーム)を実行し、継続的に改善していくこと… つまりPDCAを回していくことが「管理」の重要な役割である。
8. 調整
物流を戦略的に構築するために「調整」の機能をを欠かすことはできない。
調整の役割と特徴
他部署との連携による効率化の実現:入荷量や出荷量、在庫量、各種締切時刻、客先への納品時刻といった要素は、物流部門単独ではコントロールできない。物流部門内でいくら効率化を唱えても、営業部門や製造部門、仕入部門など他部署の協力が得られなければ実現できないため、各部署間をつなぐ「調整」機能が不可欠となる。
全体ロスの最小化:調整機能の最大の役割は、量的・時間的に物流をコントロールし、物流6大機能における全体のロス(ムダ)を最小限に抑えることである。
具体的な調整のアプローチ:現場の状況や他部署の動向に合わせて、以下のような具体的なコントロールを行う。
営業部門のセール企画で大量発注された商品の「分納措置」や、当日入荷・当日出荷品(緊急取寄せ品)の「直送措置」を行う。
入荷情報の反映が遅いセンターにおいて、入荷受付を午前中のみとし、午後は全員で出荷作業に集中させる。
作業スペースを増やして現場の効率を上げるために、在庫量を減らすよう調整する。
配送コストを抑えた効率的なルート配送を実現するため、客先への納品時刻を変更する。
企業戦略に基づく実行:これらの調整は、物流部門が現場の都合だけで勝手に行うものではなく、あくまで全社的な「企業戦略」に基づいていることが大前提となる。
新しい付加価値を生むために
戦略物流によって新しい付加価値を生み出すためには、物流を単なる「モノの移動(作業)」ではなく、「企業成長を促進する機能」として捉え直すことが重要である。
具体的なアプローチ方法
企業戦略に密着した物流スキーム(仕組み)の構築:戦略物流の根幹は、企業の経営戦略に基づいて、拠点の配置や管理の仕組みを変化させていくことにある。例えば「売上を伸ばすためにサービスレベルを向上させる」という企業戦略がある場合、多少の物流コストが上昇しても拠点を増やしてリードタイムを短縮するなど、「コストとサービスのトレードオフ」を戦略的に判断する。このように企業戦略と物流現場の目標を柔軟にリンクさせることが、新たな付加価値を生む土台となる。
物流サービスの向上による商品価値の向上:現代において商品の価値は「製品そのもの」だけでなく、「製品+物流サービス」によって決まるという思考が重要だ。例えば、注文された商品を他社よりも早く届けることができれば、消費者の急ぎのニーズに応えることになり、同じ製品であっても高い付加価値と顧客満足を生み出すことができる。よって、必要なものを必要なときに効率よく届けるという「ロジスティクス」の考え方を導入すれば、ビジネスの付加価値は大きく高まる。
流通加工による直接的な付加価値の付与:物流の基本機能である「流通加工」を積極的に活用し、商品に直接的な付加価値をつけることも有効だ。消費者の利便性に合わせて商品の形を成形・加工(荷姿転換)することで、商品の価値を高めることができる。アパレルの値札付けや輸入食品のラベル貼り、贈答品のセット組みなどを物流の過程で行なうことで、顧客の要望にきめ細やかに応えることが可能となる。
「物流8大機能」による全体最適化と他部署との連携:付加価値を生む効率的な仕組みを作るためには、現場の個別作業を効率化する「部分最適」にとどまってはならない。基本となる物流6大機能に「管理」と「調整」を加えた「物流8大機能」を用いて、物流全体としての「全体最適化」を図る必要がある。とくに営業部門や仕入部門といった他部署を巻き込んで「調整」を行ない、全社的なロス(ムダ)を最小限に抑え込むことが、価値の高い物流体制の構築に直結する。
