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【家電恋愛小説】バレンタインは、熱々のピザを焼く日にした|匠ブランジェ オーブントースター


バレンタインの朝は、
まだ何も起きていないのに、
心だけが先に息切れしていた。



キッチンの蛇口に触れると、金属が冷たい。
二月だ、と言われている気がする。

私は三十代。
恋はもう少し上手にできる年齢のはずなのに、
相手が「ピザ」に本気だと、話が違ってくる。

気になっている年上の男性がいる。
彼は無類のピザ好きだ。

仕事の休みを使ってイタリアへ行き、
ナポリの有名店でマルゲリータを食べて帰ってくる。

帰国後、
エスプレッソの話だけはやけに饒舌だった。

スマホで見せられた写真。
紙皿の上の赤と白。
その向こうで、彼は少し誇らしげに笑っていた。

――この人に、私の焼いたピザを出すの?


UnsplashDrew Dempseyが撮影した写真



バレンタイン。
私は彼を自宅に招いた。
チョコではなく、ピザを焼くために。

冷蔵庫にはモッツァレラとトマト缶。
生地は昨夜のうちに仕込んだ。

それでも、手が止まる。

オーブンを使えばいい。
分かっている。

でも私は、オーブンが苦手だった。
大事な日に限って、思い通りにならない。

迷って、スマホを取った。

今日、ピザ焼くんだけど。

相手は部下。
年下で、家電が好きな人。

返事はすぐだった。

相手、本気の人ですね。
今日は、失敗したくないですよね。

その一言で、逃げ場がなくなった。

だったら、トースターです。
高温で、短時間。
見張らなくていいやつ。

匠ブランジェ。
ピザモードがあります。

「見張らなくていい」

その言葉が、今日はやけに優しい。

ナポリの窯には勝てませんけど。

勝たなくていいと思います。

その返事で、決まった。


Image by congerdesign from Pixabay


午後、届いた箱は意外と重かった。
キッチンに置いた黒いトースターは、無口で、余計な主張がない。

表示に「ピザ」と出る。
それだけで、少し呼吸が楽になる。

夕方、部屋を整え、
取り皿を二つ並べた。

二つあるだけで、部屋の空気が変わる。

19:00
連絡は来ない。

19:30
スマホが震えた。

「ごめん。今日、行けなくなった。」

理由は書いていない。
彼は、そういう人だった。

取り皿を一枚、戻そうとして、
そのまま、やめた。

私は「大丈夫です」とだけ返した。

ピザは焼ける。
焼けるのに、出す相手が消えた。


UnsplashClay Banksが撮影した写真


そのとき、部下からメッセージが来た。

「今、駅前です。」
「その人、女性と一緒にいます。」

胸の奥で、何かが静かに落ちた。
怒りでも悲しみでもなく、
力が抜ける感じ。

予熱完了の表示が点滅している。
機械は、今日も正確だ。

インターホンが鳴った。

画面に映っていたのは、部下だった。
コートの襟を立て、少しだけ肩をすくめている。

「……来ちゃいました」
「ピザ、焦げちゃいそうなので」

その言い方が、いつも通りで、救われた。


二人でキッチンに立つ。
生地を網に乗せるとき、手が震えた。

「大丈夫ですよ」

それだけ言って、彼は黙った。

ピザモードを押す。
庫内が赤くなる。
ちゃんと“焼く”音。

待つ時間。
ココアの甘い匂い。

扉を開ける。
熱気。

チーズが泡立ち、縁に焼き色。
底を見ると、ちゃんと焼けている。

包丁を入れると、軽い音がした。


UnsplashJoyce Romeroが撮影した写真


二人でテーブルへ運ぶ。
取り皿は、最初から二つあった。

一口目。
熱い。

完璧じゃない。
ナポリとも違う。

でも――。

「おいしい」

私が言うと、彼はほっとした顔をした。

「ちゃんと、ピザですね」

その言い方が可笑しくて、笑った。

「忘れなくていいです」
「でも、今日は、食べましょう」

ピザは減っていく。
会話は途切れたり、戻ったりする。

「…あなたの焼いたピザ、好きです」

言ってから、
彼自身が少し驚いた顔をした。

私は、縁のカリッとしたところを指でつまんだ。

「……それ、言っちゃうんだ」

「すみません」

「謝らなくていいよ」


Image by Надин Ш from Pixabay


空になった取り皿を見る。
二枚とも、ちゃんと役目を終えている。

キッチンの黒いトースターは、何も言わない。

私は思った。
今日いちばん頑張ったのは、
たぶん私じゃない。

でも、恋は、機械じゃできない。

「ねえ」
「来年も、焼こうか?」

彼は少し黙って、
それから言った。

「……来年って、ちょっと遠いですね」

その言葉のあと、間があった。
私は、その間が好きだった。


UnsplashEllie Ellienが撮影した写真


バレンタインは、
最初に思っていた日とは違う日に、なった。

でも、
熱々のピザを焼く日には、なった。

部屋には、
まだ少しだけ、スイートバジルの匂いが残っている。





今回登場した家電について

作中で使っていたトースターは、
ツインバード「匠ブランジェ オーブントースター」です。

高温で一気に焼き上げる設計で、
ピザやリベイクでも、
表面は香ばしく、中は水分を残したまま仕上がります。

「見張らなくていい」という言葉どおり、
温度管理を機械に任せられるのが、
この夜にはちょうどよかった家電でした。

▶︎ 匠ブランジェ オーブントースターの詳細を見る



※本記事は「家電恋愛小説」シリーズの一編です。
これまでの作品は、こちらのマガジンにまとめています。
▶︎ 家電恋愛小説マガジン


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#料理のある暮らし

※見出し画像: UnsplashPrince Charles Malaqueが撮影した写真


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