星を釣る漁師
久しぶりに、こちらのお題企画に挑戦してみました。
【第36回】3つのお題に空想のひらめきを
お題①「星を釣る漁師」
「おっちゃーん、どないやー?」
まっすぐに伸びた防波堤をひとり歩きながら、少年はその先端に見える丸まった背中に声をかけた。
「んー、今日はまたなあ、多いでぇ。渋滞しとるわ」
振り向くこともなく、男はかがみこんだまま、竿先をのんびりと揺らしている。
防波堤というものは、大抵海に向かって突き出ているものである。
ただ、この防波堤の下に見えるのは闇ばかりだ。
砕ける波も、潮気を帯びた湿気も、磯臭さもなく、少し青っぽくも見える闇が無限に広がっている。
「渋滞? 渋滞ってなんやねん?」
「ほぉれ、よぉ見てみぃ」
釣り糸が闇に吸い込まれる先、針の先の滴のような光が一瞬光ったと思ったら、またたく間に無数の光の蠢きが見えてきた。
それぞれがあっちへこっちへ、行き場を求めながら、行き場を失っている。
「ほんまや、これ完全に渋滞やんけ」
「あんま乗り出したら落ちるで、アホ」
男の言葉に、少年は黙ったまま少しだけ身体を引いた。
「さぁて、次はどないやろなぁ?」
男は垂らした糸をひょいっ、ひょいっと、探るような手つきで振る。
蠢く無数の光の中、一瞬糸先が一際ちょこんと光ったかとかと思ったら、それが瞬きながらするすると上がってくる。
「ほいきたぁ」
呑気なかけ声とともに竿を勢いよく振り上げると、その反動で針から外れ、器用に男の手のひらにぽんっと乗ったのは、ぱんぱんに怒りながらも内側から発光するフグだった。
「うーわ、おっちゃん、さっすがやなあ! コイツでかない?」
「でかいかどうかは、関係あらへん」
男は笑って、目線の高さまで手のひらを上げ、フグと見つめ合う。
フグの内側からじんわり染み出る光は白っぽく、明るくなったり暗くなったりを不規則に繰り返している。
「大事なんはなぁ、この根性や」
その言葉に応えるように、フグが瞬くリズムが、少しずつ激しく、明るさも増していく。
いよいよ目を伏せたくなりそうなくらいに光が強まった時、
「ほーぉら、行けぇ」
さっきよりもさらに呑気なかけ声とともに、男はひょいっとフグを上に投げ上げた。
すると、その仕草にはそぐわない速さで、フグはびゅーん…と勢いよく上に向かっていった。
見送りながら、少年は目を細める。
「めっちゃ上行ったな」
「素直なええ星や」
「星? フグやろ?」
「フグでも星でも、上の方で光っとったら一緒やで」
愉快そうに笑みを浮かべながら、また男は光の闇に釣り糸を垂れる。
そこにはまだまだ、細かな光が蠢いている。
少年は言う。
「ぼくもそのうち釣れる?」
男は即答する。
「釣れる釣れる」
「ほんま?」
「当たり前田のクラッカー」
少年は一瞬ぽかんとして、それから笑った。
「なんやねん、それ」
「大人だけの合言葉や。チビにはまだ早いわ」
「意味がわからんわ」
また垂れた糸先をのぞき込む二人の顔は笑っている。
「さぁて、次はどないやろなぁ?」
光の闇に包まれた防波堤で、糸先がまたちょこんと光った。

generated by ChatGPT
終わり。
お題を目にしたとたんに閃いたお話でした。
今回は特別楽しかったです!
(早く簿記3級取って、この生活に戻りたい…)
#3つのお題に空想のひらめきを #星を釣る漁師 #ショートストーリー
