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たぬきは東京見物、人間は松本見物

タイトル写真は『たぬきの東京見物』より。

松本民芸館の展示

松本民芸館を開館設立し、螺鈿・卵殻細工や版画・絵画など作家としても活動した丸山太郎が二人の愛娘に描いた素朴な絵本。
たぬきのお父さんは東京へ行ったが、人間の老夫婦は松本見物をしてきた。旅の目的はゆっくり町歩きと民藝を楽しむこと。

去年は柳宗悦らが民藝運動を始めてちょうど100年。10月に京都に行った時に河井寛次郎記念館やアサヒグループ大山﨑山荘美術館をまわり、京セラ美術館では大規模な展覧会を見た。

京都市京セラ美術館 2025年の展示

松本も民藝の町。でも民芸館や民芸店、松本民芸家具などざっくりしたことしか知らなかった。
ちょうど松本市美術館で「民藝誕生と松本」という展示をしていたので、まずここで基本をお勉強。
草間弥生と皆川明のミナ・ペルホネン展が同時開催ですごく賑わっていたが、民藝の方は人がいなくてゆっくり鑑賞できた。

柳宗悦や河井寛次郎、濱田庄司、バーナード・リーチ、芹沢銈介などに影響を受けた人々が日本民藝協会長野県支部を設立。その中心となったのが、松本民芸家具の池田三四郎、松本民芸館をつくった上述の丸山太郎と、染色工芸家三代澤本寿だった。

松本民芸家具
丸山太郎の著作「鶏肋集」
革張りに陶器が嵌ったすごい装丁
「たぬきの東京見物」と同じ人の著作物とは!
三代澤本寿の屏風
柚木沙弥郎


松本出身ではない柚木沙弥郎の型染作品も展示されているが、柚木は旧制松本高等学校で学び、今もこの地でとても愛されている。

ふむふむ〜と美術館を後にし、近くのあがたの森公園へ。

ヒマラヤ杉の並木が美しい


柚木沙弥郎のまなびや、旧松本高等学校が重要文化財として残っている。北杜夫、辻邦生、熊井啓も卒業生。

大正9年にできた本館
コの字型校舎。中庭がきれい
雷鳥を肩にのせた若きクライマー
さすが北アルプス登山の拠点、松本

校舎の中は無料で自由に見ることができ、教室は今もコーラスや楽器の練習、学習室、図書室として市民に開放されている。いいなー、松本市民!

隣接の旧制高等学校記念館では、ここ松本高等学校だけでなく日本全国のナンバースクール・ネームスクールの紹介など3フロアにたっぷり展示されている。

画は柚木沙弥郎


帽子・マント・下駄の三点セット借りて弊衣破帽の(破れてないけど)バンカラ学生コスプレもできる。

寮生活
実際は絶対こんなにきれいではなかったよね

去年オペラシティで開催された柚木沙弥郎展で、松本高等学校時代のある先輩の思い出に心を揺さぶられた。

その先輩を描いた絵のポストカードが売店にあった。

右下のギター弾いてるのが先輩

このポストカードセットには、松本の老舗菓子店開運堂のパッケージに使われているものもある。

右下のウェストンビスケットの箱。
他のお菓子も紙袋も柚木沙弥郎デザイン

松本民芸館へ。

創設者・丸山太郎は1936年にできたばかりの東京・駒場の日本民藝館を訪れ、柳宗悦に大いに影響を受け、民芸品を蒐集し1962年に松本民芸館を個人として開館した。市内にはちきりや工芸店も開いている。
民芸館、8年間は無料だったが雨の日は来館者も訪れず館長の丸山は展示棚のガラスを拭きながら所蔵品に「お前はたった二百円だったね」と話しかけたり、入口のワラの敷物に大の字になって居眠りしたりしていたそう。1983年に土地建物と所蔵品を全て市に寄贈し、2年後の1985年に60歳で逝去した。
写真を見ると、ニコニコしたいかにも温厚そうな方で前述の「たぬきの東京見物」のお父さんたぬきに雰囲気が似ている。(棟方志功にも似てる)
この民芸館も駒場の民藝館に影響を受けてつくられたというのはわかるし建物も素晴らしいけれど、ハイブラウ(死語?)なエラソーなところが全く無く「あ、よく来たね。どうぞゆっくり見ていって」と温かく迎えてくれる感じ。駒場は「民藝館」だけどこちらは「民芸館」。
受付のスタッフもすごく気さくで親切だった。


展示室も所蔵品もたっぷりで見応えあった。

撮影可の表現も優しい

国内外の民藝品だけでなく、丸山が手がけた松本市内の店のパッケージや柚木沙弥郎のデザインも。

丸山作 おもちゃ屋ぴあののパッケージ。
この店のご主人、フジコ・ヘミング風。
店内、色んな意味で壮観だった…
柚木沙弥郎デザインのパッケージやカード。
いっぱいあるなあ


建物外の景色も楽しい。

窓の向こうに北アルプス
庭にかまど。

ところどころに飾ってある花は、どれもスタッフが庭で摘んで活けているそう。

桜が終わってツバメが巣作りでたくさん飛び交い、藤やハナミズキ満開の新緑が美しい季節。

ここは松本の宝だなあ。

この後町の中心地、民芸店や資料館などが軒を連ねる中町通りの三代澤本寿(みよさわもとじゅ)ギャラリーへ。
(「みよさわ」は場所によって「澤」だったり「沢」だったり)

芹沢銈介に師事した三代澤の染色工芸・型絵染の作品、いくつか見たことはあったが、個人としての展覧会には行ったことがなかったので、今回色々見て「これもこの人の作だったのかー!」と再認識。
どれもかっこいい。

すぐそばには松本民芸家具のショールームもある。ここの創設者であり民芸論研究家の池田三四郎と三代澤本寿と丸山太郎、さらに駒場民藝館と松本民芸館で使われている皿立てを作っていた小木工作家の柳澤静子は松本の尋常高等小学校の同期というのが驚きだー!
長野県の松本にこれだけの才能が同時期に生まれ、一つの文化を育んでいたとは。

泊まったホテルも松本民芸家具がそこかしこに。客室の壁は漆喰で天井には梁があるこぢんまりと居心地のいい場所だった。

ポストカードは柚木沙弥郎。

どこまでも民藝の町なのだった。
味わいがある古い建物も多く、川べりものんびりのどか。
日差しは暑いくらいだけど吹く風は涼しく半袖Tシャツで暑くもなく寒くもない、町歩きには最高の気候だった。

泊まったホテル向かいのブックカフェ想雲堂
夜一杯飲んでベルモンドの古い映画パンフレット購入
フランス料理の店 
新聞専売所もいい感じ
旧司祭館と開智学校チラ見え
川辺はツクシがたくさん
松本城も新緑の中


松本では他にどうしても行きたかった所があと二つ。一つは東京の国立から移転したカゴ屋、カゴアミドリ。

入っている古いビルも店の雰囲気も国立の時とあまり変わらずちょっとうれしかった。
マダガスカルのフルナという水草で編んだ小さな手提げと箱を買った。箱はお弁当のおにぎり入れ用に。

まだ青くていぐさのようないい香りがする

カゴも地域によって素材や編み方や形が異なるのがおもしろいし、使っても眺めても楽しい民藝。

カゴアミドリの近くには古い飴屋や、その店舗の一つを使った木工や器の店10cmもある。

山屋御飴所
向かいにある10cm

もう一つ行きたかったのは、前に行った娘からすごいお店だよと聞いていたところ。
たぬきケーキが評判のお菓子屋、翁堂。

特に目立つ看板もなくシンプルな店構えだけれど
中は驚きの世界

ここのケーキ、デコレーションの迷走っぷりが想像を超えている。

コロナ禍の名残
「たぬきの東京見物」は丸山太郎の本から?
蒸気機関車で東京に行くシーン、絵本にあるけれど
製造者さん休職中なのね。
AIタヌキと言われましても…
燃やすしかない?何を?たぬきを?
黄色いけどパンダ
「かわいいけど危険」おっしゃる通り。
逢ったら逃げるのも怖い。
今一番ホットなナフサ
買ったのは静かな普通の。
右のラムボールたぬきもしっとりおいしかった。

「どの子になさいますか?」「緑のお帽子の子ですね?」とおっとり応対して下さったお店の女性もなんともいえずキュートだった。私よりずっと年上だけど。値札、タヌキは一匹、クマやパンダは一頭、フクロウは一羽、AIタヌキは一体と芸が細かい。


他に買ったお土産。

山屋の板あめ、開運堂の白鳥の湖と真味糖の生
松本民芸館で購入した丸山太郎の著作。
民芸を探す旅のエッセイ「旅の鞄」もおもしろい。
丸山さん、なかなかの食いしん坊


ところで「たぬきの東京見物」、丸山太郎が1943年に松本から上京した時のことが元になっているそう。たぬきのお父さん、戦時下で首都東京も物資不足ながら、精力的にあちこち観光している。

宿では灯火管制で早く消灯させられる

しかし当時丸山が上京したのは実際には呑気な物見遊山ではなく手術入院のためで、この話は松本で丸山の帰りを待つ幼い娘たちのために病室で綴られた。
それを知って読むと、絵本の最後のページも切なくいとおしい。

今日もたぬきの子供たち
とうさんのおかへりまちながら
ひがしのお空をながめてた

丸山太郎「たぬきの東京見物」書肆 秋櫻舎 2023

*松本市内では、毎年5月(4/29-5/31)に町を挙げての工芸の企画展「工芸の五月」を開催している。ワークショップや町・建物めぐり、展示、祭、市、クラフトフェアなど楽しい企画がたくさんあるそう。
https://matsumoto-crafts-month.com
私は行けないけれど、お時間とご興味あれば5月のお休みにいかがでしょう?

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