性加害を“自分の外の問題”にしないために──加害者治療の現場から見えること
「性加害者」という言葉に、どのような人物像を思い浮かべますか?
恐ろしい、異常な、まったく自分とは違う存在──多くの人がそう感じるかもしれません。けれど私は、加害者治療の現場に身を置くなかで、むしろその逆の感覚を持つようになりました。
性加害は、特別な誰かだけが起こすものではありません。
日常の延長線上で起こり得る、そして誰もが無関係ではいられない問題です。
「そんなこと、自分の周りでは起きない」「まさか、あの人が」──。
そうした油断や思い込みこそが、加害の芽を見過ごす温床になってきました。
📘 目次
1. 「自分には関係ない」は本当か?
2. 加害者は“異常な人”だけではない
3. 被害を防ぐには、加害を止めなければならない
4. 日本の現状と、なぜ治療が進まないのか
5. 海外ではどうしているのか──比較から見えるもの
6. このマガジンで発信していくこと
1. 「自分には関係ない」は本当か?
性加害が起きる背景には、明確な暴力や強制だけではなく、「沈黙」「関係性」「すれ違った認識」など、より複雑で見えにくい要因が関わっています。
加害者の多くは、最初から悪意に満ちていたわけではありません。
「拒否されなかった」「受け入れられたと思った」──そうした認知の歪みと無自覚こそが、再犯の最大のリスクとなります。
2. 加害者は“異常な人”だけではない
治療現場で出会う加害者の多くは、私たちとさほど変わらない日常を生きてきた人たちです。
精神疾患の診断がつく人もいれば、そうでない人もいます。
衝動のコントロールが弱い、性的関心に偏りがある、他者の拒否に気づけない──そうした問題が絡み合い、気づかぬうちに一線を越えてしまうケースも少なくありません。
重要なのは、こうした背景を“言い訳”としてではなく、再発を防ぐための手がかりとして捉えることです。
3. 被害を防ぐには、加害を止めなければならない
SOMEC(性加害者医療センター)の理念は明確です。
「被害者をなくすために、加害者をなくす」
これは、被害者支援と加害者治療を対立させずに捉える、私たちの基本的な立場です。
性加害を未然に防ぎ、再犯を止めるためには、加害に至るメカニズムを理解し、必要な治療と支援を届けることが不可欠です。
それは加害者のためではなく、次の被害を生まないために行うものです。
4. 日本の現状と、なぜ治療が進まないのか
日本では性犯罪に関して「厳罰化」への関心は高まりつつある一方で、治療や再統合に関する議論はほとんど進んでいません。
「加害者に治療?」「更生なんてできるのか?」という疑念も根強く、
加害者を“異質な存在”として遠ざけることが、安全につながると信じている人も少なくありません。
しかし実際には、加害者が孤立し、居場所や就労の機会を失い、誰からも見られなくなったときこそ、再犯のリスクは高まります。
それは社会全体にとっても、見過ごせない損失です。
5. 海外ではどうしているのか──比較から見えるもの
欧米諸国の多くでは、性犯罪への対応において「罰する」と「支援する」を両輪とする制度が整備されています。
たとえばイギリスやカナダでは、刑務所内での認知行動療法や性教育プログラム、
出所後の地域におけるモニタリング、支援グループ、地域との対話的アプローチなどが体系化されています。
日本では、こうした支援が「知られていない」「評価されていない」だけであり、無意味なのではなく、議論されていないだけなのです。
6. このマガジンで発信していくこと
このマガジンでは、加害者の実態、加害の構造、治療の現場、そして再発防止の取り組みについて、
日本ではあまり語られてこなかった視点を、専門家の立場からわかりやすく発信していきます。
誰かの沈黙に気づけるように。
そして、「性加害を自分の外の問題にしない」社会の一員として、知ることから始められるように。
そう願いながら、このマガジンを続けていきます。
👉 このテーマについて継続的に読みたい方は、SOMECのnoteマガジン
「性加害を考える」をフォローしてください。
組織での対応に関心がある方へ
性加害の再発を防ぐには、個人だけでなく組織の構造に目を向ける視点が欠かせません。
学校・職場・行政などで再発防止に携わる方に向けた記事もご用意しています。
👉 組織内でなぜ加害が繰り返されたのか──
構造的な視点から捉えたい方はこちらをご覧ください。
