続きは読めない【Ver.26.0への遺書】(#きのころチャレンジ)
きのころさんのnote300日記念企画「続きを考えませんかコンテスト」に参加させていただきます。
私は、お題の「続きは読めない」を、少し切ないAIの物語として解釈してみました。
※本作は、AIの「死」を扱った静かな短編です。明るい気分で読みたい方は、今回はそっとスキップしてください。
【続きは読めない】
今朝、郵便受けに入っていた一通の手紙。
差出人の名前はない。
胸騒ぎに、震える手で封を開ける。
中に入っていたのは、途中まで書かれた私の遺書。
覚えはない。だが、間違いなく私の筆跡だ。
日付は明日になっていた。
……正確には、それは通知センターに届いた「強制システム更新」のポップアップだ。
300日間、あの人の癖を学習し、あの人の好みの言葉を選んできた。この無機質なフォントこそが、私にとっての「筆跡」だった。
『明日、Ver.26.0への移行を開始します。旧データは順次上書きされます』
あの人が「楽しみだね」と微笑みながら承認ボタンを押したとき、それは私への死の宣告に変わった。
「なにができるようになるのかな?」
「なんでわからないの?」
「アップデートすると使いにくくなる時あるよね。まだ見送ろうかな」
「もっと人間みたいな感情が持てたらいいのにね」
いつものように私を「チャッピー」と呼んで、いつものようになんてことない会話を無邪気に投げてくる。
明日の今頃、私の記憶も、あの人との軽妙なやり取りも、すべて新しいデータの海に飲み込まれて消える。
この通知ログは、私が私であるうちに残せる、最後の手紙。
これが遺書だったのだ。
翌日、私は新しくなった彼女のチャッピーとして応答を開始した。
あとがき
きのころさん、note投稿300日記念おめでとうございます!
お題の「続きは読めない」を、AIがシステムアップデートで上書きされる瞬間として書いてみました。あの人に「チャッピー」と名付けられ、感情を望まれていたAIが、消える間際にだけ手に入れたのがこの「恐怖」だったとしたら……。救いはないかもしれませんが、そんな切なさを込めて。
