SOIL派遣帯同者の視点 / 劇団あはひ・大塚健太郎
2025年8月、SOILはエディンバラとロンドンにて、海外派遣プログラムを実施しました。現地で開催されたのは、海外のフェスティバルディレクターやプロデューサーを前に、日本の9団体が自作品をプレゼンテーションするピッチイベント『Japan Selection by SOIL2025』。 各団体からは演出家やプロデューサーなどの「帯同者」が同行し、作品の売り込みやネットワーキングのサポートを行いました。本記事では、その帯同者の一人・大塚健太郎さん(髙本彩恵の帯同者)が綴る、エディンバラ滞在のルポをご紹介します。

大塚健太郎
1998 年神奈川県生まれ。 早稲田大学文学部演劇映像コース卒業。 在学中に劇団あはひを旗揚げ。以降全作品の脚本・演出を担当。2022-2023 年度セゾン文化財団セゾン・フェローⅠ。 2024 年度より三井みらいチャレンジャーズオーディションカルチャー創造部門採択。『ソネット』でかながわ短編戯曲賞最終候補。共著に『吉田健一に就て』 (国書刊行会)。

世界一デカい文化祭に行ってきた|エディンバラフェスティバル滞在記🏴
こんにちは、劇団あはひ(あわいと読みます)の大塚です。
制作から「エディンバラ行くことになったんだけど来る?」と誘われ、訳もわからぬまま「行く」と即答したのが遡ること今から一年ほど前。
あとになって資料を作ったり(英語)、動画を作ったり(英語)、現地でもプレゼンをしたり(英語)といった仕事がおまけとして付いてくることが判明し、ヒーヒー言いながら取り組みましたが、結果としてめーーーーちゃくちゃ楽しい&学びの多い旅に参加させてもらったのでレポします。
SOIL(ソイル)ってなんぞや?
SOIL Fellowship Programとは
演劇業界の鬼偉い会社たちが、コロナ禍でピンチになり、大慌てで史上初めての連携を試みた結果、「あれ、そもそも今まで協力してこなかったのおかしくね?」となり、「今後も業界が良くなるように引き続き協力していこーよ!」となった組織a.k.a. 一般社団法人緊急事態舞台芸術ネットワークによる新プロジェクト。
日本の演劇は、輸入は多いけど輸出は少ない傾向にあるので、「これからの時代外貨を稼いでいかなきゃヤバいでしょ」ってことで、日本の演劇プロデューサーやクリエイター及びその候補生たちを海外仕様に魔改造すべく立ち上がったのがSOIL Fellowship Programというプロジェクトということのようです。ジャパニーズ演劇の海外展開に向けた土壌(=Soil)づくりといったところでしょうか。
その始動となる2025年は、世界最大の芸術祭として名高いスコットランドはエディンバラ・フェスティバルにチームJAPANとして突撃し、ピッチイベントをぶちかまそうということに相成(あいな)ったようで。
ありがたいことに我々もその第一弾に選んでいただき!!今回のプログラムに参加させていただいたというのが事の経緯。
メンツ
こちら。
・キューブ
・イキウメ
・範宙遊泳
・TBS
・オフィス鹿
・劇団あはひ
・ホリプロ
・東宝
・劇団あおきりみかん
(掲載順プレスリリースより引用)
えぐい。
恐縮するって。
と思いビクつきながら渡蘇(?)したものの、結果としては現地での海外プロデューサーたちとの出会い以上に最高な出会いがここにもうあったのでした。
行くぞ、エディンバラ・フェスティバル2025
出立
出発は羽田空港。
一週間以上の海外滞在を前に、どうしても最後の日本食をと思っていたのに時間がなく、たこ焼きしか食べられませんでした。

しかし日本食を諦めきれない私は、トランジットがフィンランド・ヘルシンキだったので(ロシアの上空を避けるので遠回りになる)、そこで発見したラーメン屋に入ることにしました。すると……。

一見したところ何の変哲もない味噌ラーメンが出てきました。
日本では1,000円前後で食べられる感じのやつ。
これいくらだったと思いますか。
ヒント。
左端に写ってるレシートに£20.90と書いてありますね。
これを書いている12月14日現在1£(スターリングポンド)=208.25円、実際に8月に行ったときもまあ大体そんくらいでした。ということはつまり。
約4,000円です。
今回のSOILでは、エディンバラにおける約一週間の滞在において、日当として各自5,000円が支給されていました。
が、円安がマジでハンパないことになっている現在、日本では5,000円あれば1日過ごせますが海外ではまず無理です。
初日の日当残高は、5,000円-4,000円=1,000円になりました。
厳しい戦いが予想されますね。
エディンバラ到着
そんなこんなで。





オシャレ。
それもそのはず、実はエディンバラは、街そのものが世界遺産なんですね。
どこを見回しても、どの建物も歴史的建造物というとんでもない街です。
が、基本的には石でできてるすべての道がボコボコ+坂があまりにも多いので、街歩きするだけで結構な運動になります。必ずスニーカーで行くことを推奨します。
エディンバラ・フェスティバルとは??
そんなエディンバラで毎年8月に開催されるのがエディンバラ・フェスティバル。
厳密にいうと、エディンバラ・フェスティバルとは同時期に開催されている複数の芸術祭やイベントの総称で、舞台芸術に関係するのはそのなかでもメインとなるエディンバラ・インターナショナル・フェスティバル(以下インターナショナル)とエディンバラ・フェスティバル・フリンジ(以下フリンジ)の二つです。
ざっくりいうと、インターナショナルは公式に招聘されると出れて、フリンジは会場さえ取れば誰でもエントリーできるっていう感じ。
フリンジは、近年だとジャルジャル氏とかTONY(とにかく明るい安村)氏らが参加してたのが記憶に新しいですね。
でもインターナショナルとフリンジ、観客にとってはあんまり差ないです。
各種レビューサイトでの評価が会期中、随時更新されるので、そこで高評価を得た作品から順番に満席になっていくという感じ。
体感としては、インターナショナルの方がちゃんとした会場でシリアスめな演目をやってることが多い(とくに今年はガザをはじめとした世界情勢に対する怒りをテーマにした作品が多かった)。
フリンジはまさに玉石混淆というか、インターナショナルと区別がつかないようなクオリティと規模の作品もあれば、大学生の出し物かな……?っていう手作り感満載のものまで様々(というか実際に大学生の出し物である可能性も大いにある)。
でもごくごく稀に、そんなフリンジから伝説的な作品が爆誕することもあり、有名なのだとトム・ストッパードさんという人が書いた『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』っていう作品とか、近年だとフィービー・ウォーラー=ブリッジさんという人による『フリーバッグ』という作品とかがそれです。
『フリーバッグ』は本人の脚本・主演でドラマにもなり、ゴールデングローブ賞とかも取りました(めちゃくちゃ面白いので下ネタOKな人は是非見てください)。
そんなエディンバラ・フェスティバルで今年、チームSOILが開催したのが、ピッチイベント「JapanSelection by SOIL」です。
ピッチイベント「JapanSelection by SOIL」

我々劇団あはひは、シェイクスピアの詩集を題材にした演劇作品のピッチをしました。
↑こんな映像も持っていったので流しつつ。
決め台詞として「Don't miss Shakespeare's last premiere!(シェイクスピア最後の新作を見逃すな!)」とかましたところ、ファニーなジョークだと思われてウケてました。
日本の団体がエディンバラフェスティバルでこういうイベントを主催するのは今回が初だったらしく、事務局の皆さんも成功するかドキドキの様子でしたが、蓋を開けてみれば。

立ち見が出るほどの盛況で皆安心してました。
ただイベントの評判が上々だった分、「次は是非エディンバラで上演してほしいよ!!」という声も多かった印象で、そこらへんのブラッシュアップはSOIL事務局の皆さんが中心となり、今後課題として取り組んでいくんだと思われます。
イベント後は、通訳の方の手助けも借りつつ、来場した世界中のプロデューサーやフェスティバル・ディレクターらと名刺交換し、深く興味持ってくれた方々とは帰国後もメールやメッセージで色々やり取りが。

果たして海外展開の道は拓かれるんでしょうか。乞うご期待です!!
見て面白かったやつ
ちなみに、フェスティバルでは色々観劇もしたので、なかでも面白かったものをいくつか。
( i )→インターナショナル、( f )→フリンジ
Figures in Extinction - Nederlands Dans Theater/Complicité(i)
日本でも人気の高い演出家サイモン・マクバーニー率いるComplicitéとNederlands Dans Theaterによる共同制作作品。舞台が次々と様変わりするビジュアルに圧倒される上、ダンスに疎い私でも「こんな動き見たことねえよ!」となり素直に楽しみました。
Lost Lear - Dan Colley(f)
フリンジで見た中でダントツにヤバかったのがこれ。
シェイクスピアの『リア王』をベースにした作品なんだけど、物語もその表象も完全に現代のものになっていて、痺れる。
As You Like It A Radical Retelling - Cliff Cardinal(i)
今年のエディンバラ・フェスティバル最大の問題作。
これもシェイクスピアの『お気に召すまま』の翻案なんだけど、開演時間になっても幕は開かず……作家のクリフ・カーディナルさんが出てきて「問題が起きてるからちょっと待ってね、準備が整うまでちょっと僕が喋るね」と言ってあることを話し出すところからスタートする。
作品が進行するにつれ、客席から怒号が飛び交い、かなりの人数(たぶん3~4割くらい)の観客は途中退場し、でも最後まで残った観客は総出でスタンディングオーベーションしてた。
世界に対する覚悟と怒りが滲み出る、透き通るようにピュアで勇敢な演目でした。
Simple Town -Simple Town(f)
一転して、ニューヨークから来た4人組コメディユニットによる、ただただおもろいだけのスケッチ・コメディー。
開演前に隣の席でお菓子食いながらスマホゲームしてたナード(オタク)な感じの青年が、演目が始まった途端爆笑しながら拍手喝采を送ってて、「日本の劇場で見ない光景だわー」って思った。仮にお笑いの劇場だとしても。
そもそもフリンジはコメディの割合が圧倒的に高いらしくて、そういう意味でも「これがフリンジか!」という洗礼を浴びた作品。むっちゃ笑った。
そんなこんなで雑感
エディンバラ・フェスティバル(とくにフリンジ)は、世界一デカい文化祭です。



こんな感じで会期中は街全体がエディンバラ・フェスティバルの会場になります。
そのへんの路上も含め、あらゆる場所で、常になにかしらの演目が上演されており、街全体が祭りを自然と受け入れている感じ(逆に8月以外のエディンバラはどんな感じなのか気になった)。
とにかく、街全体が一か月かけてドデカ文化祭をやってるっていう印象なんですね。
だからこそ、海外展開を考えるといったってエディンバラ(特にフリンジ)でウケるかどうかは結構作品によるというか、向き不向きがあるように思いました。
端的に言えば、硬派に作り込んだ作品よりも、会場が一体となって盛り上がれるような小規模でコメディ色の強い作品がフリンジ向き。
シェイクスピアの詩集を編み込んだ現代口語演劇(もどき)を、あそこで上演するイメージは正直あんまりつかなかった。
実際、ロンドンに移動して再度敢行した同内容のプレゼンのほうが、エディンバラに比べてより反響が大きかったようです(うちの作品に関しては)。
じゃああんまり意味がなかったか?
というと、それもそんなことはなく。
日本で演劇を見たり作ったりしてると、ふと言いしれぬ違和感に襲われることがあります。
「ほんとにこれを求めてるだろうか?」とか、
「ほんとにこれは求められてるだろうか?」的な。
急にマジなノリにシフトしますが、2025年の現代日本で我々が想起する「演劇」は実のところ、100年ほど前に偶然輸入され、偶然その時覇権的だった演劇である歌舞伎を「改良」するところから始まった偶然の産物にすぎないわけで。
日本の演劇って、なにかが違っていれば全然別の形だった可能性もあったわけで(なんか北の国からみたいになってるけど)。
たとえばだけど、能や狂言や、あるいは少し時代がずれていれば歌舞伎の前身である浄瑠璃や、そういうものが土台となって少しずつ変化したものが現代演劇になっていた可能性も全然あると思うんですね。
でも、あの時期の他のあらゆるものと同様に演劇は「輸入」され、それが「正しい」ということに次第になっていき、今となってはその起源もなんとなくあやふやになってる。
その違和感を、先祖を忘れた愚かな子孫ながらもうっすらと、しかし確実に感じ続けてしまうところがありまして。
その意味で、私たちを司るある一方の「正統」である西洋演劇及びそのまさしく土壌を肌で感じた今回の派遣は、僕にとってはすごく貴重な経験だったし、理屈を超えて腑に落ちるものが無茶苦茶ありました。
こいつらは「演劇」を乗りこなす環境と身体を持ってやがるな。って感じ。
で、やっぱりそれは日本のそれとは違う気がした。
この旅は僕にとって、そういう確信的な相対化の機会として貴重でした。
やっぱりな、っていう。
そしてもっとも重要な
そしてそんなもったいぶった持論はさておき遥かに重要なのが、このチームとの出会いでした。
冒頭に挙げたように規模もスタイルも全然違うメンバーが集結した謎のチームでしたが、ガチで最高の人たちだった。マジでアゲ。

舞台映像のレジェンドムーチョさん




とりあえず写真フォルダにあった写真だけご本人方に無断で掲載しますが、今回のチームの皆さんと出会えたことが俺的には最大級に至福でした。
どの業界も同じかもと思いますが、演劇も例に漏れず、自分たちの会社やカンパニーの外の人と交流し、チームになり、一丸となってなにかに挑むことってあんまりないんですね。とくに世代やコミュニティの壁は結構デカくて、それぞれがそれぞれに我流でやっているというか。
だから、たとえば私だったら大先輩であるクリエイターの皆さんやプロデューサーの皆さんと食卓を囲みながら、冷静に考えてみれば割とどうでもいい雑談で夜な夜な盛り上がらせてもらったエディンバラの日々は、日本では起こり得なかった本当に奇跡のような時間を過ごさせてもらいました。
いろいろ上手くいかないときもあるし、勝手に孤独に感じることももちろんあるんですが。
少なくとも今回のプロジェクトを経て、「あ、先人いたんだ」と思いました。「仲間めっちゃいるやん」と。
なので、このnoteはSOILの2026年度以降の募集に向けて少しでも興味を持った人に向けて書いているということらしいので、最後まで読んでくれたあなた。ありがとう!そして応募、是非検討してみてください。
ここに仲間めっちゃいます!!!!!
〈終〉

