【Soil100 VOICE】 どんな場所に生まれても好奇心を追究できる世界を実現する──〈一般社団法人MEDAR〉田中 康暉
「儲からないけど、意義がある」
そんな事業に取り組むチームを、公益財団法人Soilでは「非営利スタートアップ」と定義し、事業助成を行うプログラムを通して支援しています。
プログラムの一つ「Soil100」は、非営利スタートアップ創業前後の、これから実績を上げていく個人の活動家の方に最大100万円を助成するものです。
この連載記事【Soil 100 VOICE】では、Soil100プログラムで支援してきた非営利スタートアップの皆さんに、活動への思いや、これまで・これからについて伺っていきます。
9人目は、一般社団法人MEDARの田中 康暉さんです。
「どんな場所に生まれても好奇心を追究できる世界」を合言葉に、モノづくりや科学研究に取り組むオンラインスクール、公立学校の探究学習・科学部活動の高度化支援、高校生と企業の「共同探究」コーディネートを行う田中さん。
活動を続ける田中さんが描く未来や、今までの模索、これからの展望など伺います。
今回お話を伺うのは…
田中 康暉(たなか・こうき)さん
一般社団法人MEDAR代表理事

2000年生まれ。2023年に東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業、同大学新領域創成科学研究科のJAXA研究室にて流れ星観測と宇宙状況把握(SSA:Space Situational Awareness)について研究中。
2023年に一般社団法人MEDARを設立し、「どんな場所に生まれても好奇心を追究できる世界」を実現するため、モノづくりや科学研究に取り組むオンラインスクール、公立学校の探究学習・科学部活動の高度化支援、高校生と企業の「共同探究」コーディネートを行っている。
つくりたいのは、どんな社会?
「どんな場所に生まれても好奇心を追究できる世界」を作りたいと頑張っています。
具体的には、子どもや学生が普段過ごしている学校や家庭といった日常の中で、彼ら彼女らの好奇心にとことん付き合ってくれるお兄さん、お姉さんたちが存在していて、いつの間にか学ぶことが楽しいなと思ってくれる子を一人でも多く輩出することを目指しています。
どのような活動を行っているのか、詳しく教えてください。
現在の文部科学省は「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン(仮称)) ~2040 年に向けたN-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想〜」という検討を進めています。
エッセンスを抽出すると
「不確実な時代を自立して生きていく主権者として、AI に代替されない能力や個性の伸長」
「我が国の経済・社会の発展を支える人材育成」
「一人一人の多様な学習ニーズに対応した教育機会・アクセスの確保」
を2040年に向けて実現していこうというものです。
とは言いつつも、私が経験してきた学校教育から見て、また現在の公立学校の現場調査や教育委員会のヒアリングをしてみて、達成に向けたフィージビリティ(実現可能性)が取れていない、というのが私の印象です。
この10年間は、日本の学校教育にとって激動の時代でした。
生徒1人にタブレットやPCが付与されたり、自分の好きなテーマで一本論文を書くような総合的な探究の時間が実装されたり、生成AIを子どもの成長にうまく活用する取り組みもあったりします。
変化する社会の声に応えるように、学校や先生たちは一歩ずつ前進してきました。
一方で、「生徒1人1人の興味のあること、好きなこと、得意かもしれないことに、うまく付き合っていくこと」においては、まだまだ学校組織が苦手な印象です。
やはり、教科学習を一律に、平等に行うことが公教育の重要な使命ですし、生徒30名程度に対して1担当教員という組織体だと「なんだか尖った子」が現れても柔軟な対応がどうしても難しいのです。
僕が2023年まで在籍していた東京大学工学部では、卒論生3名に対して指導教員1名というバランスであったことを考えると、公立学校の先生、生徒にとって捉え方によっては、しんどい環境だと言えます。
私が初等教育、中等教育を受けていた頃と、この状況がそんなに変わっていないと知ったのが事業のスタートでした。
MEDAR(メダル)は、まず公立学校1つに対して、学校のカリキュラムや、現場の先生たちが理想としている教育像、そこに集まる生徒の特性、拾いきれていない教育ニーズを、1つ1つ丁寧に伺うところから取り組みます。
そして、大学で研究や課外活動に頑張って取り組んでいる全国のメンターさんたちを、探究授業や部活動へオンラインで派遣し、生徒さんそれぞれの好奇心にとことん付き合える環境を「学校の中」で構築しています。
また、「高校生シンクタンク」という、高校生と企業の共同探究をコーディネートする窓口も準備しており、一緒にチャレンジしたいこと、課題解決したいことを実践的に取り組むことも行っています。
最近伴走した取り組みとして、
部活動のハンマー投げの練習効率化
~モーションキャプチャと定量分析方法の構築~
宇宙甲子園全国大会出場
~火星探査を見据えた自律ドローンとランダーモデルの開発~
人工衛星データから米の豊作・不作の予測、農業への応用検討
誰もが参加できる灯篭流しを企画して長良川の夜を彩ろう
測定分析企業の化学実験DXプロジェクト
・・・などがありました。
全て16、17歳の子たちの成果です。

なぜSoilに応募しましたか?
Soilに応募した2024年は、学校と連携して学生メンターのオンライン派遣に手応えを感じていた時でした。
「こんなことができたら面白いじゃないか」「自分の住んでいる地域に対してGOODな取り組みをしたい」といったモチベーションで活動する生徒の子たちが、学校内の成果発表会だけでアウトプットしているのは、もったいないと思ったのが、Soilに応募したきっかけです。

実は、彼ら彼女らと同様の課題意識やモチベーションを持っている大人が、企業や自治体の中にどうやら存在していそうで、そういった地域のリソースを摩擦が無いように学校の中へ引き込むチャンネルの設計をしたいという思いで、Soilのプログラムに取り組みました。

Soilでの支援をどのように活かしていますか?
学校、生徒、企業(、教育委員会)の思惑をうまくコーディネートしないと、誰かが不満を感じ、実行するのにしんどい思いをする取り組みになると思っていました。
つまり、目的が違うステークホルダーをMEDARのもとで引き合わせなければならないというミッションがあったわけです。
そういった非常に繊細な設計をする際に、非営利セクターや学校教育の事情をよく理解されているメンターの皆さんに大いに助けていただきました。
こういう「儲かりそうにない、しかも工数がやたら多い事業の設計」の壁打ちを安心して、しかも解像度高くできるのはSoilの特徴だと思います。
助成金とメンタリングのおかげで、弊社は「高校生シンクタンク」という武器を手にして、2025年度に一通りの試運転を実行するに至りました。
現在はまだミニマムに実施しているだけですが、学校と企業が存在している地域ならどこでも実現できると思っているので、全国に横展開していくことが今後の展望です。

資金面や組織運営で大変なことも多いと思います。どう乗り越えているのか教えてください。
「とりあえず助けてください!」と正直に言うことが大事だと思います。
まあ、なかなか言える人はいないと思うのですが。(笑)
やっている事業の特性上、リターンが評価しにくい、リターンを確認するのに時間がかかる、やたら工程数が多い、といったハードルにぶち当たります。
ただ、すごい面白いことをやっている自覚はありますし、資金的にじゃなくても、場所の提供やプロボノっぽい感じで協力してくれる人がたくさんいらっしゃると実感しています。
例えば学生メンターの子たちの中で、就職後も会社に副業申請を出して、関わり続けてくれるケースが出てきて、「だって面白いし、自分自身勉強になるから」ということを話しています。
東大生の「HELP ME!」を見逃すほど、社会は冷たくないと思います。
これからどのようなことに挑戦したいですか?
小さなスケールの話ですと、1つの公立学校との連携で自助・共助・公助を使いわけながらしっかり財源開発をして、お金と人が回り続けるようなモデルにすること。
大きなスケールだと、助けを求めている学校や支援したい企業と繋がり、全国に横展開していくことが挙げられます。
前者は2027年度までに達成、後者は今後10年くらいかけてじっくり進めていきたいと思います。

田中さんの活動を「応援する」って、どういう形でできますか?
新しい公教育の形を一緒に模索してくれるような学校長、公教育の課題を理解し次世代の育成に価値を見出してくれる企業さんを、私に紹介していただくのが大変有難いです。
必ずしも強い特色がある学校、大きく儲かっている企業とかじゃなくてもOKです。
まずは何か思いがある、という所から始めていければと思います。やはり、私だけだと人に出会える頻度に限界がありますので。
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執筆:田中 康暉
編集:岸ふみ
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