なぜ「本物」の超能力者は、最後には必ず『三流のペテン師』に堕ちるのか?
「超能力詐欺」と聞いて、あなたは鼻で笑うかもしれない。メディア向けの安っぽい手品だろ、と。
だが、オカルト研究の第一人者でもある知の巨人コリン・ウィルソンが辿り着いた真実は、はるかに絶望的で、残酷なものだった。
──彼らは、最初からペテン師だったのではない。
本物の神の力を持っていたからこそ、自らの支配欲に耐えきれず、三流の詐欺師へと身を落としたのだ。
1970年代、ウィルソンはロンドンのレストランで、当時世界を席巻していたイスラエルの美青年ユリ・ゲラーと激突とも呼べる対面を果たした。
ゲラーはただ時計の針を動かし、スプーンを曲げるだけでなく、ウィルソン自身が心の中で密かに描いた「空想上の生物の絵」を、筆順から描き始める位置まで完璧にシンクロさせて描き出すという、戦慄すべきテレパシーの現場を目の当たりにした。熟練した手品師のトリックでは到底説明のつかない、本物の「未知の力」がそこには確かに作動していた。
ウィルソンは確信した。超能力は確かに実在する。
だが、歴史上の傑出した超能力者や魔術師たちを解剖し尽くした彼の著書『驚異の超能力者たち』の克明な記録を紐解くと、なぜか彼らは全員、最後には悲惨な破滅を迎えるか、卑劣なインチキに手を染めて歴史から抹殺されているのである。
今回は、天才たちを狂気へと引きずり込んだ「超能力の恐るべき代償」と、人間の精神の巨大な闇について解剖していこう。
「ふだんは死んでいる」あなたの中の莫大なエネルギー
そもそも、超能力とはいかなるメカニズムで発動するのか。神や悪魔からの授かりものだろうか?
ウィルソンはそれを完全に否定する。
超能力とは、ふだんは固く閉ざされている我々自身の「意識下の心(無意識の深層)」からあふれ出す、圧倒的で暴力的なまでの生命活力であると定義しているのだ。
我々現代人は、日常の生活のほとんどを体内に組み込まれた「自動操縦装置」に任せて生きている。
タイピングをする、車を運転する、食事をする。
一度やり方を覚えてしまえば、ロボットがすべてを滞りなく代行してくれる。
そのおかげで生活は楽になるが、我々は「半ばまどろんだような状態」で、自分の真の精神的・肉体的な能力のほんの数パーセントしか使わずに、無気力な人生をやり過ごしている。
集中暖房装置のサーモスタットのように、疲労がある限界に達すると、自動的にスイッチが切れるように設計されているのだ。
だが、極限の疲労や生命の危機に直面したとき、体内の安全装置が突然破壊され、奥底から莫大なエネルギーが噴出することがある。スポーツの世界で「セカンド・ウインド(第2の息遣い)」と呼ばれる現象だ。
ロシアの神秘思想家ゲオルギイ・グルジェフは、この巨大なエネルギー貯蔵庫の存在を熟知していた。
彼のもとで学んだジョン・ベネットは、赤痢に罹患し絶望的な疲労と高熱にあったにもかかわらず、極限の苦痛の中で己の限界(ロボットの限界)を超えた瞬間、突然「光り輝くような活力」に包まれ、疲労感すら完全に消え失せて炎暑の中で一時間以上も力作業をこなす超回復を体験した。
「未知の力」とは、遠い宇宙からもたらされる魔法などではない。
ベートーヴェンやダ・ヴィンチを突き動かした巨大な創造力と同じく、我々自身が決して開けようとしない、心の最深部に眠る莫大なエネルギーの奔流そのものなのだ。
鉛の壁も貫通する、距離を越えた「精神の暴力」
この巨大な「Psi力」が外界に向かって「圧力」として解き放たれるとき、それは常識を凌駕する物理的な暴力を伴う。
1920年代、ソ連の科学者レオニード・ワシリエフは、催眠術とテレパシーを組み合わせた恐るべき実験を行った。
彼はクリミアのセバストポリにいる被験者を、1600キロメートルも離れたレニングラードからのテレパシー暗示のみで、完全に昏睡状態に陥れてみせた。
電磁波さえ遮断する鉛の壁も、1600キロメートルの距離も、純粋な精神の圧力の前では何の障害にもならなかった。
イギリス国教会の牧師であり何度も悪魔祓いを行ったドナルド・オーマンドは、「ある集団が憎悪をもって特定の人物に精神を集中させれば、その魂に甚大な損傷を与えることができる」と警告している。
目に見えないPsi力を悪用することは、物理的にナイフで相手を刺す肉体的な暴行と、本質的に何ら変わることはない圧倒的な暴力となり得る。
なぜ彼らは、恩人の娘を「精神的奴隷」にしたのか?
これほど神聖な領域にまで到達したはずの魔術師たちが、なぜ歴史に泥を塗るような犯罪を起こすのか。
ウィルソンは、人類が進化の過程で背負い込んだおぞましい本能を指摘する。
「あらゆる生物のなかで、人間ほど『支配欲』に取りつかれているものはいない」
サルの群れにおけるマウンティングや「つつきの順序」に見られるように、生き物は常に他者を支配し、優位性を確立しようとする。
超能力(念力やテレパシー)がひとたび発現した瞬間、人間はこの他者を絶対的に支配するための究極の武器を手に入れてしまう。
1865年、フランスの農村にチモトゥー・カステランという醜い浮浪者が現れた。
彼は卓越した「本物」の超能力を有していたが、その強大なPsi力を、恩人の娘ジョゼフィーヌの純潔を奪うために使った。
カステランは背後から「見えない念力」を放ち、彼女から一切の意志力と身体の自由を奪い取った。
無理矢理身体を奪われた上、彼女は催眠によって、「新妻のように醜い浮浪者に寄り添い、キスをする」という異常な精神的奴隷状態へと完全に洗脳されてしまった。
19世紀末のイギリスで設立された西洋儀式魔術を実践する秘密結社「黄金の暁会」の創設者マグレガー・マザーズは、野の羊の群れをテレパシーのみで自在に操る驚異的な持っていたが、異常な名誉欲の塊であり、常に自分に逆らう者を屈服させようと血眼になっていた。
劇作家のストリンドベルイも念力で他人を操る実力を持っていたが、離婚した妻を苦しめるというただそれだけのために、黒魔術を用いて元妻の娘に重病を患わせるという悍ましい復讐を企てた。
彼らは間違いなく「本物」だった。
しかし同時に、自らの肥大化したエゴイズムを満たし、他者をひざまずかせる快感に溺れた悪しき「黒魔術師」でもあったのだ。
名声を得た超能力者の行き着く先は、例外なく自己顕示欲と他者への支配欲という泥沼である。
本物が「詐欺師」に成り下がる残酷なメカニズム
歴史に名を残した魔術師たちはみな、彗星のごとく現れ本物の超常現象で大衆を熱狂させる。
しかし、やがて能力は衰退し、最後には惨めな「いかさま師」として歴史から抹殺される。ここに、超能力のシステムに隠された残酷なパラドックスがある。
Psi力とは、人間の無意識の底から引き出される、極めて繊細で不安定な感情エネルギーだ。
テレビカメラの前で都合よくスイッチのオン・オフができるような機械的なものでは決してない。
しかし、一度権力者や優秀な科学者たちを己の前にひざまずかせる快感を知ってしまった魔術師たちは、二度とその「玉座」から降りることができない。
今日どうしてもあの奇跡を起こさなければならない。
見下す連中を黙らせなければならない。
だが、極度のプレッシャーの中で、無意識のエネルギー貯蔵庫の扉は頑なに閉ざされたままだ。「自分が特別で無敵の存在である」という全能感が崩れ去る恐怖に直面したとき、エゴイズムの怪物に成り果てた彼らは何を血迷うか。
そう、「トリック(いかさま)」を使うのである。
つい先日までは正真正銘の神の力を振るっていたはずの「本物」が、己の巨大なプライドを数分間保つというただそれだけの理由で、安い三流の手品師へと自らをすり替える。
彼らが卑劣な詐欺に手を染めるのは、初めから力がなかったからではない。「かつて確かに持っていた、本物の力の幻影」に執着し、凡人に戻る恐怖から逃れられなかったからなのだ。
現代の科学者たちが彼らのトリックを見破り「すべては詐欺だった」と薄笑いを浮かべて糾弾するとき、彼らは根本的で致命的な読み違いをしている。
ペテンが行われたからといって、過去に彼らが起こしたすべての奇跡までもが存在しなかったことにはならない。
真実はもっと複雑で、はるかに絶望的だ。
「彼らは本物の力を持っていたからこそ、自らの支配欲の奴隷となり、耐えきれずにみすぼらしい詐欺師へと身を落とした」のである。
あなたの内なる「狂気への扉」
このテレパシー能力、動物たちの方が人間よりもはるかに高度に自然に使いこなしている。
ドゥロフやハンス・ブリックといった世界的猛獣使いは、ライオンや猛威を持つ動物とテレパシーで感応し、その行動を制御していた。
なぜ人類はこの能力を衰退させてしまったのか。
人間が進化の過程で、自然の脅威に対抗するために「理性」と「道具」を過剰に発達させ、世界を論理的に、物質的に支配することを選んだからだ。
人間は「内面の知力(テレパシー)」を捨てて、脳の「予測と制御(ロボット)」の機能を進化の武器とした。
この変革は、人類が狂気に押しつぶされないための、生物としての防御システムだったと言える。
コリン・ウィルソンは警告する。
精神の力(念力)をみだりにいじくり回すことは、幼児に高性能なスーパーカーのハンドルを握らせるように、無責任で危険極まりない自滅行為であると。
あなたが今、スマートフォンをスクロールしながら退屈な日常を嘆き、「自分にも不思議で強大な特別な力があればいいのに」と無邪気に空想しているのだとしたら、それは大変幸福なことである。
あなたの内なる無感情なロボットは今日も正常に稼働し、あなたという脆弱な存在を、安全で退屈な「常識の箱」の中にしっかりと守ってくれている。
その箱の底、ほんの数ミリ足元には、歴史上の数々の大天才や聖人たちをことごとく狂気と惨めなペテンの泥沼へと引きずり込んだ、底知れぬ巨大な闇のエネルギーが、今も不気味な脈動を打ちながら横たわっているのだから。
