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【息子のこと|ep20】逃げてほしくない——泣きながら息子を引きずった朝

その日もまた、階段の上で同じ光景が繰り広げられていました。

けれど、その日の癇癪は、
いつにも増して激しいものでした。

階段の下から息子を見上げ、
私は途方に暮れてため息をつきます。

何度目かわからない、学校への電話。

いっそ「休んでいいよ」と言ってしまったほうが、どんなに楽だろう。

そんな葛藤を抱えながら、ダイヤルを押しました。

電話に出たのは、あの教頭先生でした。
「すみません、今日も遅れます……」
「わかりました。気をつけて来てくださいね」

電話を切り、息子が少し落ち着くのを待って、私は語りかけました。

「嫌だからといって『行かなくていいよ』とは、ママは言ってあげられないの。
世の中には、やれないこと、苦手なこと、苦手な人がいっぱいいる。
だからと言って、そのたびに逃げるのはダメなの」

泣いている子にそんな正論を言っても、余計に泣かせるだけだとわかっていました。
けれど、理由も言わずに強引に連れて行くことだけは、どうしてもしたくなかった。

「なんでなんだ! なんでわかってくれないんだ!」

納得できない息子は、
狂ったように泣き叫びます。

私は、自分の身長を超えた息子を
必死に引っ張りました。

「行くよ!」
動こうとせず暴れる息子。

私の声は、怒りなのか悲しみなのか、自分でもわからないまま震えていました。

「行きたくないんだってば!」
と手を振り払われ、一瞬、
怒りで手が上がりそうになります。

「なら、やめる? 逃げる? そうやって一生、逃げ続けるんやね!」
声を荒らげてしまう私。

二人とも泣いていました。
泣きながら、お互いに自分自身と
戦っているのが痛いほどわかりました。

息子は、怖さや不安と戦っている。
私は「守りたい気持ち」と
「育てる責任」そして、
「自分の中の鬼」と戦っている。

ボロボロになりながら、
息子を引きずるようにして車に乗せ、
学校へ連れて行きました。

廊下の先の職員室へ入っていく息子の背中を見届け、私は涙をこらえて、
下を向いたまま車へ戻ろうとしました。

ふと顔を上げたときです。
前方から、教頭先生が私を探して追いかけてきてくれていました。

「お母さん……大丈夫ですか?」
その一言に
「大丈夫です……」と答えようとした瞬間。

喉の奥で「ひっ」と音がして、
気づいたら堰を切ったように泣き出してしまっていました。

「お時間大丈夫でしたら、中でお話ししませんか?」

仕事に向かう予定でしたが、
職場に遅れる連絡を入れ、
部屋で教頭先生と話をしました。

どうしたらいいのかわからなくなったこと。
無理に連れてきていいのかという迷い。
そして、国語の先生への恐怖心。

すべてを静かに聴いたあと、
先生は私を労り、こう提案してくれました。

「息子さんの漢字のことは、私から担当教員に伝えます。
課題の量を半分に減らし、息子さんのペースに合わせて少しずつ戻していくのはどうでしょうか。
あそこで躓いて、学校に来られなくなるのは本意ではありませんから」

娘の時も思いましたが、本当に、
これほどまでに親の心に寄り添ってくれる先生がいることに、改めて救われました。

その日以降、すぐに行き渋りがなくなったわけではありません。

あの日、教頭先生が
私を追いかけてきてくれたこと。

あの瞬間の光景は、
今も私の中で消えることがありません。

あれはきっと、
私にとっての「お守り」になったのだと思います。

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softly.beyond                         〜そっと‥そのさきへ〜 最後までお読みいただきありがとうございます。 もしこの記事が少しでもお役に立てたり、心に響くものがあったりしたら、チップで応援いただけると嬉しいです。 いただいたご支援は、クリエイターとしての活動費に使わせていただきます