『サウナはもうヤメだ。』
サウナが好きだった。
毎週末、「ととのい」を求めて近所の銭湯に足繁く通った。
湯船で天を仰ぐ男達を横目に、
意気揚々とサウナ室に向かいながら思う。
「君たち、まだそこか。」
そんな僕が或るコトをきっかけに、サウナに入ることを辞めた。
これは、あなたが愛してやまないサウナとの蜜月の関係を断ち切ってしまうかもしれない、
そんなnote。
これより先は見てはならぬ。
其は見ずとも良い物語。
見ずとも良い。
見れば心憂い必ずや後悔する。
これより先は見てはならぬ物語なのだ。
サウナに行き始めたのは数年前。
タナカカツキ氏の「サ道」に端を発した第三次サウナブームに乗っかる形で、安直で平凡なサウナデビューを果たした。
初めての「ととのい」に感嘆し、サウナ室のルールに戸惑う初々しいサウナ初心者から、
世間が揶揄する「サウナー」になるまで幾許の時間も要しなかった。
水風呂を毛嫌う知人にレバレッジの重要性を執拗に説く浅はかで愚かな快感も、
「ととのい」の一端を担っていた。
「これは一生の嗜好になる。」
そう信じて疑わなかった。
「その日」は突然やってきた。
或る出勤日、後輩に銭湯に誘われた。
後輩の計画はこうだ。
17時に仕事を早上がり
代々木公園でフリスビー
銭湯
居酒屋
断る理由がなかった。
三代欲求がすべて詰まった魅力的な青写真は、僕の心を鷲掴みにした。
興奮を抑えきれず、仕事を横目に件の銭湯を下調べ。
ほどなく、「施設案内」に目を通した僕は衝撃を受けた。
「サウナ室」が無い。
どこを探しても「サウナ室」が無かった。
「………。」
「そんな銭湯に意味はあるのか?」
興を削がれながらも残りの二大欲求に心の躍動を任せ、仕事もほどほどに会社を後にした。
辺りが暗くなるまでフリスビーを堪能し、今日のファインプレーを道中の肴に銭湯へ向かった。
出来たばかりの小綺麗な銭湯。
だが「サウナ室」は無い。
靴箱は結婚記念日にあやかり「69番」と決めているが、その銭湯の靴箱は見事にキレイに図ったように、
「68番」までしか用意されていなかった。
「こんな銭湯に意味はあるのか?」
またしても興は削がれていった。
こじんまりした浴室には3つの湯船と多少の洗い場。
内気浴のスペースは無い。
後輩曰く、
中温風呂→高音風呂→水風呂
の手順で嗜むのが小杉湯の流儀らしい。
初めて経験する高音風呂は想像以上に熱かった。
44℃のバイブラによって身体は間も無く火照り、3分ともたずに水風呂に移動した。
ほどなく水風呂を出て、或る異変に気付く。
歩けない。
サウナに通い詰めて3年。
これまで経験したことの無い「ととのい」。
あろうことか、人生で1番ととのってしまった。
洗い場の椅子で明日のジョーさながら真っ白になってうなだれながら、朦朧とした頭で思った。
『サウナはもうヤメだ。』
「その日」から3年。
今日も44℃の湯船に悶え、
意気揚々とサウナ室に入っていくサウナー達を横目に捉えながら思う。
「まだそこか。」

