離職率を徹底的に考える(2)トレンドの読み方とアクション
前回の記事では、離職率の定義や基本的な考え方を整理しました。今回は、実際にデータをどう読み解き、分析を進めるか、そしてその結果をどのようなアクションにつなげるべきかを解説します。
1 トレンドとスナップショット
離職率を考えるときも、ヘッドカウントと同様に、スナップショット(ある時点の値)と時系列トレンドの両方が必要です。現在の離職率が何%であっても、それが上昇しているのか、下降しているのか、横ばいなのかには大きな意味があります。また、どのグループの離職率が高く、どのグループの離職率が低いのかを明確に示さなければ、分析として十分とは言えません。
ここでは、意味のあるレポートを作成するまでの手順を解説します。
1-1 全社離職率グラフ
離職率は、12か月など特定の期間における離職者数を計算するため、ある程度の長さの期間のデータが必要です。最低でも3年分のデータはあったほうがよいでしょう。すでに一定期間のデータがある場合は、全社トレンドを系列に分解する方法で進めるのがやりやすいです。
まずは、会社全体の離職率トレンドを可視化します。分析は、常に大きな視点から細部へと進めます。グローバル全体の離職率データが入手できれば、最大の分析範囲はグローバルになりますが、自国担当範囲のデータだけでも十分です。他国と比較しても、得られる示唆は多くありません。

全社離職率の例ですが、「これから何が言えるか?」と聞かれても、この段階ではあまり言えることはありません。さまざまな属性の、離職率の高いグループと低いグループが混ざり合った結果の数字だからです。
熱湯と冷水が混ざったぬるま湯のようなものです。もう少し分析を進めてみましょう。離職率の分析は、ぬるま湯から熱湯と冷水を分けるような作業です。離職率の高いグループと低いグループを見つけ出しましょう。
1-2 各系列ごとの離職率グラフ
一般的に離職率に影響を与えそうな要素を挙げますので、それぞれの切り口でデータを把握してみましょう。これだけでも様々な示唆が得られるようになります。
年齢(年代、5~10歳刻み)
性別
職種
職務レベル
給与レンジ位置
直近の評価
新卒・中途採用区分
国、地域などの場所属性
まずは、それぞれ一つの切り口で分析してみてください。

この例では、男性と女性で離職率に大きな差があることがわかります。ただし、これだけでは「なぜそうなのか?」「どういう影響があるのか?」といった点まではわかりません。
さらに、2つ以上の要素を組み合わせて分析すると、より明快な傾向が得られることがあります。たとえば、年齢×性別(例:31~35歳女性)の離職率を調べると、結婚や出産などのライフイベントによる離職への影響が見えてきます。このとき、各カテゴリのデータ数が少なくなりすぎないよう、十分なサンプル数があるか注意が必要です。
トレンドグラフを作成し、さまざまな切り口で分析したうえで、ビジネスパートナーやマネージャーから現場の温度感をヒアリングすることで、提案すべきアクションが見えてくるかもしれません。

少人数の系列の離職率
データ分析では、データ数が多いほどグラフは滑らかになりますが、逆に人数が少ない場合は扱いが難しくなることは、多くの方が経験していると思います。たとえば10人の部署の場合、1年間で1人が辞めれば離職率は10%、辞めなければ0%となり、グラフに描いても凹凸が激しくなります。基本的には、より大きな単位の数字を出すべきですが、「どうしてもこの部署のデータを出してほしい」と言われた場合にも、対応する方法はあります。
先ほど、基本的には1年間で計算すると書きましたが、計算期間を2年間にすることで、変動を滑らかにすることができます。
具体的な計算は次のとおりです。
離職率(2年平均)=(直近2年間の退職者合計)÷(直近2年間の平均社員数)

2 状況に応じた仮説とアクション
離職率に基づいて、「なぜそうなのか(Why so)」を考え、「だから何なのか(So what)」を導き、アクションにつなげなければ意味がありません。
離職率が高い/低い場合(状態)、また上昇/下降している場合(変動)に考えられるアクションをそれぞれ挙げていきます。
2-1 離職率が高い場合
採用そのものに問題
リスク:採用コストを無駄にし、いつまで経っても必要な人材を採用できない。
退職者が入社から3か月以内で辞めている場合は、採用に問題があります。候補者への採用ポジションの説明が不適切だったり、会社のビジョンの共有ができていなかったりしていないか確認し、ミスマッチを防ぐ手立てを講じる必要があります。
オンボーディングに問題
リスク:適切に採用しても、次々と辞められて早期離職が常態化する。
退職者が1年程度で辞めている場合は、オンボーディング(部門による受け入れ態勢)に問題があります。オンボーディングを支援するために、必要なトレーニングを実施したり、受け入れマニュアルの整備や担当の明確化などを部門に対して人事から要求する必要があります。
労働環境に問題
リスク:社員の健康を守れず、コンプライアンスのリスクも抱える。
季節的な変動や、業務とリソースのバランスが崩れたときなど、残業時間や休日労働などの労働環境が原因となっている可能性があります。勤怠データを精査し、もし勤怠データがない場合は、部門への聞き取りなどを行いましょう。ヘッドカウントの再配分を視野に入れた社内リソースの見直しなど、過重な労働を解消するための施策を打つ必要があります。
上司に問題
リスク:一人の上司のせいで、何人もの優秀な社員を失う。
離職者の個人リストをレビューする際には、必ず上司の列を含めて確認しましょう。特定の上司を持つ社員が退職している場合は、その部署・チームの離職率だけが他に比べて高くなります。これはマネジメント不全であり、その上司への人事ヒアリングが必要です。実際には、まずはその周囲や斜め上のマネージャーへのヒアリングから始めるとよいでしょう。
上司の管理能力に問題があれば、コーチングやトレーニングなどの再教育が必要となりますが、リソース不足など上司だけでは解決できない問題を抱えている可能性もあります。
キャリアパスに問題
リスク:将来のリーダーを育成できなくなる。
特定の年代や職位の離職率が高い場合、それはキャリアパスに問題がある可能性があります。
キャリアパスの描き方は人それぞれですが、特に若手社員は、早く成長し、早く次のステップに進みたいと考えているでしょう。もし社内でのキャリアに行き詰まりを感じているのであれば、社内ではなく社外に可能性を探すことになります。これは避けられない側面もあり、複数の会社を経験することで幅広い知見を得ることも大切ですが、それとは別に、社内でのキャリアパスが描けていることも組織にとって重要なポイントです。職務グレードはあくまで一つの指標にすぎませんが、特定の職務グレードでの停滞を監視しておく必要があります。
プロモーションを実現するために、必要なプロジェクトにアサインしているか、また社外からの採用によって社内での昇格機会を奪われていないかのチェックも必要です。
昇格の準備ができている社員を一定数の割合で保持し、近い時期に昇格させること、またできるだけジュニア層での社外採用を促す必要があります。
報酬の市場競争力に問題
リスク:さらに離職が進むだけでなく、採用もうまくいかなくなる。
上司や仕事に満足していても、報酬に不満があれば退職の可能性は高まります。報酬サーベイなどで定期的に報酬の市場競争力を見直していますか?仮にサーベイ上のデータでは競争力があるように見えていても、そのベースとなるジョブの大きさ(責任の大きさ)が実際には大きくなりすぎていて、過小評価されている(市場競争力がない)可能性もあります。
毎年徐々に大きな仕事をこなしていて、実態としては昇格しているのが妥当なほどの仕事をしているのに、給与も役職も同じままでは、社外を見回せば良い条件で仕事を見つけることは容易でしょう。
ハイパフォーマーの離職に問題
リスク:将来のリーダーを失うだけでなく、周囲の社員にも大きな失望とさらなる離職を加速させる。
ハイパフォーマーやタレントと呼ばれる社員は、特に注意深く離職率を監視する必要があります。理由は一つではないかもしれません。これまで挙げた要因を個別に詳細に分析し、早急にアクションを起こす必要があります。
2-2 離職率が低い場合
離職率が低いことは、会社として必要な社員の離職を防いでいる成功例である場合もありますが、逆に問題となっている場合もあります。状況を慎重に見極める必要があり、それによって取るべきアクションは大きく異なります。
ローパフォーマーだけが残っている可能性
リスク:パフォーマンスの低い社員だけが残り、利益を生み出しにくい体質の会社になる。
社員の評価別の離職率を分析した結果、ハイパフォーマーがすでに離職し、ローパフォーマーが残った末の低離職率であれば、それはかなり危険な兆候です。
ハイパフォーマーを会社に引き止めるための報酬や成長機会の提供が必要です。パフォーマンスの低い社員については、個人の問題だけではなく組織の問題と捉え、そのパフォーマンスを改善する施策を会社は打つ必要があります。目標の明確化やトレーニング、ツールの提供ができているかを見直しましょう。評価の低い社員が、パフォーマンスが改善されないまま会社に残っている傾向が見られた場合には、人事から上司に対して管理の適正化を求める必要があります。
ローパフォーマーの離職率が会社全体の離職率よりも低ければ、それは過剰定着の証拠で、適正化が必要です。もしも、そもそもローパフォーマーがいないような場合は、本当にローパフォーマーがいないのかを一度疑う必要があります。一方で、各部署に安易に強制的な評価分布を求めることは、社員全般のエンゲージメントの低下を招くことがあります。
すでに高齢化が進行している可能性
リスク:社員の高齢化が一段と加速する。
労働市場環境にもよりますが、一般的には、若年層ほど社外にも機会が多く離職率は高くなる一方で、相対的に高齢層は社外の機会も少なく離職率も低くなりがちです。
すでに組織の高年齢化が進行したために離職率が低いならば、もっと早くに手を打たなければならなかった状況です。すぐにでも世代交代を進めなければなりません。属人化した仕事を切り出して整理する、採用方針の見直しなどに取り組む必要があります。
いま辞められない状況なだけかもしれない
リスク:エンゲージメントが低下するだけでなく、外部環境が変わった瞬間に、大量の退職が発生する。
社員は辞めたいと考えているが、外部環境が冷え込んでいるので、結果的に離職率が低くなることがあります。人事としてはキャリア面談や社内異動の積極的な実施で、社内でのキャリアを描きなおしてもらい、エンゲージメントの向上と低離職率による停滞状況を解消しなければなりません。
停滞状況を注視する
リスク:すぐに大きな問題になることはないが、長期的に活力の低下を招く。
離職率が低い結果、多くの社員が長年にわたり同じ職務グレードや同じポジションに長期間とどまることになる場合があります。あまりにも停滞期間が長くならないように、人事部はモニタリングと異動の促進が必要です。
2-3 離職率が上昇しているときのアクション
リスク:必要な人材が足りずにビジネスが続けられなくなる。
離職率が上昇している状況というのは、一般的に最も人事のアクションが求められる状況ではないでしょうか。いつから、どの層で離職率が上昇しているのかをしっかりと把握し、何が変化したので離職率が上昇を続けているのかを突き止めなければなりません。そのために、まずは、離職者の個人別リストをベースに担当の人事ビジネスパートナーへの相談から始めましょう。そこにデータになっていない情報が眠っている可能性があります。
社内の要因を探す
リーダーが信頼されていない、改善がなされない、パフォーマンスボーナスへの失望など、社内の要因を探し出しましょう。
原因がわからなければ手のうちようがありません。人事一丸となって、退職インタビューの精査や上司や部署の所属メンバーへのヒアリングによって社内の要因を突き止めましょう。
社外の要因を探す
競合他社の動向、業界動向によって離職率が上昇する傾向が見られることがあります。特に業界が狭く、人材プールが小さい場合には、顕著な傾向が見られます。特定の年齢、職種、国や地域に影響が限定される場合もあります。一般的には業界全体が好調なときには、好条件の転職先がたくさんあり、必然的に離職率は高くなるでしょう。
人事として取れるアクションとしては、リテンションボーナスや報酬の臨時改定などが考えられます。
2-4 離職率が下降しているときのアクション
離職率が下降していることは、必ずしも望ましい場合だけではありません。もちろん、エンゲージメント改善や、報酬体系の変更、また社員コミュニケーションの改善など、会社がこれまでに打った人事施策の影響が功を奏している可能性があります。施策のタイミングや対象などとあわせて分析をする必要があります。離職率は様々な要因に影響を受けます。安易に施策の効果としてはいけません。
ここに、望ましくない状況もあるという例を挙げておきます。
季節性、外部環境によるものかもしれない
リスク:状況が変ったときに、反動で離職率が急上昇する。
賞与の前後や、好況・不況などの市場要因、最近ではコロナウイルスによるパンデミックの影響で離職率は変化します。不安定な社会環境の中では、安定を求めるために、あるいは採用が控えられるために、離職率が下がるという傾向が見られることもあります。
何か大きな変化があるときに、「様子見」で離職率が一時的に下がることがあります。コロナ禍が始まったときも一時的に離職率が下がり、しばらくしてその反動で上昇した後、また以前の水準付近に落ち着く傾向が見られました。
採用の停滞が原因かもしれない
リスク:採用が進まずリソース不足で社員の疲弊が続く。
採用がうまく行っておらず、大量に採用した社員が大量に辞めて、離職率が高くなった後で、採用も思い通り進まず、結果的に離職率が下がる、ということも理論上はあり得ます。離職率を考えるよりも、採用中のポジションをきちんと埋めることからはじめましょう。
過剰定着が生じているかもしれない
リスク:組織全体の成長が緩やかに止まる。
会社の居心地が良すぎて成長意欲を失っている社員層が増えているのかもしれません。このような社員がそのまま成長せずに留まってもよいでしょうか?常に成長を期待される組織では、そのような状況は、パフォーマンス管理の問題と捉えます。適度にストレッチな目標を立て、より厳格なパフォーマンス運用が必要になります。
3 回答テンプレート
以下のテンプレートを埋められるような提案を考えてみましょう。
離職率についての質問への回答
「着目した部署やグループ(年齢・性別・パフォーマンスなど)については、現在◯◯名が在籍し、離職率は◯%です。
これは、社内(部門)平均◯%よりも高く/低く、離職率は◯月から上昇/下降しています。
その要因としては、◯◯があると考えられ、◯◯を対処する必要があるのではないでしょうか。」
まとめ
離職率が高いグループと低いグループを洗い出す。
全社離職率を、年齢・職種・職務レベル・評価などの切り口で分解する。
離職率が「高い・低い・上昇・下降」によって、取るべきアクションが異なる
