ブラック企業の狂気—『蹴っとばすぞ!』と怒鳴る男
「このヤロウ!蹴っとばすぞ!」
突然、静かな事務所に怒号が響き渡った。
ボイラー担当のMさんが、私の目の前に立ちはだかり、鬼の形相で怒鳴りまくっている。
30代、朝4時。
工場でトラブルが発生し、私は急きょ呼び出された。
会社に着き、事務所に入ろうとしたその瞬間、異様な光景が目に飛びこんできた。
『誰かいる⁉ …Mさん?』
『えっ⁉ 人の机を物色しまくっている!』
いったいなにをしてるんだ? こんな朝方に?
Mさんの仕事場はボイラー室だ。この事務所に用はないはず?
事務所には現場の管理者や、品質管理、物流部など約30人分の机がある。
まだ誰も出社してない時間帯。
その事務所の窓ガラス越しに、一人コソ泥のように動きまわるMさんを見て「ゾクッ」と身震いをした。
しかし、中に入らない訳にもいかない。
事務所にある私の机に、工場の資料があるからだ。
◇制御不能な男
Mさんは、気に入らない人には暴力をもいとわない。
この工場でも有名な危険人物だった。
・態度が気に入らないと因縁をつけられ、首元を締めつけられた者。
・フォークリフトの運転が気に入らないと、引きずり下ろされた者。
・突然、工場に乱入してきて、訳も分からず追いかけられた者。
恐らく、ほんの些細なことだと思うが、被害にあった方は理由もわからず立ちつくすのみ。
そんなMさんは、嘘と隠しごとが大好きな”B部長”を慕っていた。
この”B部長”もまた、パワハラを正当化する厄介な人物だ。
そしてこの日も、Mさんは暴力的で制御不能な男となっていた。
私の目の前に仁王立ちで立ちふさがり、後ろ手にした右手に、何かを隠し持っているのも見えた。
「こ〇される…」
本気でそう思った。
◇異常な要求
少し前に話しを戻すと、私は事務所に入るとき
「おはようございます…」
恐る恐るMさんに挨拶した。
しかし、完全に無視され、むしろ睨み返されて一気に恐怖心が増したのを覚えている。
「マズい…早くこの場から逃げよう…」
そう思いながら、机の引き出しから資料を取りだし、現場へと向かおうと準備していると、突然
「挨拶は、両手をワキに揃えてしろ!」
目をつり上げ、正気を失ったかのような形相で私に向かってくるMさん!
『えっ?なんで⁉』
なにを言ってるんだ⁉
混乱している私をよそに、続けざまにMさんは
「このヤロウ!蹴っ飛ばすぞ!」
何度もなんども怒鳴りつけ、そのたびにMさんの右足が小刻みに動いて威嚇する!
腰の後ろに隠してる右手も、ビクッビクッと動いている!
『なんなんだこれは⁉』
『まさかナイフを隠しもってるのか⁉』
異常すぎる。
そもそも、挨拶を無視したのはMさんのほうだ。
『なぜ?こんな理不尽な要求をされなければならないんだ⁉』
しかもMさんは、 事務所内の机をあちこち物色していた。
ここに彼の机はない。
なのに、なぜこんな時間に? いったい何をしていた?
考えただけで、背筋がゾッとした。
◇「お前の給料が!」
さらに、耳を疑う言葉が…
「お前!○○万円ももらってることが気に入らない!」
……は?
なんで知ってる?
もしかして給与明細を盗み見した?
いや、私は会社に置きっぱなしになんかしていない。
いったい、どこからその情報を仕入れたんだ?
もしかして、あちこち物色しまくって、なんらかの資料を見つけたのか?
考えてもしょうがない。
いまは、この人から逃げることが最優先だ。
ちょうどその時、別の従業員が事務所に入ってきた。
「おはようございます」
おかげで、Mさんの攻撃は終わり、私を睨みつけながら事務所から出ていった。
『助かった…』 そう本気で思った。
◇この会社の闇
あまりの恐怖と異常な行動、これを泣き寝入りすることはできない。
そう思い、当時の私の上司”B部長”にダメ元で報告した。
この人もパワハラを正当化するし、Mさんのことを可愛がるというサイコパスな人だった。
そして、予想通り…
「そうけ」この一言で終わり
案の定、完全スルーだ。
その後も、取締役や常務にも報告したが、まともに話しを聞こうともせず、闇に葬られた。
ブラック企業は、こうして危険人物を放置していく。
◇逃げる選択を
Mさんのような人物は、 そうそういるとは思えない。
けど、世の中には 理不尽に怒鳴り散らす人間や、暴力的な気質を持つ危険な人物 が確かに存在する。
もし、職場や日常生活の中で 「この人ヤバい」 と直感したら——
それは 危険信号。
「自分が謝れば…」
「冷静に話せばわかるはず」
そんな考えは、このタイプの相手には通じない。
理不尽な暴力や支配欲に付き合わなくていい。
まともな会話が成り立たない相手には 絶対に関わらず、距離を取ろう。
そして迷わず逃げる。
自分を守れるのは、自分しかいない。
ブラック企業に33年勤めた経験から言えること——
「異常な環境や危険な人間からは、何よりもまず距離を取ること」
それが、 自分の未来を守るのに必要だから 。
