「会社に言うな!ダマってろ!」〜パワハラに耐えつづけたT先輩の、悲痛な叫び〜
「会社には言うな!ダマってろ!」
そう言って、Tさんは私をじっと睨んできた。
両手に松葉づえ、首には大きなコルセット。
180センチ近い大柄な体が、細く、痛々しく見えた。
――あのアニキ的存在のTさんが、こんな姿になるなんて。
◇現場のアニキ
Tさんは、当時40代後半。私より3つ年上だった。
この工場では珍しい「大卒」で、どこか理屈っぽいところがあったけど、それでも現場では一目置かれていた。
目はギョロっとしていて、ホリが深く、ちょっとしゃくれ気味のアゴ。
頬には、まるでアニメ『鬼滅の刃』の炭治郎みたいなアザがくっきりと。
いま思いだしても、特徴的で強面の人だった。
そんな、見た目とは裏腹に、いつも冗談を言っては現場を笑わせる。
気配りもできて、誰にでも気さくに接してくれる。
どこか親しみやすく、現場の頼れるアニキ分だった。
「何かあったら、Tさんに相談しよう!」
それが、みんなの合い言葉と言ってもいいくらいだった。
◇パワハラの盾
そんなTさんを、A部長が目の敵にしていた。
A部長は、『自分が絶対的なボス』だと思ってる人。
私がこの工場で見てきた中でも、トップクラスのパワハラ上司だった。
「理屈っぽいんだよ!」
「オマエ、ナメとんのか?」
感性で ものごとを判断する、現場たたき上げのA部長。
理屈っぽい(良く言えばロジカルな)Tさんが気に入らなくて仕方ない。
何かにつけて怒鳴りとばし、机を叩き、そして足のスネを蹴りとばす!
でも、Tさん……
どれだけ怒鳴られても、机を叩かれても、スネを蹴られても、まったく動じない。
ただジッと、静かに、A部長の怒りが収まるまで耐えている。
ハガネのメンタル――
まさにそんな表現がぴったりだった。
Tさんが盾になってくれるおかげで、私たちへのパワハラ被害が軽くなり、
現場のメンバーはずいぶん救われていた。
「Tさんがいてくれて良かった」
悪いなと思いつつ、心の中で、何度もそう思っていた。
◇異変
しかしある日、Tさんは突然、会社に来なくなった。
連絡もなく、スケジュールにも何も書かれていない。
誰もが「どうした?」と心配していると
しばらくして耳に入ってきたのは、
「Tさん、入院したらしいぞ」
という噂。
詳しく聞いてみると、
どうやら過度なストレスで、頸椎の神経に支障がでて、左足が動かなくなったとのこと。
「え…そんなことあるの?」
信じられなかった。
でも、噂はあっという間に広まり、現場はザワつきはじめた。
「原因は、A部長……」
誰もがそう感じていた。
Tさんがパワハラの盾になって、ずっと一人で耐えてきたことを、みんな知っていたから。
◇仕方ない…
Tさんが戻ってきたのは、それから約2週間後のことだった。
首にガッチリとしたコルセットが巻かれ、両手には松葉づえ。
その姿を見て、言葉を失った。
「え…そこまでして出社する…?」
誰もがそう思った。
ヨロヨロと松葉づえをつき、斜め下をジッと見つめながら歩く姿は、痛々しくて見てられなかった。
そして、休憩時間。
私はTさんに声をかけてみた。
「やっぱり原因って…A部長…」
そう切り出した瞬間、Tさんは言葉をかぶせるように、
「会社には言うな!ダマってろ!」
強い口調で、私に向かって忠告してきた。
そしてそのあと、ふっと目をそらして、こう続けた。
「こういう会社だから…仕方ない…」
◇忍耐
当時はまだ、パワハラホットラインなんて会社になかった。
上司に何を言っても、うやむやにされ闇に葬られるか、逆に責任転嫁されて終わり。
最悪、報復という形でさらにパワハラがエスカレートする。
そう、ここでは「耐える」しかなかった。
これでいいのか? これが普通なのか?
世間一般の会社でも、こんなことが起きてるのか?
私は、なんどもなんども自問自答しながら、
パワハラ文化が根づいたこの会社でも、「頑張れば良くなる」と思って耐えていた。
いまでも、この事件のことを思いだすたび…
Tさんの必死な忠告に負けて、ただ「分かりました」としか返せなかったことが心残りです…
◇伝えたいこと
その後、ブラック企業とはいえ「パワハラホットライン」が設置され、親会社へ通報できる直通ダイヤルも開設された。
いまの世の中、SNSでも情報発信できる。
誰かに話を聞いてもらうことや、助けを求めることも、当たり前になってきた。
けど——
Tさんのように、「自分さえ我慢すればいい」と思って、耐えている人がいるのではないか。
もしいたら、思いだしてほしい。
「我慢し続けることが美徳」の時代は、もう終わっている。
パワハラは、加害者側に自覚がないことが多い。
自分が声を上げることで、誰かが手を差し伸べてくれる。
心と身体を壊さなくて済む。
✅ まず、信頼できる誰かに相談してみる。
✅ 記録を残しておく。
✅ 自分の身を守る行動をとる。
これは、Tさんのようにギセイになる人を、もう二度と見たくないという私の願いです。
大切な人・家族を守るためにもどうか、まず自分自身を守りましょう。
もう一人で抱え込まなくて大丈夫だから。
🍀𝕏でも33年間の
ブラック企業体験談を発信しています。
▶️ブラック・パワハラでお悩みの方は、𝕏のメッセージよりお願いします。
https://x.com/skazuoki
