「不安を胸に決意 」

リビング――ストレッチが終わったあと。
将太はそのままマットの上で、ぐすぐすと鼻をすすっていた。
「なぁ〜……」
ぽつり。
シンの服の裾を掴む。
「チビにしてくれよ……ダメかぁ〜?」
シンは少しだけ表情を崩し、将太の横に腰を下ろした。
「……キツイか?」
将太は、少し迷ってから――コクリと頷いた。
「ゴメン……俺……頑張ろうって……
    頑張んなきゃ……って……でも……」
言葉が続かない。
シンは急かさず、静かに待つ。
将太の肩に、そっと手を置いた。
「……分かった⋯だが⋯約束だ。
     リハビリはサボるな!⋯イイな?」
頷く将太。
優しい声。
「泣くな」
一呼吸おいて――少しだけ真面目なトーンになる。
「だが……聞け。大事な事だ」
将太は目をこすりながら頷く。
「今、お前……中学2年だな」
「……うん」
「あと2年で卒業だ」
シンの視線は、どこか遠くを見るようだった。
「学生生活も残り僅かだ……この時間は戻らねぇ〜」
将太は顔を上げてシンを見つめる。
「お前はチビになれる」
静かに続ける。
「だがな……学生生活は “今” しかねぇ〜んだ」
言葉が、まっすぐ刺さる。
「俺達は……日常ならチビにして思い出を作ってやれる」
少しだけ、苦く笑う。
「でもな……“今の時間” は作ってやれねぇ〜」
将太の目が揺れる。
シンは続けた。
「学校に行きたくねぇ〜ってんなら、無理には行かせねぇ〜」
一拍。
「だが……後で後悔させたくねぇ〜んだ」
将太は、しばらく黙ったあと――
小さく頷いた。
「……俺……学校好きだし……楽しいし……」
ぽつぽつと話し出す。
「行きたくない訳じゃない……でも……」
言葉が詰まる。
シンはため息をひとつ。
「体力は徐々に回復していく……髪もな」
将太の頭に軽く触れる。
「今すぐ元通りにはならねぇ〜」
そして――少しだけ、いつもの調子に戻る。
「それじゃ……チビで学校も行くか」
将太、顔を上げる。
「え……?」
シンは肩をすくめる。
「5歳児なら……今のお前の体の状態も継承される」
淡々と説明。
「見た目がチビになるだけだ。
     だが⋯キツイのは同じだぞ⋯」
将太の目がじわっと潤む。
「うん……いいのか?」
「お前が決めろ」
将太は力強く頷いた。
「頼む……」
少し震える声。
「リハビリも頑張るから……俺……」
シンは小さく息を吐いて――
将太の頭に手を乗せた。
「……分かった」
ーーその瞬間。
ふわりと――光。
柔らかい光が将太を包み込む。
体がゆっくりと縮んでいく。
服が大きくなり、手足が小さくなる。
5歳の姿へ。
「……っ……」
将太の目から、涙が一気に溢れた。
「う……ぅ……」
次の瞬間――
ぎゅっ。
シンにしがみつく。
小さな体で、必死に。
「……シン……」
声も幼くなっている。
シンは何も言わず――ただ、その頭を軽く撫でた。
「……無理すんな」
短く、それだけ。
将太は顔を埋めたまま、ぐすぐすと泣く。
でも――その泣き方は、少しだけ軽かった。
ニックが後ろからそっと覗く。
「おぉ〜……ちび将太だ〜♪」
しゃがんで目線を合わせる。
「学校もこれで安心だねぇ〜♪」
将太は涙を拭きながら、小さく頷いた。
「……うん……」
シンが立ち上がる。
「約束、忘れんなよ」
将太が見上げる。
「リハビリだ」
少しだけニヤリ。
将太は一瞬ビクッとしたあと――
小さく笑った。
「……うん……頑張る……」
怖いけど。⋯逃げない。⋯ちゃんと向き合う。
その一歩として――小さな体で、また前に進み始めた。

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