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問題社員のつくり方

Aさんが中途入社してきたのは3年前の12月だった。

彼女の履歴書には華々しい経歴が並んでいた。弊社よりも大きな企業を2社経験している。4か国語を操れる。海外の有名な大学を出ている。なぜうちに来てくれたのかと不思議に思うほどだった。

しかし、このAさんが、ヤバかった。

ほんともう「ヤバい」としか言いようがなかった。

いまだに生レバーを提供している店を「100ヤバ」とするとAさんのヤバさは「6853910ヤバ」だった。

今日はそんなAさんの厳選されたヤバエピソード・コレクション(通称『ヤバコレ』)を紹介させてください。

入社してすぐ、Aさんは上司と揉めた。

「こんなレベルの高い仕事を振るなら、もっと高い給与をもらわなくてはならない」と、騒ぎ始めたのだ。

今冷静に考えれば「????????」という感じなのだが、当時の弊部署の感覚は狂っており「優秀なAさんが言うってことはうちの部署の仕事の振り方が変なのカナ……マヂ病む……」と、全員メンヘラみたいになってしまった。

そしてAさんの逆鱗に触れないよう検討に検討を重ねた結果、最終的にAさんに割り振られたのは、それまで派遣社員の方が片手間でやっていたルーチン仕事、1個だった。

部署に安寧が訪れるかと思いきや、大変とは言えないそんな1個の仕事のためにその日から彼女は月100時間を超えるほどのド残業をすることになる。そして「私に振られている仕事の負荷が高すぎる!!!」と、また騒ぎ始めたのだった。

そうなるともう中堅社員の私は「メンターになってあげて!!!」とか、言われるわけですわ。

そんで私も「はい!」つって。「喜んで!」つってさ。Aさんは大企業出身で優秀な多言語話者だし辞めさすわけにはいかないから、あっしがひと肌脱ぐでヤンスと言いながら華麗にメンターに着任したわけです。なんの疑いもなく。

それで、私がAさんからまずメンターとして求められたのは、毎日30分の打合せだった。

普通毎日はやらんやろ。えっ、前の会社では当たり前? ほな毎日やるか〜とミルクボーイになりながら私は承諾し、平日毎日13:00~13:30という徹子の部屋とまったく同じスケジュールをAさんのために使うことが確定した。

毎日やっていればそれなりに仕事はうまく進んでいくだろうと思ったがそううまくはいかない。蓋を開けたら打合せが30分で終わる日は1日もなかった。短くて1時間。長い日は3時間かかった。基本的に職場への文句、自分がどれだけこれまで努力してきたか、どれほど不遇な人生を歩んできたか、といった語りをひたすら聞く時間だった。打合せが終わった後もチャットが毎日30000字(体感)届いた。

私は自分の業務が圧迫されていくのを悟りながらも「でも早く終わらせたい感じを出したら絶対に文句を言われてしまって辞めてしまうそれはダメだなぜならAさんは優秀で辞めさせては困る人材なのだから」と耐えながら優しい言葉をかけ続けた。そのストレスで顔面が半分麻痺したりもした。

それが功を奏して私はAさんに死ぬほど好かれてしまった。

「他人にこんなに受け入れてもらえたのははじめてです」と、言われた。

ここから状況が一変した。

私のことを「先輩」と呼び、先輩のことをもっと知りたいです、とか言いはじめた。生い立ちから、家族構成から、MBTIから、LINE IDまで。隠すほどでもないので、私は普通に全部伝えた。

ある日、会話の流れで「もしプレゼントされるなら実用的なものと心がこもっているもの、どちらがうれしいですか?」と聞かれた。私は「実用的なものですね」と即答した。自作の歌とか絶対いらないですね、とも言ったと思う。

そこから、怒涛のプレゼントラッシュがはじまった。

以下、私がもらったもの一覧です。

  • 「私の名刺を黄金にしてそれを盾に埋め込んだもの」というまだこの世に存在しない種類のいらないもの

  • 昇格したタイミングでもらった「祝・昇格」と黄金で書かれた、スイッチを入れるとカラフルなライトが光り音楽が流れる、金箔入りの日本酒

  • 駅名の看板(私の本名と同じ)とAさんのツーショット写真を写真立てに入れたもの

  • 「産後、ホルモンバランスやばいんすよね~」と軽く雑談したらその翌週にくれた『ホルモン正常御守り』というどんな神様が宿ってるのかわかんなすぎる御守り

  • 「生まれてきてくれてありがとうございます」という趣旨が数十行に渡って書かれたメッセージカード

  • 絵本(主人公の名前がすべて私の名前に書き換えられている)

  • 花(変なにおいがする)

  • 数カ月にわたって毎週末、私の幸運を祈りながら、全国各地の神社仏閣に赴いて御朱印を集め、最後のページまで埋められた御朱印帳

  • その各地で購入した御守り(30~40個くらい)

  • 私が生まれた年の硬貨セット(特殊な素材ver.と通常verの2種)


恐怖


いるかいらないかは別にして、こんなにお金だけでなく時間までかかっているものをもらって、私は何をお返ししたらいいのでしょうか?


臓器とかでしょうか?


ていうか「実用的なもの」って言った結果がこれなのはなんなんでしょうか????????????

一度「もうプレゼントはいらないです!」と割とストレートに言ってみたが「贈る側が贈りたいからやっているんです^^」みたいなことを言われて会話にならずに終わった。遠慮してるんじゃないんだよ、いらないんだよ。

相変わらず仕事用のチャットにも個人のLINEにも30000字(体感)のメッセージが届き続ける日々。疲弊しながらも「でも無下にしたら訴訟を起こされるんじゃないか……」という怯えから、私は無難な返事を続ける。

Aさんから私への感情はどんどんエスカレートしており、ついに「災害時に先輩を守りたいから」という理由で地域の消防団に入団した。どこへ向かっているんだ。

「もしあなたが殺人を犯したとしても、私は通報せず味方になって話を聞くでしょう」とか言ってきててそれもかなり怖かった。

あるときは、夜にこんなLINEが来ていた。

今、先輩の好きなハイボールを飲んでいます
私は先輩になりたい……
先輩に出会うためにこれまでの試練を乗り越えてきた

もう私になりたくなっちゃっている。
そしてそのあとにこう続いていた。

元気でいてください。私は大切な人が突然この世を去ることが多いから。

勝手に死亡フラグ立てんな。


そのころ仕事の状況はどうなっていたかというと全然うまくいっていなかった。さすがにAさんの仕事「1個」は少なすぎるので新たな仕事を振ったものの、スムーズに進むわけがない。

毎日の打合せだけが変わらず続いている。一緒に仕事を進めるメンバーへの文句。そして増えた残業時間への文句。産業医にも相談したらしいが産業医さえも手に負えない人材だったらしく、その対応への文句。文句に文句を重ねる文句のミルフィーユ。

ついに私や上司を飛び越え部長にも30000字のメールを送り始め、「おいおい新人にこんなメールを送らせるなんて、この部署どうなってんねん」と目をつけられ、かなりおおごとに発展した。

私だけが部署で唯一Aさんとコミュニケーションが取れる人間、みたいになっており、Aさんに関連するすべての会議に私が招集され「いやAさんってこういう人でぇ……」と頭を下げてまわった。

本当は人員が1名増えたことで任せたかった仕事があったのだが、そんな会議が増えてむしろ負荷が大きくなり、さらに仕事も任せられないので仕方なく他のメンバーが負担した。部署の残業時間は全体的にどえらいことになった。

上司は、明らかにAさんに不満を持ち始めていた。一方Aさんは上司のせいで自分がつらい状況にあると、かなり強く憎んでいた。「上司がいなくなれば自分も先輩も幸せになれる」とか言い出した。私は上司とAさんの板挟みとなり「板わさってこんな気持ちなのかな」と不覚にも板わさの気持ちを理解することとなった。

ある日またAさんからLINEが入っている。「信頼している占い師にしりさんのことを見てもらったので結果を知りたいですか?」とのこと。知らない占い師に勝手に見られた結果、知りたくなさすぎるなと思っていたが私の返事を待たずに結果が送られてきた。

私は「Aさんのことを心から信頼しており、Aさんには絶対に会社を辞めてほしくないと思っている人」らしい。本当に、1ミリも当たっていなくてすごい。その占い師、やめた方がいいですよ。


入社から1年後。なんやかんやあって、Aさんは別の部署に異動することになった。うちの部署では扱いきれないと判断したのだ。賢明すぎる。

異動の数日前。

『感謝と寂しさを伝える時間』という件名で私の予定がブロックされていた。会議室に入ると荘厳な顔つきのAさんがおり、文字通りこれまでの感謝と寂しさを伝えられる。結局2時間くらいかかった。

最後に「私は先輩のことを理解したつもりでしたが、最近理解ができていないことに気がつきました」と、ぼそっと言った。

「私はこれまで、先輩ほど私を拒否せず受け入れてくれる人なんていないと思っていました。しかし、先輩は誰のことでも受け入れますよね?」

たしかに。

これまでの人生で「こいつのことほんと嫌いだわ」と思う人ってあんまりいなかった。ここまでされているAさんのことも、めんどくせえなとは思うけど別に嫌っているわけではない。

それだけでなく、私はそこまで仲良くしたいわけでもない人から旅行に誘われても普通に行く。別にいっしょにいて面白くない友達と15回くらい旅行に行っている。いっしょにいると緊張する先輩と2人でハワイに3泊したこともある。私にとって「断ることのめんどくささ」がなによりも重いから、行くのだ。

たぶんこの性格のせいでAさんから、先輩は心をすごく開いてくれている、仲良くなれている、本音で打ち解けている、と勘違いさせてしまった。

「先輩は私が入社した当初はもっと生き生きとされていて、私がチームを変えることを喜んでくれていました」「だから私は先輩のためにチームを変えようとがんばってきました」「ただ数カ月前から明らかに疲れている様子だったし、今日の打ち合わせやミーティングの様子もこれまでとは違かった」「なにか心境に変化があったのか」「これからはもう私のことを応援してくれないのか」「私がこれまで先輩のためにやったことは無駄だったのか」みたいな感じのことをあふれるように伝えられた。


待って待って待ってこれまでの暴走って私のためだったの??????????

私がこの問題社員を作っちゃってたの!!!!?!?!?!?!?

そうか。彼女にとって、「行動を拒否しない=応援」になってしまっていた。だから同僚や上司や部長に対してヤバい行動をとっているのを静観していたことが、彼女の中で「正しい行動」の裏付けになってしまっていたのだ。


私のせいで、こんなことに!!!


私はショックを受けた。


最後に、またプレゼントをもらった。どでかい紙袋だった。中身は家に帰ってから見てくださいね、これまでで一番心を込めたので、と念を押される。


私はちょうど引越しをした時期で、これまでAさんからもらったプレゼントをすべて処分したばかりだったので、内心「いらねえ……」と思いながら受け取った。


帰宅して開けると、マジで、想像を超える、本当に本当に本当に、この世でもっともいらないものが入っていた。


みなさんが考えるいらないものってなんですか?


せいぜい、自作の歌が入ったCDとかじゃないですか?

全然かわいいそんなの。


全員の想像を超える自信がある。


紙袋を開けてそこに入っていたのは、


私の顔写真が埋め込まれた、『いつも何度でも』のオルゴールが流れる水晶(ライトアップしながら回る)だった。


もう一回言うけど、私の顔写真が埋め込まれた、『いつも何度でも』のオルゴールが流れる水晶(ライトアップしながら回る)だった。





これをもらって喜ぶ人間、いる??????????


あとこれを作ってる業者、どこ???????????


私の顔写真が埋め込まれた←いらない
いつも何度でもが流れる←いらない
水晶←いらない
オルゴール←いらない
ライトアップしながら回る←いらない


いらない要素が積み重なりすぎてて、ぷよぷよだったらすごい消え方してる


しかも私のフルネームと顔写真が入っているのもタチが悪い。ワンチャン、顔写真つきの身分証明書としても使えるくらいの情報が詰め込まれているわけであり、この水晶を窓口で提出することによって銀行口座の開設とかもギリいける可能性がある。そんなもん、捨てにくいにもほどがある。すてほど。

夫に見せたら絶句していて、その後なぜか確信を持って「これには絶対に盗聴器が仕込まれている!」と言い出した。それで、この水晶に向かってなんかめちゃくちゃ話しかけ始めた。その頃息子は、「おにのパンツ」を歌いながら部屋の端から端までシャトルランしていた。まともな人間がひとりもいなくなってしまいました。

異動する最後の最後に、めちゃくちゃな爪痕を残したAさんだった。もう二度とこのような贈り物をしないように「マジでいりませんよ」と伝えるか悩んだが、結局うれしそうにも迷惑そうにもできない無難なリアクションしかできない、相変わらずの私だった。こんなリアクションしかできないから、問題社員が作られるのだ。


Aさんはその後、なんやかんやあって退職した。今どうしているかは知らない。


もしこの記事が彼女のもとに流れ着いたら、確実に身バレするだろう。


近日中に36歳女性の身元不明の遺体が発見されたら私だと思ってください。


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しりひとみ ありがとうイン・ザ・スカイ