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【デジタル人材育成】「講座を増やしても、人は学ばない」──"学んだ先"を見える化する、スキル情報基盤の話


こんにちは、SIONです。理学療法士9年目、経営3年目。姫路でリハビリ特化型デイサービス「Remake」を営む、株式会社Re.makeの代表をしております。

リスキリング、スキルタクソノミー、そして現場の人づくり。一見バラバラに見えますが、全部つながっています。今日の題材は、経済産業省が2025年5月23日に公表した「Society5.0時代のデジタル人材育成に関する検討会」報告書。副題は「スキルベースの人材育成を目指して」です。その第3章「スキル情報基盤」のあたりを、姫路の小さな会社の目で読み解いてみます。

結論から言ってしまいますね。学ぶための講座をいくら増やしても、それだけではリスキリングは広がらない。学んだ先が見えないと、人は学び始められないからです。報告書は、その「学んだ先」を見える化する土台として、個人のスキル情報を蓄積・可視化して労働市場で使えるようにする「スキル情報基盤」を提案していました。

1. 職種ではなく「スキル」で見ると、移れる先が見えてくる

報告書がまず置く論点は、スキルデータで人的資本の価値を最大化するには、スキル情報を蓄積・可視化し、労働市場で使えるインフラが要る、というものでした。前回のスキルタクソノミーの記事で「職種という束を、スキルという単位までほどく」という話をしましたが、その続きにあたります。

なぜほどくのか。職種名のままだと、隣の仕事との「似ているところ」が見えないからです。たとえば「営業職」と一括りにされている人でも、中身をほどけば「顧客の課題を聞き出す力」「資料化する力」「社内外を調整する力」を持っている。そう分解できれば、カスタマーサクセスにも、業務改善にも、DX推進の補佐にも移れる可能性が見えてきます。職種という看板ではなく、スキルという部品で見ると、橋の架け先が増えるのです。

そしてここが大事なのですが、報告書はプログラミングやデータ分析のような技術スキルだけでなく、コミュニケーション能力などのソフトスキルも共通言語に入れるとしています。説明力、調整力、問題設定力、批判的思考、リーダーシップ。数値化しにくいこれらも、学習・育成・雇用の共通軸に並べる、という発想です。

リハビリの現場で言えば、動作分析に似ています。「歩く」という一連の動きを、股関節・膝・足首という要素に分解して初めて、どこに問題があるのかが見える。人の仕事も同じで、束のまま眺めていては移動先が見えません。スキルに分解して初めて、隣の職業との橋が架かるわけです。

裏を返せば、日本の課題は「スキルの解像度が低い」ことでした。企業は「DX人材がほしい」「即戦力がほしい」と言うけれど、どのスキルが要るのかを具体化できていない。個人も、自分が何を持ち何に活かせるのかを可視化できていない。その曖昧さが、人材評価の不明瞭さや、学ぶ意欲の低さにまでつながっている、という整理です。

2. 動的なものさし:スキル標準は、作って終わりにできない

二つ目の論点は、スキルの「ものさし」そのものを、作って固定してはいけない、というものです。デジタル技術は進み続けるので、スキルの中身も不断に再定義し続ける必要がある。報告書はこれを、社会で使いながら有用性を確かめ続ける「動的なものさし」と呼んでいました。

実感がありますよね。数年前までは「AIを使える」だけで先進的でした。けれど今は、生成AIを業務に組み込める、プロンプトを設計できる、AIの出力を評価できる、情報漏えいや著作権のリスクを判断できる──ここまで来てようやく「使える」と言える。ものさしの目盛りが、わずか数年で引き直されているのです。

だからこそ報告書は、国が整えている「デジタルスキル標準」も、そのまま全部使う教科書ではなく、自社に必要な人材像を組み立てるための部品表のように、取捨選択して柔軟に使うのが望ましいとしています。そして将来ニーズまで取り込んで標準を更新し続けるために、専門家の意見集約に加えて、ビッグデータから作られるスキルタクソノミーの活用も視野に入れ、更新を仕組み化すべきだ、と。前回の「策定から、アップデートの仕組み化へ」という話と、ここでも地続きでした。

この「価値が急に入れ替わる」現象には、スキルディスラプションという名前がついています。Excelの集計が得意で重宝されていた人が、BIツールやRPA、生成AIの普及で、「集計する力」よりも「自動化する力」「データをどう使うか考える力」を問われるようになる。デジタル分野は、この入れ替わりがとりわけ速い領域なのです。

3. 60.0%の壁:人が学べない本当の理由

ここがいちばん刺さりました。報告書は、デジタル人材を取り巻く課題を「労働市場」と「自己啓発」の両面から見ています。

労働市場の側から言うと、講座は増えているのに需要が広がらない、という詰まりがあります。リスキリングを担う事業者やコンテンツは増加傾向。けれど、企業内(内部労働市場)ではスキルベースの評価体系が欠け、転職市場(外部労働市場)でも求人・求職の双方が必要スキルを言語化できずに曖昧なままマッチングしている。だから、せっかく学んでも適切に評価されず、「学んだら給料が上がる」「希望職種に移れる」という実感が生まれない。実感がなければ、人は学び始めません。

そして自己啓発の側。厚生労働省「令和5年度能力開発基本調査(個人調査)」をもとにした図によれば、自己啓発の問題点として正社員がいちばん多く挙げたのは「仕事が忙しくて余裕がない」で60.0%。正社員以外でも同じ理由が最多で37.1%でした。一見すると「時間がない」が壁に見えます。

けれど、ここで止まってはいけないのです。正社員以外では、忙しさに加えて、費用がかかりすぎる、どのコースが自分のキャリアに適切かわからない、そもそも自分の目指すべきキャリアがわからない、といった回答が相対的に大きく出ています。学ぶ時間の前に、何を学べばよいか、学んだ先がどうなるかが見えていない。学習に入る入口の段階で、すでにつまずいている人が多いわけです。

つまり、両者に共通する壁は、時間・費用だけではなく、キャリアの不明確さ、講座情報の不足、学習効果の不透明さでした。だから報告書の最重要メッセージは、講座数を増やすだけでは不十分だ、という一点に集約されます。どのスキルを学べばどのキャリアにつながるのか、その成果が社内外でどう評価されるのか。学んだ先を見える化する土台──それがスキル情報基盤なのです。

4. リメイクの現場への実装

国や労働市場の話は壮大ですが、姫路の小さな営利法人にこそ刺さる中身でした。Re.makeは社会福祉法人ではなく株式会社の3期目で、人を育てる仕組みをいま自前で組み立てている最中だからです。考えている動きを四つに整理します。

ひとつ目は、スタッフのスキルを職種名ではなくスキル単位で棚卸しすること。理学療法士か、相談員か、ドライバーか、という肩書きではなく、「現場の困りごとを言語化できる」「介護記録ソフトを使いこなせる」「送迎・シフト・請求の課題を整理できる」といった力で並べ直す。利用者さんを評価スケールで測るのと同じ要領を、スタッフにも向けるイメージです。

ふたつ目は、ソフトスキルを評価軸から外さないこと。説明力や調整力は数値化しにくいぶん、つい評価から漏れます。けれど現場のDXを本当に進めるのは、その力を持つ人です。技術スキルと並べて、堂々と評価対象に入れます。

三つ目は、「学んだ先」を本人に見せること。研修や資格取得を、やりっぱなしにしない。学んだスキルが、どの業務に、どの役割に、どう活きるのかを、本人と一緒に言葉にする。報告書の言う「評価される実感」を、小さな組織だからこそ最短で届けられます。

四つ目は、スキルの棚卸しを一度きりにせず、半期ごとに更新する動的なものさしにすること。デジタルの世界では、ものさし自体が古くなる。だから測り直す。私自身、理学療法士9年目で経営3年目、いまITストラテジストの試験勉強を続けています。代表がまず自分の物差しを更新し続ける。それが、いちばん地味で確実な人づくりだと考えております。

5. 用語解説

スキル情報基盤
個人のスキル情報を蓄積・可視化し、労働市場で広く活用できるようにする土台。学びを記録するだけでなく、個人・企業・教育事業者・転職市場を「スキルという共通言語」でつなぐ仕組みを指します。

スキルタクソノミー
仕事に必要なスキルを網羅的に一覧化し、分類・体系化した「辞書」のこと。誰が見ても同じ言葉でスキルを語れる、労働市場の共通の物差しです。

動的なものさし
変化の速いスキルを追いかけ、ものさし(スキル標準)自体を更新し続ける考え方。一度決めて終わりにせず、社会で使いながら有用性を確かめ続けるのがポイントです。

スキルディスラプション
技術革新によって、これまで重要だったスキルの価値が急に下がったり、新しいスキルが急に必要になったりすること。デジタル分野でとくに起きやすい現象です。

内部労働市場・外部労働市場
内部は企業の中での人材管理(配置・育成・評価)、外部は転職市場のこと。報告書は、この両方でスキルが共通言語になっていないことを課題に挙げています。

6. まとめ

学ぶ人を増やしたいなら、講座を増やすより先に、「学んだ先」を見える化する。職種ではなくスキルで人を見て、ソフトスキルも共通言語に入れ、ものさしを更新し続け、学びがキャリアと評価につながる実感を届ける。報告書のメッセージは、規模の大小を問いません。むしろ小回りのきく姫路の現場のほうが、明日から手をつけられます。

公定価格で動く介護事業者は、価格を自由に動かせない分、人の力をどう見える化し、どう活かすかが効いてきます。経産省のスキル情報基盤も、前回学んだスキルタクソノミーも、リメイクのスタッフ台帳も、私のITストラテジストの試験勉強も、向かう先はひとつ。人が何をできるのかを正しく測り、正しく活かす。

対決より解決。人づくりこそ、まちづくり。

スキル情報基盤も、動的なものさしも、60.0%の壁も、そしてリメイクの一人ひとりの成長も──全部つながっています。

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