見出し画像

【中小企業白書2025】「捨てない、を経営にする」──循環経済と、リハビリが実は同じ仕事だった話


今日の結論から書きます。中小企業白書2025が説く「循環経済(サーキュラーエコノミー)」は、ひと言でいうと「捨てる前提をやめる経営」です。作って、使って、捨てる。この一直線の流れを、資源がぐるぐる巡る輪に変える。それだけのことなのに、ここに中小企業の生き残りの鍵があると白書は言います。

そして、ここからが本題です。私は理学療法士で、姫路でリハビリ特化型デイサービスを営む小さな株式会社の代表をしています。循環経済の話を読んでいて、ふと手が止まりました。これ、リハビリの仕事そのものじゃないか、と。

捨てられかけた木が、もう一度家になる。衰えかけた身体が、もう一度歩く力を取り戻す。経済の話と、介護の話と、クラウドの話。一見バラバラに見えますが、全部つながっています。





1. まず結論:白書が言う「循環経済」を一言で

中小企業白書2025は、これまでの「線形経済(リニアエコノミー)」からの転換を求めています。線形経済とは、資源を採って、製品を作って、使い終わったら捨てる、という一方通行の流れのことです。

これに対して循環経済は、原材料の調達から廃棄まで、あらゆる段階で資源を効率よく・繰り返し使います。手元にあるモノ(ストック)を活かしきり、サービス化なども通じて、付け加える価値を最大にしていく。その土台にあるのが、おなじみの3R(減らす・繰り返し使う・再生する)による廃棄物の抑制です。

ここで早めに本音を言っておきます。これは環境のいい話、で終わりません。資源が高くなり、人手も足りない時代に、「捨てていた分」を価値に変える経営の話なのです。前回の中小企業白書の記事で、外部環境の不確実さに中小企業がどう構えるかを書きましたが、循環経済はその構えの、攻めの側にあたります。


2. 中規模は進み、小規模は遅れる:3つのつまずき

白書のデータで、私がいちばん刺さったのはここでした。企業の規模で見ると、中規模企業のほうが、小規模事業者よりも循環経済の認知も取組も進んでいるのです。つまり、体力のある会社から動き出していて、小さな会社ほど出遅れている。私のような3期目の小さな株式会社には、耳の痛い事実です。

実際に取り組んでいる会社が何をしているかというと、いちばん多いのが産業廃棄物の削減とリサイクル推進。次が、再生材や環境に配慮した素材を積極的に使うこと。そして、生産ロスを減らし、端材や副産物を再び使う、という順です。やっていることは、決して特別な発明ではありません。

問題は「期待する効果」のほうで、回答でいちばん多かったのが「特にない・分からない」でした。効果がまだ腹落ちしていない。一方で、これを競争力につなげている会社からは、顧客満足度の向上、コストの削減、商品の付加価値や差別化、企業イメージの向上、といった手応えが挙がっています。同じ取組でも、見える人には見えていて、見えない人には見えていない。

推進をはばむ問題点も、きれいに3つ並びました。最多が「コストに見合った収益を上げられない」、次が「具体的な効果や成果が見えない」、その次が「何から取り組めばよいか分からない」。

この3つ、どこかで見た顔ぶれだと思いませんか。私は介護DXで、まったく同じ壁に毎週ぶつかっています。投資が回収できる気がしない、効果が数字で見えない、最初の一歩が分からない。DX白書の回で学んだ「効果が見えないから進まない、進まないから見えない」という堂々めぐりが、循環経済でもそっくり起きているのです。


3. 長野・山翠舎:古木600件超が教える「ノウハウの再利用」

白書には、長野県長野市の株式会社山翠舎という会社の事例が載っています。1930年に建具店として創業した、従業員18名・資本金3,000万円の総合工事業。古木(こぼく)、つまり古い建物から取れる年季の入った木材を活かした内装や、古民家の再生を強みにしています。

きっかけは、社長の素朴な憤りでした。建築現場で古い建物が壊されるとき、まだ十分に使える良質な木材が、当たり前のように捨てられていく。「もったいない」。その一言が出発点です。

ここで効いたのが、再利用したのは木材だけではなかった、という点です。山翠舎は早くから輸入古木の内装を手がけ、古木を扱うノウハウと施工技術を社内に溜め込んでいました。捨てられる木を拾うとき、いっしょに、自社が積み上げてきた経験という資産も再利用したわけです。これはまさに、古いストックに新しい価値を足す循環経済の見本でした。

歩みも具体的です。2006年に古木の買取り・販売を始め、当初は売り先探しに苦戦しながらも、設計から施工まで一貫して提案することで受注を取りました。2009年には店舗デザイン事業を立ち上げ、古木による空間づくりで高い付加価値を生み出します。2013年には古民家の移築再生も始め、「廃材を出さない」方向へ事業を広げていきました。

成果は数字に出ています。2015年に長野県大町市へ日本最大級の古木倉庫兼工場を開設。設計施工の実績は、2016年に累計300件だったものが、足下では600件超(年間50〜60件)にまで伸びました。SDGsという追い風も受け、いまは古民家を活かしたまちづくりを提案する「古民家デベロッパー」を目指し、海外にも挑もうとしています。

「もったいない」が、事業になり、まちづくりになる。前回の姫路経済の記事で、地域の資源をどう循環させるかを考えましたが、山翠舎はその答えを木材で出している会社だと、私は読みました。


4. 理学療法士:私たちは「人の循環経済」をやっている

さて、ここでようやく、最初に手が止まった話に戻ります。

線形の発想で人を見ると、こうなります。元気なうちは働き手で、年を取り、身体が衰えたら、社会の表舞台から退く。一方通行です。けれど循環の発想で見ると、衰えた身体は「捨てる」ものではなく、もう一度動く力を取り戻す対象になります。山翠舎が古木にしたことを、私たち理学療法士は人の身体にしている。そう言ってもいいと思うのです。

リハビリは、失われたように見える機能のなかから、まだ使える力を見つけ出し、磨き直し、もう一度暮らしのなかへ戻していく仕事です。歩けなくなった、ではなく、どう歩く力を巡らせるか。これは廃棄物処理ではなく、立派な資源の再利用です。

私の会社の名前が「Re.make(作り直す)」なのも、ここに通じています。私たちが掲げる "Digital to Social Inclusion" は、デジタルを含むいろんな手立てで、誰ひとり社会からこぼれ落ちないようにする、という考え方です。人を、機能を、役割を、安易に「もう終わり」と切り捨てない。循環経済の根っこにある「もったいない」と、まったく同じ温度だと感じています。

産業保健の回で書いた「働く力を保つ」話も、結局はここにつながります。人の力を使い捨てにしない。いちばん大事な資源は、目の前の人なのです。


5. 経営戦略の目で読む:ITストラテジストの視点

ここで少し、視点の高さを変えます。私はいま、ITストラテジストという試験の勉強をしています。経営の戦略と、ITの戦略を、どう噛み合わせるかを問う資格です。その目で白書の3つのつまずきを読み直すと、これは循環経済だけの悩みではなく、小さな会社みんなが抱える戦略の悩みに見えてきます。

まず「効果が見えない」。戦略の仕事は、見えない効果を測れる形に作り変えることだと、私は学びました。ここで使うのがROI(投資した費用に対する戻りの大きさ)と、KPI(途中経過を測るものさし)です。リメイクでいえば、利用者さんの歩行速度の改善率をKPIに置き、それが利用の継続や満足度にどうつながるかを描く。白書で循環経済を競争力に変えた会社も、効果をちゃんと測る設計をしていました。見えている人は、測っていたのです。

つぎに「何から始めるか分からない」。これには、全体の絵姿を描いてから順番を決める、という戦略の作法で答えます。中規模は進み、小規模は遅れる。体力が違えば、刻み方も変えるべきです。小さな会社はまず一つに絞り、小さく試して効果を掴んでから広げる。全部を一度に背負わないことが、むしろ戦略なのです。

そして山翠舎を、もう一度この目で見ます。彼らがしたのは、古木を扱う技術という「すでに持っていた強み」を見つけ出し、事業の柱に変えたことでした。これは経営資源の棚卸しそのものです。しかも、それを環境の話で止めず、付加価値と差別化という競争力の言葉で語り直した。ITストラテジストの仕事は、最後は経営層への提言で完成します。同じ取り組みでも、伝え方しだいで経営の判断は変わるのです。

前回のクラウド設計の話が「どう作るか」だったとすれば、今回は「なぜ、何を、どれだけ投資して作るか」。現場の理念と、技術の設計と、経営の戦略。同じ循環経済を、別の高さから眺めているだけなのだと、私は考えております。


6. リメイクの現場への実装

では、この循環経済の発想を、明日からのリメイクにどう落とすか。私が動かそうとしているのは、つぎの4つです。

ひとつめは、リハビリ機器と備品の「ストック活用」を見直すこと。新しく買う前に、いま手元にあるものを使いきれているかを点検します。山翠舎の「捨てる前に拾う」を、設備投資の前にやる。

ふたつめは、利用者さんのデータを循環させること。歩行分析や身体機能評価のデータを、取りっぱなしにせず、計画書づくりや次の訓練メニューへ何度も巡らせます。これは介護DXそのもので、データという資源の再利用です。

みっつめは、スタッフの経験という資産の再利用です。山翠舎が古木のノウハウを溜めて武器にしたように、現場の手技や声かけのコツを記録し、新人が何度でも引き出せる形にしていきます。

よっつめは、姫路という地域での循環づくり。リメイクが中核市・姫路の事業者として、地域の人の力をこぼさず巡らせる。これが私たちなりの、まちづくりの循環経済だと考えております。


7. 用語解説

循環経済(サーキュラーエコノミー) 資源を採って・作って・捨てる一方通行をやめ、調達から廃棄まで資源を繰り返し使い、価値を最大にする経済の考え方。3Rがその土台。リハビリでいえば、機能を「失った」で終わらせず、もう一度使える形へ巡らせる発想に近い。

線形経済(リニアエコノミー) 資源を一方向に消費して捨てる、従来型の経済の流れ。循環経済の対になる言葉。

3R 減らす(Reduce)・繰り返し使う(Reuse)・再生する(Recycle)の3つ。廃棄物を抑える基本動作。

古木(こぼく) 古い建物の解体で取れる、年季の入った木材。山翠舎が価値を見出した、捨てられがちな資源の代表例。

ストック すでに手元にある資源や資産のこと。新しく仕入れる前に、これを活かしきれているかが循環経済の出発点。

ITストラテジスト(ST) 経営の戦略とITの戦略を結びつけ、ITで事業を変える道筋を描く役割・国家資格。「どう作るか」より「なぜ・何を作るか」を経営の側から問う。

KPI/ROI KPIは目標へ向かう途中経過を測るものさし、ROIは投じた費用に対する戻りの大きさ。「効果が見えない」を、経営が判断できる数字に翻訳する道具。


8. まとめ

中小企業白書2025の循環経済は、「捨てる前提をやめる経営」でした。中規模は進み、小規模は遅れる。効果が見えない、収益化できない、何から始めるか分からない、という壁は、介護DXの壁とそっくりでした。長野の山翠舎は、古木とノウハウを再利用して、もったいないを事業に変えていました。そして理学療法士の仕事は、人の力を使い捨てにしない「人の循環経済」でした。

ITストラテジストの目で読み直せば、3つの壁は戦略の問題に変わります。効果は測れる形に翻訳し、着手は順番を決めて小さく始め、自社の強みは棚卸しして競争力の言葉で語り直す。現場の理念も、技術の設計も、経営の戦略も、同じ循環経済を別の高さから見ているだけでした。

捨てられかけた木が、もう一度家になる。衰えかけた身体が、もう一度歩く。データが、経験が、地域の人の力が、巡り続ける。

対決より解決。人づくりこそ、まちづくり。

全部つながっています。


#Digital_to_Social_Inclusion #理学療法士 #介護DX #介護経営 #ITストラテジスト #姫路市 #人づくり #まちづくり #中小企業白書 #健康経営


いいなと思ったら応援しよう!