【中小企業白書2025】「BCPは"守りの書類"ではなく"攻めの仕組み"」──策定率16.5%、近畿18.4%、それでも作った会社が強くなる理由
「BCPって、災害が来たときのための書類でしょう?」──そう思っている経営者は多いと思います。けれど2025年版の中小企業白書を読むと、結論はもう少し前向きでした。BCPをちゃんと作った会社は、顧客の信頼が増え、コストが下がり、人が辞めにくくなる。災害対策のはずが、平時の経営まで強くしていた、ということです。
リハビリの現場と、ITと、地域の中小企業。一見バラバラに見えますが、全部つながっています。私は姫路でリハビリ特化型デイサービス「Remake」を営む、株式会社の3期目の経営者です。BCPは大企業や工場の話ではなく、小さなデイサービスにとっても自分ごととして読みました。今日はその中身を、現場の言葉で整理してみます。

1. 16.5%:大企業の半分以下という、中小のBCP策定率
まず数字の話から。白書の第1-2-17図によると、2024年時点のBCP策定率は、大企業が37.1%、中小企業が16.5%でした。中小も少しずつ上がってはいるのですが、大企業の半分にも届いていません。同じ国の企業でも、規模で備えの厚みがこれだけ違うのです。
BCPとは、災害や感染症で業務が止まりそうになったとき、なるべく止めない、止まっても早く戻すための「事業継続計画」のこと(→用語解説参照)。前回、介護BCPの記事で「未完成でいいから、まず作って回し続ける」という話をしました。あの「文化として育てる」発想を、いざ中小企業全体で見渡すと、そもそも作っている会社が6社に1社しかない、という景色になります。
地域差も無視できません。第1-2-18図では全体の策定率が19.8%。最も高いのは四国の23.7%で、最も低いのは九州の15.1%でした。そして私たちのいる近畿は18.4%と、全国平均をやや下回っています。姫路を含む播磨も、決して備えが厚い地域とは言えない、という現在地です。
なぜ地域で差が出るのか。白書は、想定される災害リスクが地域ごとに違うことを理由のひとつに挙げています。豪雨が多い土地、雪害が多い土地、地震が警戒される土地。リスクの顔つきが違えば、備えの優先順位も変わる。BCPは「全国一律の正解」ではなく、その土地ごとに描き直すものだということが、この地図から見えてきます。
2. 安否確認65.7%:BCPは「人」と「データ」から始まる
では、BCPに取り組む会社は、まず何から手をつけているのか。第1-2-19図がそれを教えてくれます。中小企業で最も多いのは従業員の安否確認手段の整備で65.7%。次が情報システムのバックアップで55.0%。そして緊急時の指揮・命令系統の構築が39.6%と続きます。
並び順に意味があります。最初に来るのが「人の安否」で、次が「データの保全」。前回の介護BCPの記事で、感染症対応の優先順位は「①職員の安全→②サービス継続→③利用者の安全」だと学びました。災害でも発想は同じです。人が動けて、データが残っていて、はじめて事業は続けられる。順番が、そのまま現場の急所を示しています。
具体的に翻訳すると、安否確認の整備とは「災害時に職員全員へ一斉連絡できる仕組みを持つこと」。情報システムのバックアップとは「利用者情報や請求データ、勤怠データをクラウドや外部に保存しておくこと」。指揮命令系統の構築とは「管理者が出勤できないとき、誰が送迎の中止や営業可否を決めるかを先に決めておくこと」です。どれも特別な設備より、まず「決めておく」ことが効きます。
気になるのは規模による差です。白書は、資金計画の策定を除くほぼすべての項目で、中小企業より小規模事業者のほうが取り組みが遅れていると整理しています。安否確認も、バックアップも、指揮命令系統も、会社が小さいほど後回しになりがち。人手が薄いところほど、本当は備えが効くはずなのに、その備えに手が回らない。ここに小さな事業所ならではのジレンマがあります。
3. 「作り方がわからない」41.0%:壁は必要性より、実務にある
では、作っていない会社は、なぜ作らないのか。第1-2-20図の答えは、ちょっと意外でした。中小企業で最も多い理由は「策定に必要なスキル・ノウハウがない」で41.0%。次が「策定する人材を確保できない」34.0%、「時間を確保できない」27.9%。つまり「必要ないから作らない」のではなく、必要だとは思うけれど作り方がわからない、という会社が多いのです。
ここは大事なところなので、ひと言で押さえておきます。
BCPが進まない最大の壁は、危機感の不足ではなく、ノウハウ・人材・時間というリソース不足だ。
ただし、小規模事業者だけは少し顔つきが違います。「必要性を感じない」と答えた割合が26.3%で、中小企業の21.0%を上回りました。日々の営業と人手不足に追われ、BCPの優先順位がどうしても下がってしまう。小さな会社ほど「いまそれどころじゃない」という本音が出やすい構造です。
もうひとつ見逃せないのが、「書類作りで終わってしまい、実践的に使える計画にすることが難しい」という回答が中小企業で24.8%あったこと。前回の介護BCPの記事で触れた「BCPは紙ではなく文化」という話と、ぴたり重なります。テンプレートを埋めて満足してしまうと、いざというとき動けない。作ること自体より、動ける形に育てることのほうが、ずっと難しいわけです。
4. 山形のマムロ:BCPが信頼とコスト削減に化けた一社
数字の話が続いたので、最後は一社の物語で締めます。白書が事例として紹介するのは、山形県真室川町のアイ・エム・マムロ株式会社。従業員86名、高級腕時計や工作機械の精密部品を組み立てる会社です。本社のある町は一級河川が横切り、水害が起きやすく、冬には積雪が1.5メートルに達し、雪害による停電のリスクも抱えています。
転機は2018年の豪雨水害でした。自社に直接の被害はなかったものの、社長は従業員と家族を守る備えの必要性を痛感します。そこから同社は、納品ルートや代替仕入先、最小人員での運営をテーマに何度も話し合い、2019年に事業継続力強化計画を策定しました。このとき貫いたのが「自社にしかできない事業か」という問い。何でも守るのではなく、他社で代われることは切り捨て、守るべき中核業務を絞り込んだのです。限られた人員で要を守る、というBCPの本質がここにあります。
面白いのは、その先です。同社は安否確認システムや非常用自家発電機を入れ、納品車に通信型ドライブレコーダーを設置しました。すると、こうした備えが顧客からの信頼につながり、取引継続や新規開拓に効いてきた。さらに代替仕入先を日頃から検討し、製造工程を最小人員で回せるよう見直したことが、平時のコスト削減と生産効率の向上まで生んだのです。災害のために削いだ無駄が、ふだんの利益を太くした、という逆転がここにあります。
人の面でも効きました。若者が都市部へ流出する地域で、災害対策の徹底は職員の安心、つまり心理的安全性を支え、人材確保の一助になっている。BCPは「会社を守る計画」であると同時に、「安心して働ける会社をつくる仕事」でもあった。前回、事業承継の記事で「世代が変わっても止まらない設計」の話をしましたが、止まらない会社は、働く人にとっても選ばれる会社になる。マムロの事例は、それを静かに証明しています。
5. リメイクの現場への実装
ここまでを、姫路の小さなデイサービスにどう落とすか。私が考えている動きは、次の四つです。
ひとつ目は、安否確認とデータ保全を「最初の一歩」に据えること。立派な計画書より前に、職員へ一斉連絡できる手段と、利用者情報・請求データ・勤怠データのクラウドバックアップを先に固めます。白書が示すように、強い会社もまずここから始めています。
ふたつ目は、「管理者が出勤できない日」の指揮命令を紙に書くこと。送迎を止めるか、営業するか、誰がどの順で判断するか。中小の39.6%しか整えていないこの部分を、小さい事業所こそ先に決めておきます。
三つ目は、中核業務を絞る問いを持つこと。マムロにならい「リメイクにしかできないことは何か」を平時から問い、災害時に何を残し何を止めるかの線引きを、職員と共有します。これは個別機能訓練やAI姿勢分析といった、私たちの強みを再確認する作業でもあります。
四つ目は、四半期ごとに見直すこと。未策定理由の「書類で終わる」を避けるため、3か月に一度、訓練と更新を回す。完璧を待たず、未完成のまま育てる。前回の介護BCPの記事の結論を、ここでも貫きます。
6. 用語解説
BCP(ビジネス・コンティニュイティ・プラン/事業継続計画)
災害や感染症、停電、システム障害などが起きても、重要な業務を止めない、または早く復旧させるための計画。会社版の「防災リュック+復旧手順書」だと考えると近いです。
事業継続力強化計画
中小企業が防災・減災の取り組みをまとめ、国(経済産業大臣)の認定を受ける制度。BCPより着手しやすい入口として位置づけられ、認定を受けると税制や金融の支援を受けられる場合があります(具体的な適用は専門家への確認が前提です)。
指揮・命令系統
緊急時に「誰が何を決めるか」をあらかじめ決めておく仕組み。管理者が不在でも判断が止まらないようにする、組織の背骨のような部分です。
心理的安全性
職場で安心して発言・行動でき、不安や恐れにとらわれずに働ける状態。災害対策が整っていること自体が、職員のこの安心を支える、と白書の事例は示しています。
7. まとめ
中小企業白書2025の第4節は、BCPについて、策定率は上がっているが中小ではまだ16.5%と低いこと、近畿18.4%のように地域差があること、実施内容は安否確認とデータ保全と指揮命令系統が中心であること、未策定の壁は危機感より実務にあること、そしてBCPは災害対策にとどまらず信頼・コスト・生産性・人材確保にまでつながること、という流れで描いていました。
公定価格で動く介護事業者は、価格を自由に動かせない分、止まらない仕組みづくりが効いてきます。安否確認とバックアップから始め、判断の順番を決め、中核を絞り、未完成のまま回し続ける。山形のマムロが見せたように、守りのための備えは、いつのまにか攻めの強さに変わっていきます。
「対決より解決。人づくりこそ、まちづくり。」
災害と「対決」するのではなく、限られた人と時間でどう「解決」するかを、平時から組織で考え続けること。その積み重ねが、止まらない会社をつくり、安心して働ける場所をつくり、地域に残る事業所をつくっていく。
全部つながっています。
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