ショートショート「大嘘寺」※毎週ショートショートnote12/7お題
秋晴れ空に浮かぶ花畑と見紛うほどに、山の装いは鮮やかだった。
この絶景で、私の沈んでいた心も、僅かばかりに重しを外せたのならよかったのだが。
そのひとひらの葉を拾い上げて、住職は言った。
「この葉には、平安時代から寺に伝えられる、ある伝説がありまして」
つきたての餅を想像させる柔和な笑み。
しかし、後ろめたい心内を見透かすような視線を向けられ、ドキリと心臓が跳ねた。
曰く、その葉は、訪れた人が抱えている大きな嘘を映し取り、赤や黄色に染まると言う。
「ならば私は、さぞやこの紅葉を美しく色づかせてしまったことでしょう」
自虐的に話す私に、住職は笑い皺を深めて言う。
「…お子さんは、何となく気づいていますよ」
私は、氷柱で喉元を貫かれた錯覚がして、顔を上げる。
「何故…それを」
住職は答えず、紅葉を仰いで続けた。
「あなたは、どの親よりも本物であろうとした。生半な覚悟では、あれほど立派に育てることはかないません」
住職は振り向く。
「あなたの世界一優しい大嘘は、もう、本物ですよ」
その言葉は、私の灰色の世界に紅葉を散らすように、一陣の風を感じさせた。
と。
「嘘つき!」
字面に似合わない、コロコロと、からかうような声が、私の背後から響いた。
「何で来たんだよ……」
頬を濡らす雨が、降り止まない。
だから、私は振り向けない。
「やれやれ」
住職は困ったように笑いながら、頭を振った。
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