見出し画像

ショートショート「雨乞い難民」  ※毎週ショートショートnote2/15お題



 いつからだろう。
 あんなに鬱陶しいと思っていた雨を、待ち遠しく思うようになったのは。
 そんなことは分かりきっているのに、つい考えてしまう。
 
 突然の雨は、傘を持たない私を盛大に濡れ鼠に仕立て上げた。
 髪は顔に張り付き、アイシャドウが溶けてパンダよろしく黒ブチ化粧と相成った。
 私は、とりあえずの避難先として、閑古鳥が鳴き疲れたような喫茶店を選んだ。

 「いらっしゃい。やられたね」

 差し出されたタオルをおずおずと受け取り、濡れた全身を一通り拭き終わると、店主の照れたような笑顔が、そこにあった。
 雨の音が遠ざかる。
 濡れた身体は震えていた。
 でも、その震えは、身体の芯からもたらされたものだった。
 何を話したのかも覚えていないけれど、熱いコーヒーに、雨に濡れた土の匂いのような懐かしさを感じた気がする。
 
 以来、私は、喫茶店で澄ました顔を繕いながら、雨を待ち侘びている。
 今日も、外は気持ちのいい秋晴れだった。

 「今日は待ち人が来るといいね」

 店主は、どこか遠い目を入り口に向ける。
 この店主ときたら、あの日の客が私だと気付かない。
 私は、磨き上げられた窓に映る、綻びのない顔を眺めながら、深いため息をついた。









こちらの企画に参加させていただきました。

 
 
 

いいなと思ったら応援しよう!

蜃気楼 お気持ちをいただければ、より頑張ります!

この記事が参加している募集