見出し画像

ショートショート「木工用バント」※毎週ショートショートnote3/15お題


 カンキンカン―――
 釘を叩く音楽が響く。
 トンテンカンカンキンカン――――
 ヒノキとスギの薫りが風に乗って揺らいでいる。
 「おい、ネコ持ってこい!」
 「サンダーまだかよ、何してんだ!」
 相槌のようにリズムを刻む怒号。
 木材が、組まれ、打たれ、塗られ、その輪郭を創り上げていく。
 そこには施主の想い、デザイナーの美意識、大工の技巧が宿っている。
 「善さん!頼んます!」
 善と呼ばれた老人が立ち上がる。
 ほんの少しかがむだけで軋みはじめる関節に、だが顔に出さずに舌を打つ。
 一本のヒノキにカンナをかける。
 天の羽衣を思わせる、美しい削り華が空に舞う。
 「おい、見ろよ」
 「ああ、あの絶技……美しいな」
 称賛の声は、男の耳に届かない。
 シャッ シャ
 一心に、腰を屈めて左右に揺らぎ、極上の音楽を紡ぐ。
 クセの強い職人達の視線を一身に集めて。
 かつて、それは「人生送りバント」と称された。
 球界を引退して久しい男の後ろ姿に、その人生を思って、職人達は涙する。
 「なぁに、単なる木工用バントだよ」
 男の呟きに、職人達は口元を緩めた。
 








いいなと思ったら応援しよう!

蜃気楼 お気持ちをいただければ、より頑張ります!